確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

長すぎた一日31

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「だからさ、死にたくなかったら俺らの言う事ちゃんと聞こう。ほら、足開いてごらん」



 ごらんと宣っておきながら、開こうとしないヒカリの足を無理やり広げ始めた。
 ヒカリも考えながら服を脱がそうとする優男騎士の手から逃れようと抵抗する。抵抗するので体がずりずりと動き少しずつヒカリの位置がずれるのに従って、優男騎士もくっついて動く。

 こんな抵抗すぐに封じ込めるのにそうしないのは、こういうのを楽しみたいから。

 それも、知っている。




 動きながら、考える。
 これだけ話したってことは自分を無事では返すつもりがないということはなんとなくわかった。



 死んでも構わないけれど、死なせるつもりも、しっかり証言させるつもりもない。定期的に自分が差し出されればいい。


 ということはヒカリの保護権はどうなるのだ。移民だったらもっと自分の意見が優先されるから。


 でも、犯罪に加担させられるとなると?
 移民でいられなくなる。その場合、ヒカリは犯罪者として扱われるのか。
 でも、犯罪者を定期的に差し出すことなんてできないから。

 証言ができない? けど話せるし動けるし性行為もできる?
 そのうえきっと犯罪者だけど、そうじゃない扱いになる。

 保護権みたいなものをこの人たちが保有する気?

 えっと、地球では罪を犯してしまったけど、証言が「証拠にならない」場合ってどういうのがあったっけ……。




 無駄な抵抗を続けているとこの遊びにも飽きたのか優男騎士がヒカリのズボンをつかんだ。

「ねぇ、大人しくしないとひどいことするよ?」

 そう言って、履いていたズボンを下着ごとはぎとられた。

 パンツって重要な防具だと思う瞬間がこれだ。いくら覚悟しているとはいえ、そういうことをいっぱいしてきたとはいえ、人間じゃない扱いなんて慣れるものじゃない。ただ心が死んでいくだけだ。



 ヒカリはこの世界にきてひどい扱いをされたときに、その行為の後、裸のまま放置されることが多かった。
 けれど、疲れた体を引きずっていつも下着や服を自分で着た。


 それを着ただけで、ヒカリは一つ自分を取り戻せる気がしたからだ。
 水があれば、這い蹲っても顔を洗ったし、口をゆすいだ。
 そうしていれば自分は人間だと思い出せる気がしたからだ。

 自分の意志で、ヒカリは人間を続けている。そんな状態だった。



 優男騎士がにらんできたので、ヒカリは謝った。謝ると優男がヒカリを撫でてきた。

「あ、あの」
「ん、なあに? しっかりほぐしてあげるからね。……もしかしてすごく久しぶりだったりする? ここ。何だかつつましい感じがするんだけど」


 まじまじとあらぬところを観察されている。
 ヒカリの頬がさっと赤くなる。見られるのだって慣れるものではない。恥ずかしさと悔しさと恐怖が襲ってくる。



「あの、手が、手が痛いの。あしひろげられないよぅ」

 無理やりヒカリの足を広げていたその手をパッと外し、笑いかけてきた。


「そうだったの? 本当だね。体に興奮しちゃってうっかり。ごめんね。今、ほどくね。……本当だ、血が出ちゃってる」
「……ん、あ、ありがとぅ、ございま、す」

「かわいいね」


 何がかわいいかわからないが手の拘束がなくなったのはありがたい。
 今まで相手した中にはこういう人も多くいた。自分だけは優しいよとか言っておきながら、やってることは同じだ。



 これは、そういう人にはこういうのがきくよと奴隷仲間に教えてもらったやり方だった。
 言葉が全然わからなかったけど、見といてという言葉としぐさで、あぁこの人は教えてくれようとしているんだなと思った。
 あんまり仲良くすると折檻されたのでそのことも必要最低限しかなかったけど。



 因みにヒカリは知らないが、そのヒカリと同い年の少年は「俺は商売でやってるけど、お前ずぶのど素人だろう」と、結構人目を盗んで教えてくれたのだ。言葉がわからず、毎日一人でこっそり泣いているヒカリに教えてあげられることがそれぐらいしかないうえ、まさかさらわれてきたとは知らないから慣れるまで面倒見てやろうぐらいの気持ちだ。まぁ言葉が多く使えないのでかなり四苦八苦したが。



