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第3章
闘えないとは言っていない4
しおりを挟む突然ヒカリがぐいぐいッと力を入れて抱き着いてきた。
寝苦しいのだろうかとセイリオスは寝る姿勢を変えてみる。自分は仰向けになってそこにヒカリを載せているスタイルで挑んでみた。
満足いったのか頭をこすりつけてセイリオスの心臓の上らへんで落ち着いたようだった。
しかし、時々、一瞬身動ぎをして呼吸が乱れるときがある。
うつ伏せがしんどいのかと一度起き上がる。
ヒカリがするするすると胸板から胡坐をかいたセイリオスの上に収まった。
「あ、んんぅ」
ヒカリの出した音に、セイリオスは動きを止めた。
というか動けなくなった。
何か、今のちょっと来てはいけないところに来たな。と小さく頭を振る。疲れてんのかな、俺、やばいな。
そこでじわじわと上がっていくヒカリの体温がセイリオスに伝わった。
口もハクハクと動かしている。まずい、熱が出ているのかと慌てて棚から吸い飲みと湿らせたタオルをとる。
『ヒカリ、水飲むか』
と書いて尋ねると二度頷く。吸い飲みを近づけるがうまく飲めずに口からこぼしてしまう。
『お水、ください。喉乾いた。あついあつい』
どんどん熱が上がるヒカリは意識が半分もうろうとしているようだった。
そこまで高熱ではないがこれも薬の作用かと思い、スピカを起こそうとベッドから足を下ろし、立ち上がりながらヒカリを抱きかかえなおした。
「あっ、んっ、ふぁ」
またしてもセイリオスは中腰という何とも中途半端な形で静止した。
待て待て待て俺の側頭葉、もしくは脳幹、もうどこでもいい。変な判断を下すな。
そこでかつて同じようなことがあったと思い出しセイリオスは慌てた。
『トイレ、いくか?』
しかし熱に浮かされたヒカリはあふあふと息継ぎなのか何なのかわからない声を出すだけで。
もう漏らしても、気づく前に処理してやろうとセイリオスはヒカリを抱きかかえたまま立ち上がり棚から介護用布おむつを取り出す。
これの上だったらいくら出しても何も汚さないしなと思い耳にふたをする。
それなのにセイリオスはまた気づいてしまう。
ヒカリが小さくセイリオスに当たると離れるを繰り返すのを。
一度、小さくすりっとセイリオスの腹筋に当たったなと思うと、声を出してすぐに離れる。
そして、呼吸が落ち着いてきたころにもう一度くりっとちょっと強めに当てておびえたように離す。
うっすら目と口を開けて、たぶん何も見えてない。
たぶん、何をしているかわかってない。
セイリオスで自慰行為をしているなんて。
「催淫効果かぁ。あー、どうする? だれ呼ぶ? っていうか動けん」
こっち方面はちょっと考えてなかったなぁとセイリオスはお手上げだ。
これが恋愛関係にある相手なら問答無用でそういう方面に行くのだが、そういう相手ではない。
お互いにそういう間柄ではないのだ。
ただの同居人。ちょっと他よりは大切な。……いや、かなり大切な。家族みたいな同居人。
そういえばヒカリのそういう感じを見たことがないなと思った。
かつての行為の話の時もどちらかと言えば淡々と話す感じだったし、自慰行為をしているところもしたような雰囲気もなかった。まぁ、自慰行為を俺が見てたら気持ち悪いだろうが。
熱に浮かされた状態を見たことがない。あの子可愛いなとか、あの子かっこいいなとか。
仲良くなりたいからお話してこようみたいな健全な感情を。
まぁ、こんな状況で生きてるのに必死だしな。
早く本来のヒカリに戻れるといいのにな。
だからこその移民だったのに。
考えがこんな場面でしんみりとしてしまったのはいわゆる防衛本能だったのかもしれないが、セイリオスはちょっと冷静になった。
その間もヒカリは小さくコスッと自分の昂りをセイリオスの腹筋で擦ってはすぐにやめる。
どうやら、薬の作用は完全には抜けていなかったらしい。
しかも最悪なことに、ヒカリはほんのちょっと刺激を自分で与えるだけで、びっくりした猫のように引っ込めてしまうので終われるような快感を自分で与えられないのだ。
そんなちょっとじゃあ、イケないよなぁとぼんやり思う。
熱は上がっているのに全然だもんなぁ。普段はどうやって処理してるんだろうか。
そしてふと思う。
そもそも自慰行為をしたことがあるのだろうか? と。
