確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

長すぎた一日13

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 魔道具関連課は名前の通り、少しでも関連していたら呼び出されることがある。

 そしてそれは、逆にも取れるわけで。
 つまり出張ることもできる、とても便利な部署でもある。

 そういう点をセイリオスは気に入っていたりする。
 権限は限りなく低かったりもするのがたまに瑕だが。



 セイリオスはヒカリと別れた後、自分の部署へ迷うことなく足を進めた。
 今日は残業をなくそうデーにするつもりだからだ。

 さらに言えばお昼を余裕をもって過ごしたいので、午前中がカギとなる。


 お昼ご飯は少し贅沢してもいいかなぁという独り言を聞いてしまったからには、遅刻するわけにはいかないだろう。

 初贅沢ランチを目の前にしたら、倒れるかもしれないから。
 支える心づもりである。


 恐らくシェフのスペシャルランチを頼むのだろうとセイリオスは予想していた。
 セイリオスも頼んだことがないので、ヒカリが食べられるものか、事前に聞きまわってみた。主にスピカが。

 因みにセイリオスは味の感想などを同僚から聞きかじったぐらいだ。


 本当にシェフが、その日の一番おいしいと思われる素材で、時間をかけて作る品なので、数量が限られている。
 値段はもちろん高いが、その値段以上の価値のある味だとか。
 本当に先着順なので、どれほど権力を持っていても関係なく、割り込もうとしたらシェフから出禁を食らう。



 ぜひともヒカリに食べてもらいたいので、早めに仕事が片付いたら向かおうと企んでもいるので、セイリオスの顔は少しにやけている。


 本人は自覚がないのだが、隣の席のタウは用事を頼もうとして、にやけている顔を横から覗いて、顔を覆って呻いた。


「どうかしたのか? また、目を酷使したか? スピカからもらった最近開発した目の疲れをとる眼薬があるが……」

 どうやら以前、目を酷使させてしまったのを覚えていたのかセイリオスがそんなことを言う。
 違うよ。お前のにやけた顔が面白くて、眩しくて笑いそうになっただけとは言えずに、ガサゴソ鞄から目薬を取りだしたセイリオスからタウはそれを受け取った。


「これ商品化は?」

「まだ、されていない」
「うげ。俺、実験台にされかけてない?」

「そう思うなら、そう思ってくれて構わないが。以前、世話になった雷石の話をヒカリにしたら目の疲れをとる眼薬はないのかと言われて。スピカがノリで作ったのがそれだ。目の筋肉のコリをほぐすらしい。まぁ、血流をよくするとか、粘膜を修復する手助けをするぐらいだが」
「そんなこと言われたら受け取らないわけにはいかないでしょうー。ありがとうって言っといて」


 そう伝えて目薬を受け取って観察していると、視線を感じてセイリオスのほうを見た。


「受け取ってもらえてありがとう。ヒカリはタウのことが好きだから、きっと喜ぶと思う」
「そう、そりゃあ、良かった。お前も使ってるのか?」
「そうだ」

 いつもより無駄なく仕事を遂行していくセイリオスは次の仕事のために立ち上がった。

 その後ろ姿を見ながらタウは思う。
 お前がヒカリくん寄りになると、俺の両目が持たないからやめて欲しいなと切実に。




 順調に午前中のスケジュールを消化しているセイリオスは、用事ついでにヒカリの方はどれくらい進んでいるかなと、ちらりと見に行くために警吏課の方へ足を向けた。


 勿論、時間短縮のために近道を通る。
 人気がないのでセイリオスを見つけて雑用を押し付けたり、雑談を吹っ掛けるような相手とも会わない、建物の裏手を通った。


 ごみを燃やす焼却炉がある場所なので、通ろうと思うものも少ないのだろう。
 だだっぴろくて少し草木が生えている。
 焼却炉がいざ爆発しても安全なようにそのような場所にあるのだろうが、ごみを燃やす以外に来ない場所だ。 


 因みに王城のごみは情報管理部に一任されているので、その部署のもの以外ここに来ることもない。
 調理部のものは専用のごみ処理場があるので、彼らもここに来ない。


 それがいけなかったのだろうか。


 見たくもないブツを見た。



 思い出したくもない。が、俺は覚えていると約束した手前、忘れるわけにはいかない。

 ただ、過剰な反応はしないでおこうとは思っていた。
 思っていたが、あっちからやってこられたらこちらも対応せざるを得ないだろうぐらいの気持ちは持っていた。


 変態が、名前など知らない変態が、警吏課の職員に連行されて歩いていた。

 一刻はしおらしくなったのに、ヒカリに謝るでもなく、事実を言うでもなく。
 偽りを述べてヒカリの人格を貶めようとしている変態の身柄が今日から騎士課へと移るのだった。

 今日だとは聞いていなかったし、言われていなかった。



 当たり前だ。騎士課のメンツのために移動させるのだから大々的に行いたくなかったのだろう。

 ごねにごねたのか、引き渡しは警吏課と騎士課のちょうど中心の位置で行われるそうだ。
 人気の少なめなところで、何やっているんだかという気持ちになった。


 イケナイものの売人同士のブツの引き渡しのような事を、何であんな変態でやっているんだろうかと頭をひねる。
 そんなことに時間を割く暇があるなら、他にもっとやることがあるんじゃなかろうか。


 騎士課に移ってあの変態が吐くのかどうかはわからないけれど、そこまで大きな影響のある出来事と思われていないからこの強引な引き渡しが成立したとセイリオスは考えている。



 実際、騎士課の方から圧力がかかった。
 重大事件とは捉えられておらず、警吏課がでしゃばるのが嫌な派閥が横やりを入れたのだ。
 デルタミラ公爵も、ことを大げさにしたくないのでだんまりであった。それもそちらの流れを強くした一因である。

 ヒカリの方も移民関係でこれ以上噂が広まるのは避けたいところでもあった。


 まぁ、軽い罪という事で釈放されてしまっても、デルタミラ公爵に目をつけられた人身売買の売人の心身がどうなっても、誰も後を追おうとはしないのだろうが。


 とセイリオスの考えが行き着き、かつ曲がり角を曲がったところで、事は起きた。


 魔力の波動と、ついで静かに背後で争っている気配がする。

 先ほどすれ違ったときに見えた目に宿った色から思ったのは、自信、渇望、安心、興奮。
 何かやらかすつもりだろうなとは思ったが、脱走だったか。しかも、今。



 せめて騎士課に行ってから事を起こしてほしかった。

 騎士課は食堂から遠いし、警吏課からも遠い。
 つまり、ヒカリから遠いところでのもめ事だ。ヒカリの近くで危険なことは起きてほしくないのだ。


 だが、無力化された状態で脱走。目立つこの場所で、相手は警吏課職員が二人、と騎士課。
 勝算は限りなく低いのではないだろうか。


 そんな馬鹿には見えなかったが?

 セイリオスがもと来た道を戻れば騎士と警吏課職員が犯人と膠着状態でにらみ合っていた。


 どうしてそうなったのか、犯人の手元には人質が一人。
 顔が赤く意識が苦しそうだ。
 というか呼吸ができていないように見える。


 勿論犯人は先ほどの変態だった。そして人質は。

「って、あれ、騎士じゃないか? どうしてこうなった」










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