確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

闘えないとは言っていない26

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 部屋で一人勉強をしていたら、ノックの音がした。ヒカリはどうぞと返事をした。



 ヒカリはあれから王城へは医務課か警吏課に呼ばれると伺い、どちらかで時間が来るまでずっと一人で勉強をしている。

 たまに、チャコやスタンやダーナーやカシオやタウやケーティが声をかけてくるのでお茶をするぐらい。


 たぶん気を遣われているのだろうなとは思うので、喜んでお茶をする。
 忙しいのに大変だなと思うので大人しくしている。
 それしかできることがないからだ。


 ヒカリが目覚めてから5日たった。



 目覚めてからヒカリは一人で寝ている。
 自ずと自室にいる時間が多くなっているので時間の感覚が少し変なときがあり、早いなと思うときと遅いなと思うときがあった。
 扉がノックされたときも時間の感覚がなくなっていた。



 あれ、もうこんな時間だったのか。寝る準備しないとな。


 扉を開けてスピカが入ってくる。
 手にはお盆を持って、器用に片手でお盆を持ったまま静かに扉を閉めた。お盆の上には温かい飲み物が入ったマグカップがあるようだ。湯気が揺らめいている。


「なになに? お話しにきた?」


 ヒカリは急いで勉強道具を片付け始め、スピカは苦笑しながら片付けなくていいよとお茶を机の上に置いた。

「勉強は捗っているか?」
「うーん、びみょー。で、なぁに?」



 ヒカリが聞くときまりが悪そうに頭をポリポリと掻いて、えっとなぁ。いやー、その、実はなぁと何とも言いづらそうだ。



「ヒカリ、何か言いたいこととかないか? 本当は言ってくるまで待とうかと思ったんだけど」
「言いたいこと?」
「その、ヒカリからは聞きづらいか?」
「え? え? えっと……」



 ヒカリは思わず下を向く。どのことを言われているのかなと考えている間にスピカが爆弾発言をした。







「は?」









 セイリオスは居間でスピカがうまく聞き出してくれているだろうかとそわそわして落ち着かず、座ったと思えば立っての繰り返しで待っていた。




 ヒカリに対して申し訳ないなと思いながらここ数日を過ごしていた二人は、ヒカリの睡眠の浅さが気になっていた。


 ヒカリの移民申請は事件が解決するまで行えない。
 それまで、することもないからと飽きもせずに勉強ばかりしている。


 気分転換にと話しかければ楽しそうに話すが、それが終わるとすぐに勉強を始める。


 セイリオスやスピカもずっとは一緒にいられないのでその間は警吏課と医務課に預かってもらうことになった。
 ヒカリの魔道具関連課の仕事を再開しようと思ったのだが、疑惑がある人物に王城の仕事をさせるのはどうなのかという意見があってそれもできない。


 かといって図書館で以前の様にいさせて運悪く騎士と遭遇するのも避けたいので、窮屈かもしれないがこういう対応をとっていた。
 家で一人で留守番ができるよとヒカリは言うのだが、どう見ても元気いっぱいには見えないヒカリを家においていけるわけもなく、何かと言い訳をして連れ出していた。




 目下の問題はヒカリが眠れていないということだ。

 うなされているのかと思うがそういうわけでもなさそうで、一緒に寝るかと聞くが断られている。

 朝動き始めるまでが遅く、夜も遅くまで机に向かっている。



 本人は気付いていないかもしれないがぼんやりしている時間も増えた。馬車では外を見ることもなくうとうとと舟を漕ぐ。

 監視官にも怪しまれているかもしれない。
 思い悩む原因がないのに、思い悩むということは何か隠し事があるのではないかということだ。




 俺たちに聞けない何か悩みを持っているのだろうかと考えて、スピカが言ったのだ。




 お前の、知られたんじゃないのかと。




 聞くに聞けなくて悩んでいるんじゃないのかと。


 ヒカリの嫌いな喧嘩をするということを知られたくなくてセイリオスは周囲に頼んで隠していた。
 スピカにはかなりキレられたが決まってしまったものは仕方がない。


 ヒカリに聞かれたら正直に言おうと思ってそのままにしていたのだが、スピカが話せるきっかけがお互いあった方がいいんじゃないかと軽く「俺が聞きだしてくるわ」と行ってしまった。




 で、一人、そわそわ。




 どうしてこうなるのかとため息をついたところで扉が大きく開く音と、階段を急いで降りてくる音がした。


 ソファから立ち上がりかけたところで、ヒカリがひょこッと顔を出す。





 すごく怒った顔をして。






「セイリオス、どういうこと? なんで? ばかなの?」
「ヒカリ、え? 落ち着け」




 ヒカリはずんずん近づいて、中腰のセイリオスの胸ぐらをつかんだ。
 まぁ、つかみなれていないので勢い余って、正確には両手でしがみついているみたいになっていた。



 どうなっているのかとヒカリの後ろを見やれば、遅れてやってきたスピカが両手を合わせて申し訳ないと目をつぶっていた。








 
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