確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

長すぎた一日11

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「すいませーん。魔道具関連課から応援に決ましたぁ」

 その声を聴いてダーナーは、えっと思ったし、実際「えっ」と言った。
 目撃証言がないか聞き込みをしているときに届いた声だったから、変に聞こえたと思ったのだ。


 振り返った先ではニコニコとして、頭を掻きながら、照れるなあという顔で立っている男と目が合った。
 横には大きな革のカバンが置いてある。



「応援要請に応えてやってきました! ケーティ・アルタミラですっ。久しぶりー、ダーナー」
「なんで、お前なんだよ」

「何でって? 何が? え、もしかして、またやっちゃった?」
「……俺は、事件現場の検証に有効な魔道具に詳しい奴を呼んできてくれって要請したんだけどなぁ?」


 なぁと言いながら、ブオンという風が吹くくらいの勢いで顔を上げ、何故か呼びに行った警吏課の職員を睨みつけてダーナーがきく。
 職員はその風の音を武音と名付けようかと思うぐらい、決してさわやかではないぬるい風が顔面にぶつかってきた。


 ダーナーとしては現場検証や証拠を集めるのに便利な魔道具を使って、さっさとあたりをつけようとした。
 しかし、自分はそれらに詳しくない。詳しいカシオは出払っているので、次に詳しいセイリオスを呼びたかったのだが、ややこしくてめんどくさい人物が来てしまった。


「ちょっとちょっとぉ。ダーナーってば。こっちこっち。大丈夫? お疲れなんじゃないかな。仕事のし過ぎじゃないの?」
「至って正常だこらぁ」
「ほんとだぁ。いつもの変な語尾がついてて可愛いなあ」
「……ごらぁ」


 そして、苦手だった。苦手なのになぜか縁があって。


「現場検証に有効な魔道具に関して詳しいって言えば、あの職場ではセイリオスくんとヒノくんと僕ぐらいだからね。空いている僕が来るのが当然でしょう」
「あ? セイリオスはどうしたんだよ」

「彼? 彼は別の応援に出向いたから……。あー、わかった! ダーナーってばセイリオスくんに会いたかったんだ。ごめんごめん」


 そして、可愛い教え子を掻っ攫っていった人物でもある。


 頭が痛くなってきたダーナーは視線をキラキラしている男から外した。
 そいつはというと自分を連れてきた部下にダーナーは僕にセイリオスくんを取られた気がしているから、つんつんしちゃうんだよ。だから、気にしないでね。素直じゃないんだ。人の幸せを願えるいい人なんだよとか話し始めて、部下もはぁと意味のない音で返事をしている。


 こいつが来ると緊張感がなくなる。
 ……でも、こいつは完璧なお花畑じゃねぇのがややこしい。


「で、セイリオスは?」
「先にこっちの案件の話聞いていいかな? それ終わってから話すのでいいかな?」


 ダーナーが対応室へ案内しながら説明し終えた後、ケーティは何でもない顔で、部屋中を歩き回っていた。

 何だかよくわからないが、靴の上から布を着て歩き回っている。ダーナーも履かされた。


「それ、本当? 嘘でしょ? ダーナー、何ぼさっとしてたの? 信じられないよ。ね、目玉付いてる? それ、ちゃんと光通しているよね? ありえないよ。セイリオスくんの事を泣かしたらただじゃおかないとか、ちゃんと面倒を見てやれとか、ややこしいことに巻き込んだら殺すとか言ってきていたのに」

「いやっ、だからな」

「それ、自分に言った方がよかったんじゃない? さいってー。セイリオスくんがどんなにヒカリくんの事を心配しているのか知らないの? そういう時は、ヒカリくんごと遠いところに逃げちゃえばいいんだよ。で、クズどもはほかの誰かに任せたらいいし。ヒカリくんがいい子なことなんか調べたら見当つくんだから。利用されたんじゃないの? ね? そっか。ダーナーは誘拐とかされたことないから知らないんだ」

「いや、おれ、けいり……」

「あのね、誘拐犯はターゲットのことをそれはそれは執拗に調べるんだ。その本体が欲しいか、その本体に付属する何かが欲しいかで扱いも変わるしね。警吏課なんだったら知っておいた方がいいんじゃない? だから、あ、ここ。机を動かしたような跡があるね」


