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第3章
闘えないとは言っていない14
しおりを挟む「しかし、それらは昔からあるというだけで、本当に個人を特定できるのかという根拠が今一つ乏しいのではないでしょうか。指紋の方は、王都の7割ほど集まった結果、一つとして同じ指紋がないので証拠としては強いでしょう。魔核質の証拠はサンプルが非常に少ない。それらのサンプル集めは?」
「それはまだです」
魔核質の方は簡単には集まらなかった。
こんなに短期間でそもそも集まりはしないが、もう一つの理由に魔核質の集め方が問題だった。
血液や髪などは呪術にも使われるため、むやみに人には渡さない。だから、そういったものを扱う職種は信用が第一である。
散髪屋などは髪をすぐに燃やしてしまう炉を併設しているところも多い。
もう少し簡単に魔核質を抽出する方法をケーティも考え中なのだが、いくら天才と言われていてもそんなに簡単にアイデアが降ってわいてくるわけでもない。
トライアンドエラーの繰り返しなのだ。
「そうですか。質問に答えていただきありがとうございました。この後、セイリオスさんはどうされるのでしょうか」
「私ですか? 本日は特別休暇を午後から頂いているので帰りますが」
「わかりました」
監視官はわかりましたと言って片づけを始めたのでセイリオスたちも片づけ始めた。
そして魔道具関連課からセイリオスが帰ろうとしたら、監視官に夕方ごろにご自宅にお伺いしたいのですがと声をかけられた。
これも拒否なんてできるわけがない。おそらく反応を見ているのだろうと思い、セイリオスは深く考えずに了承した。
夕方、チャイムが鳴ったのでセイリオスが慌てて走る。窓からスピカが顔を出して、怪訝な顔をしていた。
帰ってきてすぐにヒカリに催淫効果が出たのですっかり忘れていた。
「お前、ストーカーついてきてるぞ。そんなの家に入れるなよ」
「すまん、そうも言っていられないみたいだ」
そうして監視官がセイリオスにした説明をスピカにもする。スピカは終止不機嫌そうだったが仕方がない。
口だけでお前は馬鹿かとののしられた。
でも、お前だって色々考えて帰ってきたら、あの状態のヒカリがいて、宥める役目をしなくてはいけなかったら絶対忘れている。
俺は断言できる。
なぜなら。
二回目の方が、なんだか少し、躁鬱状態というか、躁状態で。
というか、だいぶ。
かわ、い、かった。
だいぶ……。
セイリオスはちょっと止まった。
たぶん心臓も。
思考も。
脳みそも。
怖くなったスピカは声をかけた。
「おい、セイリオス?」
「……すまん、少し待ってくれ」
頭を勢いよく振って邪念を打ち払う。スピカが渋るのもよくわかる。
この決定は覆せないもので、それはスピカも知っている。
以前ならスピカは気にせず良い返事をしただろう。
しかし、今はあの状態になってしまったヒカリを本人の許可なく見せてはいいものではない。
自分だったらすごく嫌だ。あられもない姿を見せるなんて。
二人で無言で何やらやり取りをしていると、監視官が首を少し傾げ説明を付け加えた。
「いえ、何も一日中、ご自宅の中にいさせていただくというわけではありません。家のなかは一度監視官によるチェックを受けていただき、そののち、建物自体を監視対象とし、ご自宅から外出があるときは監視官が着いていきます。また、魔紙はこちらで回収させていただきますね。使用したい場合はこちらに許可をとってください。一日数回でかまいませんので、ヒノさんの確認をさせていただいてよろしいでしょうか」
「確認とは?」
「本当に意識が不明なのか、正気ではないのかの確認です」
もちろん拒否権などはない。
それでも尋ねてくれるだけこの監視官は気を遣ってくれているのだろう。スピカがため息をつく。
「わかった。ただし確認の際に使う薬の類はこちらが許可したものだけにしてくれ。難民申請の時に、難民部に申請した書類に書いてある薬剤は却下だ。これ以上、薬で心身ともに負担をかけたくはない」
「わかりました。では、現在の症状をお聞かせ願いますでしょうか」
スピカが説明のために部屋へ案内をしにいく。
その間に数名の監視官がどこからともなく現れ、というかおそらくすでに監視されていた、そのうえで接触を図ってきたというところだろう。
家の中をくまなく調査していく。
ただ、いかんせん。専門的なものが多すぎたようで、度々、監視主査が呼ばれ、そのたびにセイリオスやスピカに質問を投げかけてきた。
監視官たちもそれなりに医学、魔道具に詳しいものを連れてきたのだが、無理もない。
専門的と言えば聞こえはいいが、成功から失敗まで自分たちで何やらやらかしているだけのものがうじゃうじゃあるのだ。
医学の方は外科、内科、薬学、心療科と多岐にわたるし、セイリオスに至っては、物置にアンティークから、タウからしたらガラクタと言われるものまで勢ぞろいである。
これは大変だろうなと職員側の目線でセイリオスは見てしまった。
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