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第3章
闘えないとは言っていない32
しおりを挟む決闘は騎士が持つ権利の一だ。
名誉挽回、汚名返上したいときに相手に対して決闘を挑む。それで相手を殺してしまっても罪には問わないというものである。
もちろん、弱そうな一般人に対してそんなことはできないシステムになっていて、決闘するなら申請がいる。
あとからでもできるが、たいてい先に申請する。
そこから監視官を派遣してもらい、決闘の行方がどうなるか見届けるというものだ。
決闘というと日時と場所を事前に連絡して大勢の前で行う。
一般人もやってきて観客となってまるでお祭り騒ぎのようになるため、むやみに決闘をするということ自体が最近流行の騎士道からは外れている。それゆえあまりやらない。
例えば一昔前の決闘の理由で一番多かったのは「不倫」「浮気」である。
取ったとか取られたとかぐらいならいいが、その噂が広まらないわけはないし、不倫、浮気した当人が出てきて赤裸々な公開処刑みたいなことになることも多かった。
かつての騎士は貴族しかいなかったこともあり。庶民はそれは面白おかしく決闘を茶化した。
で、少しずつ、それを見ていた下の世代が徐々に決闘ってなんかちょっと恥ずかしいと思うようになり、本当にここぞというとき以外に決闘などということはなくなった。
だから今回の決闘も慌てたのは騎士課の方だった。
決闘をするということは正式な文書に残る。理由としては名誉棄損と言えばそうだろう。
しかし相手が悪い。
ただの魔道具関連課の職員に挑んだとなれば、それを許可してしまった上司の方としては恥ずかしいものである。
騎士道に反している。
相手が上の貴族であったり、すごい悪党ならいざ知らず。ただの普通の庶民の魔道具関連課という特に権力もない部署の職員。
さらに騎士課副課長はダーナーとカシオの教え子であるという青年を調査した。
騎士課に学生の頃の同期がいたので話を聞きに行ったぐらいのことだが。
「え、セイリオスですか? なんか話せって言われてもなぁ。あいつおせっかいでしょ? 困ってるやつがいたら知らないふりして助けてるし、でも驕ったところもなくって」
話を聞かせてくれた騎士はセイリオスの名まえを出しただけで、表情が柔らかくなった。
「俺が街でガラの悪い連中に囲まれているときも大して知らない俺のこと助けてくれたんですよ。俺、あいつのこと移民だからってバカにしてたんですけど。両手に紙袋持ったまま足だけでのしていって。どうしてって聞けば、自分が警吏を呼ぶ手間と、自分が加勢する手間を考えたら効率が良いほうがこっちだっただけだがとか言うんですよ。変わってますよね。しかも、この騎士課の鎧の携帯用水分補給用ポケット、関わってるのセイリオスですよ。こまめな水分補給をしろって。母親みたいでしょ?」
と実に楽しそうに話す。しかも今度俺も手合わせ願おうかなとか言って去っていった。
部下の管理が行き届いていないのは重々理解した副課長は、この決闘を避けなければならない。
騎士課課長は貴族びいきだから、部下を信頼しているようだが。
はぁとため息もつきたくなる。
以前王城のごたごたのせいで騎士課の方も人員がかなり減った。派閥争いで残ったのがこちらというだけである。もしくは傍観を決め込んだものもいるが。
人がいなくなって勤続年数だけはある自分が副課長になったが、それでもはびこる貴族至上主義に一人で対応するのは骨が折れた。
それで部下の教育もうまくいかず、小さな小競り合いが続く。
うちの騎士課長は貴族の位は上だし、しかし実家に言いなりで傍観を決め込んだだけの人物だから役に立たない。そのうえどちらかと言えば貴族至上主義の一人だ。
そして、この件をどうにか穏便に片付けるため自分の上司と警吏課へ足を運んで実現したのがこの「合同訓練」であった。
決闘はしなくていいが、証拠提出に頑として首を振らない上司と部下を納得させるためにはそのプライドをへし折
ってやるのが一番だと警吏課副課長に言われたのだ。
本当に疲れた。
10日かそこらであの頑固な上司の首を縦に振らせること。日程の調整。馬鹿な部下が決闘申込書を持っていた時はひったくった。
そうして実現した合同訓練会にヒカリも行くつもりだったのだが、セイリオスが許可をしてくれなかったのが昨日。
せっかく練習したのになと部屋で一人しょんぼりしていたら、こっそりスピカがやってきて言った。
「ヒカリ、明日の準備しておこうな。午前は合同訓練見に行くぞ。主治医がいいって言ってんだから誰にも邪魔はさせないから。1日忙しくなるから、今日は寝られるように特別ホットミルク、蜂蜜マシマシ、花の香りとともにを作ったから。安心して寝な?」
「ちょとまて! そんなの寝られないよ。ドキドキするから」
「そう来たか……、じゃあ俺がとっておきの話をして笑い疲れさせて寝かせてやろう。そう、あれはある晴れた昼下がりのことでした……」
階下では言い過ぎたかなと反省中のセイリオスが聞こえてきた笑い声にスピカに感謝をしていた。
二階で悪だくみをしているとも知らずに。
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