 あたりを観察しながら淀みなくダーナーを罵倒し続け、ダーナーが、う、とか、あ、とか声を出すしかない中、しゃがみこんで机の脚を舐めまわすように見始めた青年は、いつもは気にもせずさらさらと風になびかせているキラキラした真白い髪の毛を無造作に一纏めにしていて見慣れない。

 いつのまにか手袋もしている。ダーナーが机にさわろうとすれば、手袋!と強めに言われた。


「一先ず、指紋採取しちゃおうか」

 べたべたと一面に液体を塗りたくるのをダーナーも手伝い、紙を張り付けていく。
 そして指紋を採取した。結構取れたなと呟きながらそれを大きな革のカバンから出した透明なケースにしまい込む。


「うーん、やっぱり油脂に反応しているから、こういうのも取れるんだなぁ」

 とかなんとか呟きながら、次に取り出したのは。


「沈黙の雷光? 静かなる稲光?」
「え、ダーナー、うちの新作をよく知っているねー。でもね、これはそれとは使用目的が違うんだよ。あれは雷力を攻撃に使うんだけど、こっちは純粋に光として使うんだよ」







 魔力を有する器のあるものはたとえその身に魔力を宿していなくても、魔力を与えられれば反応をする。
 この雷力浸透装置はそれを応用した魔道具である。


 雷力は極めて力が強く、適性がない場合は使用できず、使える者は限られている。

 しかし、その魔石があればだれでも使える。
 家庭用ライトに使用されているのがその光力を使用しているものだ。
 かなりの安全措置を施されているので危険はない。
 それを攻撃に使用する目的で改造されていたのが、今回ヒカリが使用している、または以前使用された、スタンガンもどきである。 


 因みに小さな魔石はそのまま使われたりもするが、大きい魔石はそのまま使うと威力が大変なことになるのでカットして使う。

 綺麗に割れたものは使う要領がいいので値段も少しお高くなる。更にカットも一筋縄ではいかない。無駄なくカットするために、魔石のカットをする職人がいるぐらいである。

 ただしカットの仕方は宝石のようにはしない。大抵四角に近い形で割り出される。小さいものは石ができたままの形で使われる。


 しかし、スタンガンもどきは極めて小さく削られた魔石を使用しており、その魔石の削り方が重要であるようだった。
 魔石の表面を極めて細かく磨き、雫型に磨き上げる。
 磨き上げた先端をこれまた針のように細く磨く。宝石のカッティングと言われても納得できるものだった。
   


 そうしてできた魔石を棒の中に設置する。

 装置の仕組み自体も一点集中で放出する回路を組めば、小さいながらも強力な雷力が放出される。魔石をこのようにカットすることは常識では考えられなかった。
 貴重な魔石を無駄に削って体積を小さくすることなど無駄の一言に尽きるだろう。しかしこれは必要最低限のカットの仕方で威力を高められたものだ。



 ヒカリに使用された魔道具は先端の部分が5層になっていて、威力を調整するためのクズ魔石が入れられるようになっていた。
 それによって殺すか、気絶させるか、脅すかの用途で強弱を使い分けられるようになっていた。




 それをセイリオスは持ち帰って職場で分解して、フムと一言。
 上司がやってきてふーんと一言。


 で、魔石をポイッと渡されたのはタウだった。

「え、何?……雷石? だから、二人のその無言の連携、俺には理解不能ですからね」
「タウ、お前だったらそれどれくらい細かくできる?」
「これ? ……とりあえず4分の3ぐらいにはできるかな?」
「じゃあ、とりあえず細かさの限界突破してみようかー。ダナブくん?」

 タウが申告した通りの見本より小さい雷石が渡される。

 雷石を細工するなんてことは初めてだが、硬さはかなり頑丈だっと記憶しているタウは、自分のカバンの中から鑑定眼鏡と削るための道具と磨くための道具を一式取り出し拡げる。


「言っとくけど、集中するからあんまり喋り掛けないでください。気が散ると爆発しますからね。魔石」

「お前がそんなヘマするのか」
「しないよ。ダナブくんが気が散るのは隣に可愛い女の子が通った時ぐらいだから、気にしない気にしない」


「それ、褒めてないですよ。ボス……」






 
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