確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

まだ獣にはなれない5

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「怖くないならいいか。無理してないか」
「してない、ちゅうもこわくなかったし」



 スピカがそっかそっかと言って、じゃあそっちはセイリオスに任せようとヒカリの体を少し抱え、セイリオスに預けた。



 決して乱暴ではなく、ヒカリの体重など感じていないかのようにいとも容易く。音にするならひょいっという音だ。


 それを預かるセイリオスもセイリオスで揺らぎもしない。え、壁?  壁なの?  椅子でも座ったらぎいっとかなるけど。




 スピカは徐々に、二人でヒカリの視界を一杯にしていった。嗅覚も聴覚も二人で一杯にしていく。

 ヒカリは少しずつ包囲網ができていくのに気づかずにペタリと、セイリオスの胸に手を置いた。

 セイリオスの心臓がトクトクしている。




「セイリオスのこと見ときな。ヒカリ、着たままにするか? 脱ぐか?」
「ん? ぬぐ」

 汚れたら大変だ。
 精液がついてカピカピになった服はなかなか汚れが取れなくて、だいぶ困る代物になる。


 そう思ってパジャマの上のボタンをプツプツ取っていたらセイリオスがスっと手を出して静止させた。


「えっ、上も脱ぐのか?」

 もう肩がずるりと半分でた状態のヒカリの肩をパジャマで隠す。


「え、脱がないと汚れちゃうよ?」
「そうなんだが……、その、寒かったり、恥ずかしかったりとかないか」


 寒くはない。隣に二人がいるから寒くはない。
 というか二人に挟まれて熱いくらい。



 恥ずかしいか。それはあんまり考えたことなかったな。


 すごく今更な質問だ。
 恥ずかしいと言えば、例えばこうやって裸を見られることか。
 射精を手伝ってもらう事か。


 泣いたのを見られたこともあるし、裸だって何回も見られているし。
 言ってしまえば、食事の世話も、オムツの世話も何だってされているわけで。


 この二人に見られて嫌な事なんかあるのだろうか。
 もう全部見られていると思う。


 だからヒカリの返事は。




「ない!」


 にっこり笑って言えば、セイリオスが手のひらで顔を隠してそうかという。


 スピカがまぁ、そんな感じだと思ったけどと苦笑する。



「あ! そういうこと?」
「何がだ?」
「セイリオスがいやだた?」


 そういえばセイリオスはヒカリの古傷を見るたびに悲しい顔をしていたし、今現在ヒカリのお腹には新しい傷が鎮座しているわけで。
 すっかり失念していたとボタンを一つ一つ閉めなおしていく。


 で、またその手をセイリオスが制止する。ちょっとだけムッとした顔をしている気がする。


「いやなわけあるか」
「むりよくないよ」
「無理なわけあるか」


 止まったヒカリの代わりにセイリオスがヒカリのボタンを片手でプツリプツリと取っていく。

 片手でボタン開けられるのはやっぱり器用だなぁなんて思いながらパジャマの前を見ている。


「このパジャマ好きだから、よごしたくなかたからよかった」



 上はセイリオスが脱がせてくれるそうなので下は自分で脱ぐかと、ごそごそしたヒカリにスピカが声をかける。


「なんでそのパジャマ好きなの?」
「がらがすきー」


 ヒカリがズボンを脱いで自分で見てみるが、やっぱり下着をぐいぐい突き破ろうとしているように性器がたっているのを見てちょっとため息。




 ヒカリのパジャマは、家にあった大きな布を繕ったものだ。

 裾と袖のところで小さい柄がある。太陽が真上に上っていて、次に赤い屋根の家がある。
 その左には夕日があって、次に月が昇っててお花を照らしているような刺繍が施されている。


 よく見ないと小さい柄で何でもないのだが、それが余計可愛い。

 古い布で虫食いとかもあったので外行き用には微妙だという人型の判断で、穴を繕ってパジャマにした。
 柄がどこにくるかよく考えながら繕ったのでその柄が裾と袖のところにある工夫した一品でお気に入りなのだ。

