確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意26

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「では、おテモトの資料をゴランください」

 ヒカリは少し緊張しながら、用意した資料を配布した。
 机に置くときにパサリと紙の束が音を鳴らした。それだけでかなりの量となる資料だった。


 実際はこれの倍以上の紙を使用した。
「」いくつダメにしただろうかと少し気が逸れてしまう。コピー機のない世界ではそう贅沢も言ってられないのはわかっていたが、文明の利器を発明した偉人たちに喝采を送りたくなるほどの経験だった。

 前回は事情聴取みたいなものだったので受け身でよかった。
 話す内容だってセイリオスとスピカが考えた通りのことを練習して伝えただけだった。言葉もわからない中で、自分の考えを伝えることは難しかったのだから仕方がない。

 しかし、今回は設けてほしいと言って作ってもらった時間だった。リベンジと言ってもいいのかもしれない。

 だからなぜヒカリが警吏課の信用印が欲しいのか自分の言葉で伝えることを望んだ。
 その為には実情を知らねばならないという事で移民と難民について図書館に調べ物に行ったのが始まりだった。そこで自分が特殊なパターンだと気付いた。

 そもそも信用印は持っている数や、発行元などでその移民の信用度が変わる。信用度が変わればもちろん制限の加減も変わる。

 信用度が低いと小さい村なら基本的自由だが、王都などではそうはいかない。
 商売を始めたいなら尚のこと信用印が活躍するらしいという事も学んだ。

 今のところ商売を始める気はないし、仕事したいならフィルが雇ってくれるとも言っていた。
 将来は社長さんになる予定らしいフィルとの話を思い出した。なのでフィルは移民の事にも結構詳しかった。すごいすごいと言えば、俺のだって受け売りだからと照れていた。


 うんうん、フィルはかわいいなと頭を撫でたら「俺はお前の弟じゃねーぞ」って怒られたけど。


 王族、貴族の信用印がもらえればその権限はただの平民よりも大きいものになる。

 公務員や大きな商会、歴史ある職人などが印を押せばその取引先も大きくなってくるもので、権限が与えられやすい。
 例えば、公務員になりたければこの国の貴族や、王族の信用印がなければ務めることは不可能だ。
 王都に引っ越してくる場合も然り、王族や貴族の信用印が一つあればできる。王都内の人物が認めれば住むことはできるがその信用印の相手によってまた制限がかかることがある。


 その中で公務員の信用印はなかなかの信用度合いで、部署が発行するとなると自由度も大きい。
 商売の認可や王都に住むことだって可能になる。また、他国に移動もしやすくなるのだ。

 その中でも、警吏課と医務課はかなり信用度のある方だ。
 もしもの保証人のような役割も持つので、信用印を持つものが犯罪を犯せば連帯責任となる。

 だから簡単に信用印を与えるわけにもいかない。審査が厳しいという点でも警吏課と医務課は信用度があるのだ。
 セイリオスとスピカが警吏課の信用印を欲しがるのは当然のことだった。
 それがあれば国境を行き来するのもかなりスムーズに行く。


 因みに医務課は個人の裁量で信用印を押せる。
 個人個人の裁量に何事もかなり任されているのだ。が、こちらも甘くはない。滅多に医務課の信用印を押された者はいない。

 元患者だからと言って情けをかけるようなところではないのだ。




 ではヒカリは自分がどのような権限が欲しいのかをまずは考えた。

 目的1 家に帰りたい
 目的2 セイリオスとスピカに恩を返したい
 目的3 できればレグルスの安否を確かめたい

 それらの目的のためには何がいるか。

 すること1 家に帰る道を見つける事
 すること2 お金を貯める事
 すること3 この世界で生きるすべを身に付ける事

 これは難民の状態のままだとかなり厳しい。調べてよく分かったのだが、難民になった人々は多くが難民施設と言われてる、一つの村のようなコミュニティーで一生を過ごす。

 そのコミュニティーを管理している役人が認めれば村からは出られるので、近隣の村や王都に行くことは可能だ。
 しかしそれらをするには許可がいる。時間なども決められるのでそれほど多くの時間が手に入るものでもない。


