確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

長すぎた一日23

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 焼却炉以外は何もない広い場所で、黒い制服に身を包んだ警吏課の職員が行き交っている。騎士も増員したのかセイリオスの知らない顔が見える。


 あのアレルギー症状の出た彼は大丈夫だろうか。目をぐるりと動かせば指示を出しているカシオが見えた。




 よかった。みんな無事だったのか。



 目が覚める前に見ていた夢を思い出し、胸が苦しくなった。
 目の前で苦しむ少年を見ていたからか、起きた瞬間から妙な胸騒ぎがしていたのだ。

 しかし、この現場を見る限り苦しんでいる人は見当たらない。
 地面からあたりを見渡してほっと一息ついた。



「おー、起きたか。あんまり急に起き上がんなよ。じゃあ、ちょっと診察するからな」


 横にスピカがやってきてしゃがみこんだ。
 目の前に小さな光を持ってきてセイリオスの目の動きをチェックしている。そしてセイリオスに起きたことを説明した。

 あることを除いて。


「あー、大体はわかった。で、お前はどうしてそんなに怒ってるんだ?」
「……。怒ってねぇわ。あー、いや、怒ってんのか?」


 頭をガシガシとかきむしったスピカは確かに怒って見えた。
 まぁ、変態が凝りていないから怒ったのだろうと納得しようとしたところで、声が聞こえた。


「おー、起きたか。もう動けるか? じゃあ、今から仕事だ」
「偉そうに言ってんじゃねぇよ。くそ」
「やっぱり怒ってるだろう。お前」

 スピカはキッとこちらをにらみつけた。


「お前、マジ腹立つな。さっさと起きろ、ばか! おせぇんだよ。俺は段取り通りあっちのほうに行ってから捜索に加わる。セイリオス、お前、しゃんとしろよ。じゃあな、また後で」
「は?」


 スピカは言うだけ言って猛スピードで走り去っていった。


 そしてセイリオスはダーナーから驚くべき話を聴いた。
 先ほど鳴りを潜めたと思った胸のざわつきが大きくなってしまう。起き上がったセイリオスは話の途中でダーナーに聞き返した。




「じゃあ、ヒカリは今どこに?」

「わからん。まったく目処が立っていない。まて、早まるな。俺を殺すのは、ヒノが見つかってからにしろ。そしてこっそり消せ。ヒノに気づかれることなくな」
「するわけねぇだろう。ただ一発ぶん殴る」
「オー殴れ殴れ。俺もそのほうが気が楽だ」

「ヒカリが殴っていいって言ったら殴る」

 じゃあ、殴られないの決定じゃないのかと思ったが、どちらかと言えば殴ってほしいので言わないでおき、少し笑うだけに留めておいた。
 スピカと似たようなこと言ってら。


「で、今、配備はかけてあるがうまくいくかどうかわからん」
「なんでヒカリが?」
「まぁ、それなんだが」

 そこでセイリオスはようやく目に入った汚物のことについて考え始めた。
 タイミングが良すぎるだろう。お前。


「あれが関わっている、か?」
「まぁ、このタイミングって、疑わないほうが無理あるよなぁ」

 カシオのブリザードを近距離で直に浴びてしまった変態はまだ意識が戻らず、ガタガタ震えている。
 スピカが処置を施したのだろう。大きな損傷はなかったようだ。


「俺が抱きしめてあっためてやったのに、このまんまで」

 あんたが処置したのかよというツッコミはひとまず置いておいて、セイリオスは変態の耳元に近づくために膝をつく。


 そして囁いた。

「残念ながら、俺は生きているぞ。ヒカリは俺が生きていて、泣いて喜ぶだろうな」

 小さな声で言ってみたが、反応が見られない。
 やはり、カシオのブリザードに耐えられるわけなかったかと他の手掛かりを探しに行こうと立ち上がったら変態が声を出した。

「な、なんで」


 気味の悪いほどの執着心をみせるものだから、煽ってみたら震えながらもこちらを睨み付けてきた。

「よう。……お前、俺を殺すつもりだったのか? 残念」
「そんなわけない。俺は俺は」
「お前は逃げるつもりだったんだろう?」



 頭を振りながら変態が何か言おうとして口を閉ざした。
 そして、体をもぞもぞと動かした。

「目は口程に物を言う」
「あぁ、だなぁ。おい、そいつの身体検査をやれ」
「はい」


 ダーナーが部下に指示を出すと、何も持っていないはずの服の中から小瓶が一つ出てきた。
 青いサラサラの液体。飲みたいとは思わない色の小瓶がセイリオスの手元にやって来ると、汚物の顔色が青くなった。



「これ、誰にもらったんだ? これがお前の逃げる算段のうちの一つなのか?」
「し、知らない」


「ふーん。なぁ、お前、これ飲んでもいいよ、飲みな」


 隣でダーナーがぎょっとした顔をしている。
 逃げるためのということは身体強化か何かの薬なのだから驚くと言えば当然である。

 セイリオスは表情を変えることなく変態から目をそらさず問うた。
 小瓶がチャプチャプ音を立てて揺れている。



 セイリオスは上から目線だけを汚物へと流した。

「飲むの、手伝ってやろうか」
「は?」



 変態の顔が歪む。

「これ、何の薬って言われてもらったんだ? お前?」
「な、何言って」

「なぁ、お前。これが身体強化の薬だって言われたんだろう? 以前お前が持っていた薬に色も、瓶もそっくりだ。なぁ、でもお前、爆発するだなんて思わなかったんだろ?」
「は?」


 セイリオスは頬の筋肉をいやでも動かした。にっこり笑って続ける。


「なぁ、爆発するだなんて思わなかったんだよな? 爆発すると思っていないお前が、あの封を、開けたら、お前はどうなっていたんだろうか? そんなものを渡してきたやつが、もしもの時のためにと言って渡してきた、この小瓶。飲んだらお前は何て言うんだろうな。そんなつもりじゃなかったって言えるんだろうか?」




 セイリオスは本当に気になった。飲んだらどうなるんだろうか。その目が怖くて変態は震えた。






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