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第3章
パーティーの終わりは終わらない2
しおりを挟むそんなことを話したらセイリオスがそっかという。スピカが大変な道のりだななんて言う。
そっか、て。大変って。
本当に信じてくれているのだろうか。目を見たらわかる。
でも目を見るのが怖くて下を向いたまま、言いたいことを言おうと自分を叱咤する。
「だから、僕、二人に会えてすごくうれしかったの」
「そうか」
「僕のいる場所がなくなたと思ってたから。ふ、ふたりにあえて、かってに、ここが僕のいていい場所とおもった。帰ってきてもいい場所と思った」
「そっか」
「でも、そうじゃないっておもて。期限付きと思わないといけないとおもった。いつか出ていかないといけないって」
二人がただ聞いてくれるだけだから、言わなきゃいけない事じゃなくて言いたいことばっかりが出てきてしまう。
止まらない。
おかえりっていいたいの。お帰りって言われたいの。
ただいまって言いたい。言ってもいい?
ぼく、ぼく。
「ぼくね。わがまま言ってもいい?」
「なんだ」
「僕、ふたりが、許してくれるなら。ずっとここで、二人と、暮らしたい。だめ、かなぁ? ぼく、大好きなんだ。ふたりのこと。友達みたいと思うし、か、家族みたいと思うの」
ちゅうしたいくらい。大好きなんだ。
「まだ、おんもかえせてない、し、たくさん、めいわくかけ、てるけど。この世界が優しいって、信じられるのは、二人のおかげだから。ぼくがいきていくために、ぼくがこの世界をしんじるために、二人と一緒にいたいの。わが、ままてわかってるけど」
二人のもとに帰れないと思ったら、ぼくもう、続けていけないと思った。
二人のところに帰るんだと思ったら、頑張れたんだよ。
「二人が優しすぎて、かっこよすぎて、ステキすぎて、だいじっておもうの。だいすぎなの。いっしょがむりだたら、おとなりさんでもいいの。二人と離れたくないんだ。ぼくが諦めないように、おかえりって、ただいまって言ってもいい? ここに帰ってきたいよ」
おんなじお皿を延々拭き続けるものだからスピカは片づける皿がないし、セイリオスも皿を重ねる場所がなくなってしまった。
たどたどしく、閊えながら話していたらあと少しで12時の鐘が鳴りそうだった。
「ヒカリ?」
セイリオスが声をかけるとヒカリがぴくっと肩を揺らす。
それをスピカが抱える。
「えっとな、気付いていないかもしれないが。それはもうしてるんじゃないか?」
「……え?」
「おかえりもただいまも、ついでに言えば、おはようもおやすみも。いただきますもごちそうさまも。ヒカリって呼ぶのも、ヒカリが俺たちの名前を呼んでくれるのも。俺はもうそれが、その、生活の一部になってるんだが」
パチパチと目を瞬かせる。確かにと口だけがつぶやく。
セイリオスが濡れた手をエプロンで拭いた。
「それと、これは俺の要望でもあるんだが、毎日、おはようもいってきますも、いただきますもごちそうさまも、お帰りもただいまも。そして毎日、セイリオスってヒカリが呼んでくれない生活に俺は戻れそうもないんだ。ヒカリが寝ている10日間。いつその目が俺を見てくれるのか。俺は毎日待ってたよ。もし一生その目が俺を映さないと言われても、俺はきっと待ってたと思う」
言いたいことわかるか? とセイリオスがヒカリに視線を合わせるためにしゃがみこむ。
「ヒカリがもしよかったらなんだが、ここで一緒に暮らさないか? 俺はヒカリと友達でも家族でも何でもいい。ヒカリがいると俺の生活に光が射すんだ。どんな形でもいい。一緒にいてくれないか? 言ったことがあるかもしれないが、俺はヒカリが大好きだ。奇跡を望んでしまうくらい」
ヒカリの目の表面に水の膜ができて、ヒカリは前を向いたまま動けなくなった。
今動いたらこぼれてしまうから。
息もできないくらい。動けない。
それなのに目線を合わせたセイリオスが少し困ったような顔でとどめを刺す。
「……なぁ、だめか?」
「だべじゃだいー」
せき止めていた涙が決壊した。
だめじゃないけどー、ぼくまほーないせかいから、きたがらーまほーつかえないかもしれないしー、しんちょーものびないからこどもとまちがわれるしー、セイリオスたちみたいに筋肉もないから、てつだえることすくないしー、たすけてあげられないしー。
みたいなことをよく考えもせずにえぐえぐ言い募る。
セイリオスたちも律儀に一つ一つしっかり聞き取る。
魔法が使えないのがダメならセイリオスもダメになるなー。
子どもの何が悪いんだ?
タウだって筋肉はないが、あいつがいないと電撃ビリビリくんは完成しなかったぞ。
などと返事までしてくる。
最終的には、スピカがヒカリの頭に顎を載せてこんなことを言う。
「じゃあさ、そんなに手伝いたいなら、まずはさっさとお皿拭いて片付けちゃおうぜ」
「はぁ、あ、い!」
スンスン鼻をすすりながらたまっていたお皿洗いの手伝いをしっかりこなすので、セイリオスは笑いをこらえるのに必死だった。
因みにソファの上では嗚咽を我慢して震えているタウがいる。
タウは本当に寝ていたのだが、ヒカリが目の前に来てちょっと寂しそうにでも楽しそうに庭を見ているものだから起きることができなくなった。
盗み聞きしようとは思っていなかった。
いいなあとか呟くし、でもクスクス隠れるように笑っているし。
今、起きたら無理させちゃうかなと思って寝たふり一択をしたら、キッチンから所々聞こえる声。
俺、今セイリオスに抱き着きたい気分。と嗚咽を我慢した。
いつの間にか居間の窓の近くに寄ってきた飲んだくれが固まってちびちび酒盛りをしている。
飲んだくれたちは確信犯だ。
ダーナーの隣で寝てたケーティなんか朝まで居座る気で、ダーナーに抱き着いている。
ダーナーとカシオはヒカリが寝てしまうまでいるつもりで、ずっとちびちび飲んでいただけで盗み聞きするつもりは全くなかったが、いい話は聞いても別に悪かないだろうと窓の近くまでそろりそろり。
小さく乾杯もしていた。
というのは誰も気づいていないということにしておこうと誰もが思って、静かに12時を知らせる音が鳴った。
二人がいればまだまだ楽しい、嬉しい夜は続くのだ。
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