 そうこうしている間に乱暴騎士はというとヒカリのお腹に触れていた。
 何度もお腹の肋から下腹部のあたりを撫でさする。


「なんだ。ここに書いてあったお前の名前消しちまったのか。もう一回書いてやるよ」
「あぐぅっ!」


 乱暴騎士がヒカリのその部分に突然ナイフを突きつけた。
 刃の先を当てて薄く薄く、皮膚を切っていく。血が出るとべろりと舐めた。



「ひぃっ」
「ちょ、っとー。俺、そういうのはもっと後でやりたいんだけど? いたいねー? だいじょうぶー?」
「うっせぇな。じゃあ、バッグでやれよ」
「うーん、背中は隠してやるかぁ」
「それにまずそうなやつは後でまとめて全部治癒すりゃいいだろう? これつけてやるとこいつ大人しくなるし」


 言いつつ、ナイフをまた同じところにグリグリと少し深めに当てて刻んでいく。しっかり刻んでおこうな、と何度も。
 ヒカリのお腹にうっすら残っていた傷の上を何度も通過する。



 そこはセイリオスの指が何度も通過したところ。青い薬を毎日飽きもせず、真剣に、ヒカリが嫌じゃないような力加減で何度も。


 この人たち、知らないんだ。僕が治癒が効きにくいこと。どこまで知ってるのかな?


 乱暴騎士が傷をつけている間は、ヒカリもナイフが深く刺さってしまうんじゃないかと動けなくなった。
 時折、刻まれている周囲の筋肉が、痙攣するかのようにぴくんっと震える。刻んでいる相手は楽しそうに口角をあげた。



「こわいか? お前がこの後もしっかり言うことを聞くんならここでやめておいてやろうか? それともこうなりたいか?」

 いじわるそうに笑う乱暴騎士は、ヒカリよりは入り口らへんで転がっていた人物のところへ行って、ぐりぐりと傷口を靴の先でえぐった。

「あ、ぐっ」
「お、結構いい声で鳴くなぁ。おら、こいつな」




 お前のこと探しに来たらしいぞ。
 投げ出されているその人の手がピクリと動くのを目の端でとらえる。




「しつこかったから、ちょっと小突いたらこれだ。騎士の駐屯所にいたら聞かれたらしい。お前を探している子どもに。まさかお友達か? そいつもつれてきてやろうか? ははは、また震えてら」




 ヒカリは拳をきゅっと握る。震えを止めるために。



 この騎士たちはヒカリを勘違いしている。





 ヒカリはあくまで「お兄ちゃん」なのだ。

 見た目はどうあれ。
 状況はどうあれ。


「兄」として恥ずべきなのは今のこの裸に向かれている状況か?

 否。



 このまま、あの人を助けられない事ではないか?
 できることを全てやりきっているか?
 自分の力のなさをただただ嘆いているだけではないか?
 ちょっと小突いただけで人はあんな風にはならない。あんなに血がどくどく流れるわけがない。





『灯に笑われちゃうな』


 それは今後一生変わることがない。
 灯が生まれた瞬間から。


 だから、そのお兄ちゃん道を刺激された時、ヒカリはお兄ちゃんとして動いてしまう。もうこれは、どうあがいても仕方のないことで、セイリオスが特性と言ったものだ。



 もう逃げ出せそうにないことは経験済みで、形勢逆転を狙うならやっぱりヒカリの荷物がいる。

 助けを呼ぶぞ。
 好機はくるよ。




 そうだよ。今だって結局、セイリオスが助けてくれたから生きているんだし。



 一度助けられた経験はヒカリを後押しするだけでしかなく、大人しくしておこうという気が何故か起きない。

 生きていたら、何とかなるよ。何とかなる。

 この腹立つ顔で笑ってる騎士もどきも絶対捕まえてもらおうっと。
 大丈夫。大丈夫。自由になった手を伸ばしてヒカリは唱え続けた。














  

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