確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意16

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「今日は話に来てくれてありがとうございました。気分は悪くなっていないですか?」
「はい、大丈夫です。今日は聞いてくれてありがとうございました」
「ヒカリ、俺達はこの後少しチャコさんと話があるから」
「はい、覚えてます。外で待ってます」
「そういえば、副課長が魔道具で聞きたいことがあるっていってたから声かけてみて」
「フクカチョーさんが。はい、わかりました」


 ヒカリは座っていた椅子から降りてきれいなお辞儀をして部屋を後にした。


「失礼しました」

 この言葉はバッチリ練習しているのですらすらだ。
 扉を開けて外に出ると、騒々しかった館内が一瞬しんとした。

 皆一様にヒカリを見て。

 なぜかほっとした顔をして業務に戻っていった。
 ヒカリはそれに気づかず、緊張しながら副課長のカシオを探し始めた。






「あのね、その、体にね、手がくっついてね。こう、ぐぐって撫でてね。あ、暴れたんだけど全然、手が離れなくて。お、お尻の方から、体を挟まれて、その人が何をしようとしてるかワカタときはなんかうごけなくなて、あ、あれかな、と思ったんだけど」


 さっきまでそこにいたヒカリが言ったことを思い出す。
 もう一度話させるのは厳しいかと思ったが、ヒカリが話したいと言った。

 本来であればヒカリが被害を訴え、捕まえていれば、警戒していれば、今回別の人が被害に遇わなかったのではと考えたらしい。 


 だから、三人で被害の報告に来たのだ。
 被害を訴えるなら事情聴取は避けられない。ヒカリは一人で大丈夫と言って頑なに一緒に行くのを渋った。受付でチャコが通訳と体調を診られる人がいてくれると安心するんですが、と直接セイリオス達に声をかけなければ一人で挑むつもりだったのだろう。



「それにしても、お二人はヒノさんに着いていくかと思ったんですけど」
「うん、まぁ、ヒカリにも自分だけの時間があってもいいかなとも思うし」


 それに警吏課の職員がそわそわしていたのを見て、警戒していたのが少し馬鹿らしくなった。

 入った瞬間、気付いた。
 以前は充満していたタバコの煙と汗臭さがなくなっていたのだ。


 更に言うと無機質な感じのしていた室内が少し変化していた。
 落ち着く色合いの観葉植物や、少し低めのカウンター、掃除の行き届いている床、傷だらけだった壁やテーブルも直され、新しく置かれた棚の中にはお茶請けが増えている。



 そして、強面の職員がヒカリが来た途端、そそくさと姿を消したので館内が静かになった。



 ここに勤めている者たちの思いがよく伝わった。

 きっと、上から言われなくても自分達で改善したのだろう。
 タバコの煙で噎せた少年、一生懸命真摯に向き合う姿、そして傷ついて気を失って流れる涙。


 申し訳なく思わないわけがない。
 それが見たくなくて警吏課に勤めている者ばかりだ。人を救いたくて勤めているのだ。


 恐らく、あの親父も怒られたのだろうか。
 今日は気配すらない。あの親父を怒る猛者がいたのかと驚くぐらいだ。


 それを無下にするのはヒカリのためにならない。
 ヒカリに向けられる優しさにヒカリが気付いて、近づいて、もっとたくさんの楽しさに触れてほしい。



「うちの奴等の苦労も報われます。顔面凶器みたいな奴ほどかわいいのが好きなんで。今頃柱の影から覗いてるかもしれないですね」
「いーや、ヒカリなら覗いてる奴見つけて片っ端から声かけてるぞ。どうかしたんですか? 誰か探してるんですか? 手伝いましょうか? とか言ってな」


 スピカが偉そうに言って、チャコが冗談だろうと笑っているがセイリオスはスピカに一票だ。
 ヒカリは困っている人を見つけるのが得意だからだ。

 兄の矜持だろうか。そうありたいと思うからか、自然と手を貸されていることがしばしばある。



「ヒカリは美味しいものに目がない。それも用意してると簡単にイイ人認定される」
「ははは、今度他の奴にも言っておきます」
「で、話って何かな? あの変態、口割ったとか?」

 先ほどまでの和やかな空気を潰すようにスピカが話題を変えた。
 二人に話すことと言えばそれぐらいしかないだろう。


「いくつかあるのですが。まず、男は罪を否認しています。トイレで襲ったことは監禁罪になるだけで性犯罪ではないと言っています」
「ってことは過去に性犯罪で捕まった過去があるのか」
「はい、他国ですが。一度捕まっています。そこは性犯罪の取り締まりが弛いところだったので、すぐに出所しています」


 他国では命があっただけましではないか、人間の性だ、抑えられないのも無理はないと言う理由などで性犯罪は比較的軽く考えられている。罰金ですむところもある。
 罪自体にならないことも。




 ラクシード国ではそうはいかない。
 他国で犯した罪でも計上されることがある。特に性犯罪には厳しいといわれている方だ。性器を切り落とすのは、ずいぶん前の国王が作った刑だった。



 
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