 また、難民の何割かは自分たちの国が帰れる状態になれば帰ることもある。


 だが、ヒカリはと言うと帰られる状況にあるかどうかすらわからないので、その後者の道を選ぶことは難しい。


 かといって難民施設にいてまず生活のすべを手にいれるのに時間が多くかかる。
 ラクシード語は共通語ではないものの、近隣の国のものなら大体わかる。言葉が似ているのだ。方言のようなものだとヒカリは何となく理解した。 

 だから、ヒカリが難民施設に行った場合、今と言葉の状況は変わらないのだ。学ぶ施設もあまりないことが分かった。




 移民になるルートにはいくつかある。
 単純にラクシード国の移民になりたい場合と自国にいることが難しくなった場合だ。

 留学などの名目で期間限定で滞在できる制度ももちろんある。学術然り、商店然り。
 その流れで実績が認められればそのまま移民にむしろなってくださいと言うようなときもある。

 そして、単純にラクシード国の移民になりたい場合は、以前から交流のあった伝手を頼り、その者が信用印を与える。
 この場合は親族であったり身元がはっきりしているという点でもすんなり通る。その伝手の大きいか小さいかで制限も変わってくるらしい。

 次にお金のある商人や貴族などがお金で信用印をもらう。この場合は金も才能の一つとして考えられるので別に犯罪でも何でもない。

 そうしてすぐに移民になる。難民である期間などほぼない。



 もう一つは一度、難民となった場合だ。

 こちらはほぼほぼ自国にいることが難しくなった場合になる。
 自国が何らかの理由で住んでいられなくなる、戦争や内戦や環境破壊、貧困、派閥争いなど、つまり生命が脅かされたときに難民となってラクシード国で保護されるのだ。

 大抵が国境で保護されて近くの難民施設に送られる。
 また、旅先などで保護した難民を自分の家まで連れ帰って世話を見る。
 これは未成年の場合に許可されている。他には何らかの理由で自分で動けない、意志の表示もできないパターンだ。


 ヒカリは当初、未成年で意思の表示ができないパターンだと考えられてセイリオスの家にやってきた。
 実際はこの世界では未成年ではなかったのだが。

 しかし、犯罪に巻き込まれて身体に支障がある事、ラクシード国含めこの周辺国の言葉がわからないこと、洗礼を受けていないことなどがあって、特例でセイリオスの家にとどまらせてもらえているのだった。

 本当であれば落ち着いたころ合いに難民施設に行かないといけないはずであった。



 はっきり言ってグレーゾーンである。


 そのような特殊な背景のあるヒカリが医務課の有名人に保護されているのだから噂にならないわけがなかった。調べながら本当に申し訳ないなぁとため息が出たものだ。



 では、難民施設に行った難民はどのような生活をしているか。
 簡単にいえばそこも一つの町のようになっている。その街から外出するには許可をもらって出なくてはいけない。


 その彼らが施設から出るには、自国にもどるか、移民になるかだ。
 移民になるには、難民施設と交流のある人々から信用印をもらうしかない。難民施設は学ぶことも仕事も限られてはいるが可能である。そこで才能を発揮して認められれば移民になれる。

 その才能がなんであれだ。


 もうひとつの手段としてはラクシード国の者と縁者になるかだ。
 容姿が整っていればすぐにでも申し込みが来る事もある。
 幼い子どもなら養子にと引き取られることもある。


 子どもの場合は年に何度か難民部から視察が入る。虐待の有無を確かめるためにだ。


 それらの資料をヒカリは自分で集めた。
 時にはフィルや図書部員も手伝っていたが、資料はヒカリがまとめたものだ。
 それらを二人分きれいな字で書き写すのは大変疲れたものだった。

 お金を払えば代書屋に頼むこともできるのだが、如何せんお金がない。字の勉強にもなるしと始めたがかなり大変な作業だった。その甲斐あってか字はかなりうまくなったと思っている。


 ダーナー達にはセイリオスとスピカに言われたからではなくて、ヒカリが自分で考えて移民になりたい旨を話した。
 故郷を探すためにも自由の権限が増える移民の方がいいのだと。
   


「だから、僕が難民施設に行けば、かなりの、かくりつでいっしょうしせつのなかだとおもいます。ぼくの故郷にはかえれません」 



 そしてヒカリは自分がこの国でどのような立ち位置かを考えたうえで結論を出した。


 そうこのままじゃ無理ゲーと言われる部類に入るのだという事を。

    





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