 因みにズボンも同じだ。




 脱いだズボンを丁寧にたたむとボタンをすべて開けた上の方をスピカが脱がせ、畳む。

 残ったのは下着だけだ。さっさとタンクトップも脱いでそれはセイリオスが畳む。



 残ったパンツを脱いだら、こんなに時間がたったのにまだぴょこんと元気に出てきてちょっと恨めしい自分の性器をにらむ。





 ヒカリが目覚めなかったときにヒカリのものに触れたことはあるが、まじまじとは見たことがなかったセイリオスからしたら、なにこれ、可愛い、だ。



 完全に起ちきっている状態ではないし、何だか頑張って立ち上がって見せようとしている途中に見えるし、ペニスに対してこんな感情を持つとはと驚愕だが、健気な感じがする。


 これを恨めしく見ているヒカリがセイリオスの完全なる勃起状態を見たら、きっと怖がるだろうから見せないでおこう。



 たとえて言うならヒカリのはサクランボみたいで、自分のはオクトパみたいなくらい違う。何だかジャンルが違う。



 そう思うくらい、可愛い。




 そんな頭が馬鹿になり始めているセイリオスの顔が何とも言えない顔で、そんなバカは置いておいてスピカが診察を始めた。



「いつもどれくらい勃起し続ける?」
「えと、数えてないけど、一時間とかはふつー、むりやり寝ておきたらおわてる」
「痛みは?」
「長く続いたときとか、もうちょっとこれがここくらいまで来たときとかは」
「そうか、この間の診察では鼠径部に怪我は見られないし」



 スピカがぶつぶつ言う。本当の診察みたいだと少し落ち着く。


 でも性器はぴょこんとしたまま。
 自分の一部ながら意志通りにならないのが、本当に腹立たしくなった。


 スピカが青い軟膏にヒカリの好きな香りがする香油を混ぜたものをヒカリのペニスに塗り付けた。
 その後に氷を掌に出して、「はーい、ちょっと冷たいよー」とヒカリの性器につける。


 冷たくて震えながら耐えたがやっぱり収まらない。
 それどころかなんか先っちょからちょっと液体が出て、スピカの手を汚すものだから急いでスピカの手を拭う。



「ヒカリ、サンキュ。でな、やっぱり診察的には勃起持続の病気ではないと思う。俺の見立て通りなら薬の偽反応の一つと精神的なものだ。ヒカリの体が健康になってきた証拠できっと勃起するようになったんだ」
「わお、健康の証拠だたの!?」

「そうだ。だけど、薬の偽反応でそれが収まらない。性的興奮を無理やりさせられている状態かな。さらにヒカリが勃起して射精すること自体に対して嫌なことがあるから体が射精へと導かないようになってしまっている。今の分かる?」
「あー、えと、わかる」


 それはあれだろう。
 ちょーきょーの結果の賜物ということだ。
 確かにあれは痛かったなぁ。
 というか、あのハサミが肉を切る感触が気持ち悪くて、痛みは覚えていられないほどだった。


 熱い、焼けているみたいな。





 と思い出そうとしたらセイリオスがおでこにちゅうをした。


 そのままちょっと止まる。
 おでこにちゅうしたまま何か呟いている。



「ふふふ、くすぐったい」
「ん、まじないをかけておいた」
「まじない?」
「ヒカリが嫌なことを思い出したら、俺の事を思い出すように」
「ふふふ」
「俺でもいいぞー」


 それ、もうしてるなぁ。
 と思ったら可笑しくなって笑ってしまう。
 同じ事を考えているなんて。


「というわけで、おまじないもかけてもらったし、訓練するかー! 題してヒカリの気持ちいいを取り戻そう訓練な?」
「とりも、どす?」
「取り戻す、な。今さ、ヒカリの気持ちいいとかってちょっとだけ足りないんだよ。とられちゃったまんまな訳ね」



 振り返ってスピカを見れば、眉を上げて、口をタコのようにしている。
 何故かおどけた顔をしていて。
 それに少し吹き出した。



 スピカが笑ったヒカリを見て、すごく柔らかく笑う。


 だからさ、取り戻すんだよ。俺だったら盗られたまんまなのは腹立つし、自分で取り返せるなら取り返したくないか?



 頼もしい主治医の顔を見ていたら、その指がヒカリの立ち上がっているペニスの裏筋をつつつと撫でた。


「あうっ」
「一緒に、ゆっくりでいいから、取り返そうな? 」




 うちの主治医は何故か確信をもってそう言っている気がして、ヒカリはその信頼に答えるべく。



「よろしくお願いします」


 と返して、セイリオスがまたもやなんとも言えない顔をした。

   







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