聞けないなぁ。聞いたところで何に使うでもなく、もしかしてスピカなら知っているだろうか。医者なら必要な会話があったかもしれないし。
さっきとは違う意味で泣きそうになってきたセイリオスはお手上げだった。
熱いよ、お水くださいと時々声を出し、縋りついてはセイリオスの腹筋でちょびっと気持ちよくなっている。
意を決して、思いっきり抱きしめた。
しかし、少し触れただけでヒカリがいやいやと頭をふるうのでやめた。
強すぎるのかと。俺の腹筋がぽよぽよだったらまだましだったかもしれない。
もういっそのこと手伝って終わらしてしまおうと、セイリオスがヒカリから手を離すとヒカリが大泣きし始めた。
『嘘ついたぁ。離さないでって言ったのに。離そうとしたぁ。ひどいよー。セイリオス早く来てよー。意地悪しないでよー。ごめんなさいーごめんーわぁぁ』
どういうセンサーで動いているのかもはやわからない。
何の地獄か。俺の何が意地悪か。
果てには謝って泣かれるなんてもうセイリオスの情緒もおかしくなりそうだった。
ヒカリの初めての最大限のおねだりにもはや為す術なし。
俺の今までに人生は今の状況を何一つ解決させてくれないので頭の中をぐるぐる検索しても何も出てこない。
意識がもうろうとしているヒカリに通じるかわからなかったが、今の状況を語りかけてみた。
『辛いところないか?』
「あ、あつい」
『手伝おうか?』
「なにを?」
『俺の手で、ヒカリの射精を』
『え、なんで? どうして?』
『ヒカリ、勃ってる。ペニス、触れていいか?』
『ひっ、うそうそ! ない、たってない。やめて、見ないで』
『ごめん』
『本当だから、たってないから』
『わかった』
「いや、ない。きららいで! おねがいします。いたいの、いや、から」
朦朧としているがヒカリに言葉は通じたが、どうやら状況は正しく理解できていないようだった。
ひどく取り乱し始めて、やはり性行為につながることには忌避感、もしくは嫌悪感があるのだろうとセイリオスは謝った。
しかしヒカリは涙を出してラクシードの言葉を紡ぐ。拙く。
それを聞いてセイリオスは腹が立った。殺意が沸き起こって、余計ヒカリが泣いてしまった。
ぼくはめすいぬ。おちんちんはありません。あなたのおちんちんをください。
ぼくはあなしかいりません。だからおちんちんをきってください。
そんな言葉は教えたことがない。
今のヒカリからしたらひどく拙い発音で、何を言わされているのかわからずもそれは、決していい言葉ではないだろうと自分で分かっているのか。
酷くゆがんだ顔でそう言う。
今、ヒカリの目の前にいるのは誰だ。
声を上げ続けるヒカリを優しく抱きしめて、立ち上がった。
ぎぃっと音がなる窓を開けて風を浴びる。
外の空気は雨が降っていて湿気を含んで心地よい冷たさになっている。ヒカリの体の熱を取り去れないかと、風が吹く。
序でにセイリオスの煮えたぎる怒りも。
その風に乗って、床に散らばっていた紙がセイリオスの前にピラピラ舞い降りてきた。
空は雨が降っているのに、時折月が顔をのぞかせたので、目に入った紙に書かれているものが見える。
あれはきっとハンバーグだ。あれはスピカ。あれは俺だな。
ピラピラとゆっくり舞う紙の中にただ文字が書き連ねている紙がある。
その紙がセイリオスの前に落ちて。
そこに書かかれている文字を読んでしまう。
一度読むと、文字を追い続けるのをやめられなくなった。読めば読むほど苦しくなるのに。
ヒカリの国の言葉で書かれた文字。
ヒカリが伝えられなかった言葉。
小さい声で誰に教えられたのか卑猥な言葉をポツリポツリ言い続けるヒカリの額に額を合わせて、目線の合わない瞳を覗いて、ヒカリの好きな指で唇を優しくふさいだ。
むぐむぐと少しの抵抗をして、それでもセイリオスから一切手を離そうとしない。
なぁ、ヒカリ。俺はひどく傲慢だったんだな。
今は、楽しくても、過去は、楽しくなかったんだよな。
どうして俺は過去のヒカリを救えないんだろう。
どうして、今、ヒカリをそこから救ってやれないんだろう。
あんなに笑って俺に光を与えてくれる君を。
救えたと少しでも感じていた俺はひどくひどく傲慢だったんだな。
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