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第3章
闘えないとは言っていない31
しおりを挟む人の争いや闘うことがどうしてもだめなわけではない。
むしろ、日本にいたころはバトル物も好きだったし、格闘技とかを見るのも好きだった。
何が精神的に参ってしまうのかもいまいちわかっていないなら、色々見てみるしかないという結論に至った。
苦手なものが何か確定してからでないと克服もできない。
みたいなことが朝、目を覚ましたヒカリの頭にポンッと浮かんだ。きっと寝ている間も頭はぐるぐる動いていたのだろう。しっかり寝ないとなぁ。
しかし、最大の難関はあの二人だ。
ポンコツ兄ちゃんと化したヒカリは、あの二人にとってはただの庇護対象。
格闘になんて触れさせてもらえそうにない。
で、朝ごはんを食べている間にまた閃いた。
あ、そうだ。ダーナーに頼もうと。
ヒカリに手厳しいことを言ったことのある人だから、きっと、甘えさせるわけがないと思ったのだ。
いい考えだと閃いたらさっさと行こうと足が早まる。
単純なもので何か前に進めることが出てきたら、気分も少し前向きになった。
「いいか、ヒノ。 ちょっとでも気分が悪くなったら言えよ。無理したらもう二度と見せないからな」
「はい」
「……本当にわかってるのか、不安だな」
「だいじょぶ、皆さんの邪魔には、ならないようにします」
「俺も見てるし大丈夫ですよ。課長」
そういってヒカリと同じ椅子に座っているのはダーナーより体の大きな人で、ヒカリが来たらいつもどこかへ行ってしまっていた人だ。今日初めて話したが、普通にいい人だった。
いつもはヒカリが来たら姿を隠すジラウは、警吏一、体の大きな男だった。
本日は足を捻挫してしまっていたので内勤業務だったのだが、朝から呼び出された。
何故俺がと聞くと、ヒカリが気分が悪くなったら、すぐに目の前の光景を隠せるように大きい男がいいと言われた。
でも怖がられるんでは? と聞くとあいつはちっともお前のこと怖がってねぇぞと笑われてしまった。
本当だろうかと、顔を合わせてみたら実にいい笑顔で挨拶をされた。
だから、ジラウもいい笑顔で初めてしっかり挨拶をすることができたのだ。
本日の訓練内容は、各自の組み合わせで組んで対戦訓練、一対一もあれば複数の場合もある。
競技場のような場所なので観戦席がある。その一番遠い場所にヒカリは座っている。
そこからヒカリは時間をかけて見るだけだ。
出来そうなら少しずつ近づく。無理そうならやめる。
今日は肉弾戦だけなのでまだ大丈夫な気がするヒカリはドキドキしていた。
不安や恐怖というより、高揚感がある。
結果、瞳からキラキラビームが飛び出している。
競技場に集まった警吏たちは緊張感に包まれ、各々がストレッチをしていた。
訓練用の服も黒で統一してあり、支給されたものだ。
確かにいつでも気を抜けない仕事ではあるが、この緊張感はもちろん、遠くから見ているゲストのせいである。
遠くからでもわかる食い入るようにこちらを見つめている少年が、ワクワクしているからだ。
ダーナーから一通り説明はされているため、怖がらせたくない職員はやめましょうよとダーナーに掛け合った。
しかし、ダーナーはそれらを無視してさっさと準備始めとけよこの野郎、じゃあ、お前が拒否してこいや。と言われてはそれもできませんと帰ってきた。
いつもよりハラハラしている職員は、いつもより身を縮こまらせる。いかに目立たないように訓練をしようかと。
ヒカリはそれを観戦しながら、自分の中にあるたくさんの「怖い」ものについて考えた。
アルキオーネ医務課長が闘技場に訪れた時、観客席の方で一人真剣に警吏たちの訓練を見ている少年を見つけた。
あれ?スピカの話からは、まだこういった刺激の強いものは無理と聞いていたのだが。
しばらく見ていたが、彼はふと立ち上がり一段前の席へ移動した。
そして大人しく、ただじっとこちらを見ているのだ。
それを少し見た後、その場を後にした。
ヒカリが、目覚めてから10日たった。
今日は、なんか色々イベント盛りだくさんの日になったというのがヒカリの感想。
目深にフードをかぶったヒカリが手をつないでいる先の相手をちらりと見上げると相手もこちらを見下ろしていた。
「正式なものじゃなかったって安心できた? 帰るか?」
「まだ、最後までみたい、いい?」
「別に今日は暇だから、いくらでも付き合うよ」
「ありがとー、スピカ」
「いえいえ、こんなことならいくらでも」
ここは野外闘技場。
ヒカリが警吏の訓練を見るときに使っていた場所である。階段状になっている椅子の一つに腰かけた。今日は結構多くの人が見に来ていた。
「けっとーってこんなにたくさんの人が見るの?」
「あー、俺も知らない」
「教えたと思ったんですが」
スピカが座布団を敷いてくれたのでその上に座って、二人で観覧用に持ってきたお茶菓子などを並べて話していたら警吏課副課長が、ぬっとあらわれた。
ヒカリが驚いていたら、ヒカリの体調を本人と保護者に確認して並べていたお茶菓子を一つ食べていた。
「決闘は本当はもっと、大袈裟ですよ。王が認めている権利の一つですから」
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