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第3章
闘えないとは言っていない8
しおりを挟む頭をぐりぐりされている。
首もげそう、とか思うけど言わないでおく。何故かというと、そのぐりぐりしてる人がすごくうれしそうだから。
「ヒノ―! ここまで歩いてきたんか。お前」
「はい、ばしゃにも乗りました」
「少しやせたんではないですか?」
「わ、マジか! お前ー、朝御飯食ったのかよ?」
「た、食べました! おいしかった!」
「ほっぺも少し元気がないですよ?」
とか言って服をパタパタされる。
そりゃ10日寝てたからね……筋肉は夢のまた夢とか思っていたらセイリオスがぐりぐりから救出してくれてスピカが説明してくれた。
ヒカリはセイリオスの腕の中に抱えられてしまった。
背の高い人ばかりが忙しく歩き回るなかでは目が回りそうになっていたので助かった。
今日も今日とて忙しい警吏課には休みがないのかよく見る人たちでいっぱい。
入り口付近の受付で大人しく座っていたら、入ってきたダーナーにぐりぐりされたのである。
ヒカリの受付にセイリオスが行って、スピカは医務課から来た人と話し中。ヒカリだけ暇で足をプラプラしていた。
来る人来る人ヒカリに挨拶をするので全然暇ではなかったんだけれど。
おはようござ、ぐらいで次の人が来て、もう大丈夫なのかーに対して、はい、もうだいじ、ぐらいでまたおはようなので結構焦った。
で、スピカ曰く、これが終わったら医務課の方で検査したいことがあるそうで、二つ返事でOKした。無料でしてくれるのだから、お言葉に甘えてしまおう。
事情聴取のための部屋に案内されてついていくと、奥に見たことない人が座っていた。
警吏課の人っぽくない人だった。印象のすごく薄い人で、覚えようと思っても何の変哲もない黒い太いフレームのメガネに目がいってしまう。
あ、でも、あの肩の感じはちょっと隠れマッチョな気がする。
ピシーンとしていて姿勢が崩れないのはしっかり基礎の筋肉があるんじゃなかろうか。
おっと、危ない! つい、燈兄ちゃんに禁止されている筋肉スキャンをしていた。
理想の筋肉追究のためについついジーっと見てしまう。燈兄ちゃんはそれをすると、兄ちゃんの手がいくつあっても足りないからやめような。次したら、ヒカリに兄ちゃん道を教えてあげないと言われていたので我慢していたのに。
減ってしまった筋肉が10日でより、増えてしまったのでご愛嬌と言うことで。
見ていたからだろうか、セイリオスが説明してくれた。
「この人は、国の仕事をしている人が、確り仕事をしているか、確認している人だ」
説明を聞くと監察のポジションの人かと納得する。
真面目そうな穏やかそうな人で、「すみません、あいさつがおそくなりました。おはようございます。セイリオス・サダルスウドさんのところでお世話になっているヒカリ・ヒノです。ほんじつはごそくろーいただきありがとうございます」と挨拶をした。
挨拶のバリエーションが増えたのでいつか言ってみたくて練習したかいがあったのか、監察の人は笑っていた。
体調はどうですかと聞かれたので、後であっと思ったのだが、めちゃ元気と答えてしまった。
かっこいい挨拶が台無しになってしまい少ししょんぼりしてしまう。
その人の前にだけお茶が出されていなかったので、気になっていたら私のことはお気になさらずにと言われてしまった。
く、今のはさっさとお茶を出してもらうとこだった。
先手を打たれちまったぜと悔しがってしまった。
と、そんな感じで知らない人の前であの日の話をしようとする緊張が少しほぐれた。
皆が座ると事情聴取が始まる。
カシオ以外の顔がどんどん怖くなったけど、事件の話をニコニコ聞くのも変だなとは思うので、そのまま話していた。
今日は両隣にセイリオスとスピカがいる。
今日はずっと一日一緒にいるのが仕事だから、離れられないぞと言われた。
というか、離さないからなとスピカに言われて、喜んでと返事しておいたのでがっちり連行される宇宙人さながらである。
話していると足の上に置いてあった手をセイリオスがぎゅっと握った。
見上げると目がばっちりあう。何だか今日のセイリオスはヒカリの眼をじっと見つめていることが多い。心配そうな顔だ。パチクリしていると、スピカが後ろからヒカリの額に手を当てる。
で耳元で話すからちょっとそわりとする。
「ヒカリ―、無理していないか」
「え、ううん。だいじょぶ。えっと、それでたぶんお腹にナイフで切りつけられて……、こ、」
「ヒカリ、傷跡は後でスピカのカルテで見れるから。それでその後どうなったんだ?」
って時々、セイリオスが話をこっそり操っているような気がしながら、まぁいっかとその流れに身を任せた。
実は自分でもあんまり言いたくないなぁと思っていたからラッキーぐらいに思っている。
体の傷はほとんどきれいになっていた。
あざとかはなくって、動くのも平気だった。一つだけ、お腹の傷は時間がたってしまったので、ゆっくりしか治せないそうだ。残念無念。あんなにきれいになったのにとため息をついた。
時々痒くて掻いてしまうと、セイリオスが上から撫でてくるのでこしょばくなって痒いのが我慢できた。
お腹にあんな文字があると思うと、見せたくないなと思うのも仕方がない。薬を自分で塗ることを決意した瞬間である。
話し終わって出されたお茶を一気飲みしていた。
ちなみに事実しか話していない。これはあくまで主観ですがという点は本当最小限で、聞かれたら答えるぐらいにしておいた。
自分の推測は後々、聞いてもらおうと思っている。
お茶を飲み切ってふぅと息を吐くのを見たダーナーが顎をクイッとやって、セイリオスに合図を送る。
「ヒカリ、他に言っておきたいこととか聞きたいことはないか?」
「なんでもいいですか? いぱいでも?」
「もちろんですよ。どうぞ」
本来ならこちらから聞きたいこともあるが、誘導していると思われてはいけないのでヒカリにとりあえず話させることにした。
この監察の前でヒカリがただの善良な一般人と言うことを知らしめるために。
セイリオスたちはこの10日の間、何もしていなかったわけではない。
ただ、非常に面倒くさくなってはいるが。
実はこの監察官は監視官でもある。セイリオス達が家にいる間も監視が入っていた。部屋の中には入っていない。ただ玄関の外で見張っていただけだ。あと、魔紙の使用も。
ヒカリが本当に意識が戻っていないことも確認された。
一日に何回も確認が入った。正確には意識の混濁状態も確認された。
ヒカリのあの状態の時は運良く確認が入らなかったが、意識がないときは足の先に針を刺したり、魔力を流されたり。
意識混濁の時は、本当に耳と目が使えていないのか、話の齟齬はないか確認された。
疑いを晴らすためとはいえ、ヒカリの承諾をしっかり得ずにしてしまったことに罪悪感を覚えた。ヒカリが構えてしまう前に素のヒカリを見たいと言う要望があったため、まだ話せてはいない。
目覚めたらすぐに王城へ連れてきて、事情聴取と医師の元で身体チェック、後はヒカリの観察だ。
本人の承諾がなく、してしまったので後でお叱りは確り受けるつもりである。
スピカと二人、正座をする覚悟だ。
耳にタコができるまでお説教も聞く覚悟もある。
でも、たぶん、ヒカリが大切なものを優先した結果こうなったので許してもらえないだろうかという甘い考えがあるのは否めないが。
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