確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
上 下
205 / 424
第3章

闘えないとは言っていない14

しおりを挟む
 


「しかし、それらは昔からあるというだけで、本当に個人を特定できるのかという根拠が今一つ乏しいのではないでしょうか。指紋の方は、王都の7割ほど集まった結果、一つとして同じ指紋がないので証拠としては強いでしょう。魔核質の証拠はサンプルが非常に少ない。それらのサンプル集めは?」
「それはまだです」


 魔核質の方は簡単には集まらなかった。
 こんなに短期間でそもそも集まりはしないが、もう一つの理由に魔核質の集め方が問題だった。


 血液や髪などは呪術にも使われるため、むやみに人には渡さない。だから、そういったものを扱う職種は信用が第一である。
 散髪屋などは髪をすぐに燃やしてしまう炉を併設しているところも多い。


 もう少し簡単に魔核質を抽出する方法をケーティも考え中なのだが、いくら天才と言われていてもそんなに簡単にアイデアが降ってわいてくるわけでもない。


 トライアンドエラーの繰り返しなのだ。


「そうですか。質問に答えていただきありがとうございました。この後、セイリオスさんはどうされるのでしょうか」
「私ですか? 本日は特別休暇を午後から頂いているので帰りますが」

「わかりました」



 監視官はわかりましたと言って片づけを始めたのでセイリオスたちも片づけ始めた。
 そして魔道具関連課からセイリオスが帰ろうとしたら、監視官に夕方ごろにご自宅にお伺いしたいのですがと声をかけられた。


 これも拒否なんてできるわけがない。おそらく反応を見ているのだろうと思い、セイリオスは深く考えずに了承した。





 夕方、チャイムが鳴ったのでセイリオスが慌てて走る。窓からスピカが顔を出して、怪訝な顔をしていた。
 帰ってきてすぐにヒカリに催淫効果が出たのですっかり忘れていた。



「お前、ストーカーついてきてるぞ。そんなの家に入れるなよ」
「すまん、そうも言っていられないみたいだ」


 そうして監視官がセイリオスにした説明をスピカにもする。スピカは終止不機嫌そうだったが仕方がない。

 口だけでお前は馬鹿かとののしられた。



 でも、お前だって色々考えて帰ってきたら、あの状態のヒカリがいて、宥める役目をしなくてはいけなかったら絶対忘れている。
 俺は断言できる。


 なぜなら。

 二回目の方が、なんだか少し、躁鬱状態というか、躁状態で。



 というか、だいぶ。



 かわ、い、かった。



 だいぶ……。




 セイリオスはちょっと止まった。
 たぶん心臓も。
 思考も。
 脳みそも。



 怖くなったスピカは声をかけた。

「おい、セイリオス?」
「……すまん、少し待ってくれ」


 頭を勢いよく振って邪念を打ち払う。スピカが渋るのもよくわかる。

 この決定は覆せないもので、それはスピカも知っている。
 以前ならスピカは気にせず良い返事をしただろう。


 しかし、今はあの状態になってしまったヒカリを本人の許可なく見せてはいいものではない。
 自分だったらすごく嫌だ。あられもない姿を見せるなんて。


 二人で無言で何やらやり取りをしていると、監視官が首を少し傾げ説明を付け加えた。

「いえ、何も一日中、ご自宅の中にいさせていただくというわけではありません。家のなかは一度監視官によるチェックを受けていただき、そののち、建物自体を監視対象とし、ご自宅から外出があるときは監視官が着いていきます。また、魔紙はこちらで回収させていただきますね。使用したい場合はこちらに許可をとってください。一日数回でかまいませんので、ヒノさんの確認をさせていただいてよろしいでしょうか」
「確認とは?」
「本当に意識が不明なのか、正気ではないのかの確認です」


 もちろん拒否権などはない。
 それでも尋ねてくれるだけこの監視官は気を遣ってくれているのだろう。スピカがため息をつく。


「わかった。ただし確認の際に使う薬の類はこちらが許可したものだけにしてくれ。難民申請の時に、難民部に申請した書類に書いてある薬剤は却下だ。これ以上、薬で心身ともに負担をかけたくはない」
「わかりました。では、現在の症状をお聞かせ願いますでしょうか」


 スピカが説明のために部屋へ案内をしにいく。
 その間に数名の監視官がどこからともなく現れ、というかおそらくすでに監視されていた、そのうえで接触を図ってきたというところだろう。
 家の中をくまなく調査していく。


 ただ、いかんせん。専門的なものが多すぎたようで、度々、監視主査が呼ばれ、そのたびにセイリオスやスピカに質問を投げかけてきた。

 監視官たちもそれなりに医学、魔道具に詳しいものを連れてきたのだが、無理もない。
 専門的と言えば聞こえはいいが、成功から失敗まで自分たちで何やらやらかしているだけのものがうじゃうじゃあるのだ。

 医学の方は外科、内科、薬学、心療科と多岐にわたるし、セイリオスに至っては、物置にアンティークから、タウからしたらガラクタと言われるものまで勢ぞろいである。

 

 これは大変だろうなと職員側の目線でセイリオスは見てしまった。










しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

処理中です...