確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意9

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 青い瞳がてへっと声を出して茶目っ気たっぷりに笑う。

「ごめんね。人違いだねー。私もまさか少年役を全うできるとは思っていなかった。役者と言う道もあったのだねぇ」

 フードから流れるように落ちてきたのは真っ白な髪で、形のいい顔はまるで女のような柔らかさがある。白い肌の中にある赤い唇がツンととがる。


「あのさぁ、そろそろ手を離してくれない? さすがに気持ちが悪くてサブいぼが止まらないんだけど。その名称も言いたくないものもしまってくれないかな。表情に出さないようにはしているけど我慢の限界だ。ね、セイリオスくん?」

 男が指摘されてズボンにその名称も言いたくないものを仕舞うと、先ほどヒカリだと思っていた少年、……いや、性別も年齢も不詳の人物が左手で押さえていた壁から人が現れた。

「そうですね。そんな醜悪なものは取り締まるべきかと思います。もちろんスピカが請け負ってくれると思いますが。麻酔なしで、意識を途切れさせることもなく、命も取らずに、それを取り除けると豪語していました。あと、長々と話した内容も気持ちが悪くて吐き気を催したのでその口もきけないようにした方が世の中のためだと思います」

「そんなにそのナニがいいものなんだったら切り取った後に、この人自身に使わせてあげたらいいんじゃないかな? どうにか魔法陣を駆使して感覚を残したまま使えるようにしてあげようか。お口とかね。まずくても吐き出させないようにしなくちゃね」

「どうやらもう一つの穴の方にも執着しているようなので、自分の穴に入れてやるのもいいかもしれませんね。初めてが自分だなんて自分大好きみたいだしちょうどいいんじゃないでしょうか? でも感覚を残したまま保存と言うのは……」




 身長は男よりもあり、肩上まである深緑の髪を無造作に束ねた顔色の悪い、いや、目の下のクマがひどい細身に見える男が現れた。変質者の男以外はなにも動じることなく男に対して辛辣な感想をつらつらと述べていく。


「と言うか、その雰囲気で自分のことをお兄さんって言うのがもう見てられなかったよ。笑いそうになってしまった。僕も結構歳を重ねたと思ったんだけど」
「そうですね。まぁ、こういう人物は現実と言うものを見ないのでしょう。なでなでとかお手々とか言葉遣いが不快でしたね」
「小児性愛者なんだろうけど。一方的に押し付けて、愛なんかじゃなくてただの性欲だよね。穢れなき者を汚すのが、か弱きものを手折れるのがうれしいだけの勘違いも甚だしい自分が弱いだけの野郎だよね。っていうか、マジであれのナニがぶつかったところから汚染されてる気がするんだけど」

「あぁ、大変ですねこれどうぞ」

 不愉快だという顔をしたポケットから何かを取り出し手渡している。

「ありがとう。やっぱりセイリオスくんは気が利くねぇ。これなに?」
「あぁ、これもあなたの大事な部下のアイデアから発想を得たものです。医務課で消毒のために使われる液体を常に染み込ませた使い捨てのウェットティッシュです。この袋に入れていると気化せず常に消毒液が浸み込んだままなので持ち運べるんです」
「うわぁ、わくわくするね。しかも何かよい香りが……」
「はい、それも彼からのアイデアで、カミツレの香りを染み込ませています」
「すごい、優しい彼だからこそ、こんな気づかいがある発想ができるんだね。僕も見習わないとな。だってあのくっさいのがこんなにいい匂いで拭き消せるなんて」


 二人の怒涛の会話に男は混乱した。
 狭い個室に大きい男が二人と小柄な性別不詳のものが一人。しかも二人は男がいないかのように話し続ける。


「それにしても、まさか、王城内で、あなたのような方にこのようなことをなすものがいるとは思いませんでした」
「そうなんだよね。私も油断していたよ。性的強要だけでなく暴行、傷害もあるね。他にも余罪があるようなことを言っていたから、付き出さないとね」


 の、「ね」で両名が呆然としている男の方に視線を向けた。
 そこで男の脳みそが動き始めた。まずい、今すぐここから逃げなければ。
 咄嗟に男は雷流を目の前の白髪の人物へと向けた。
 しかしそれを受けたのは左の壁にいたほうの男で白髪の人物をかばうように覆いかぶさった。


「ちょっと、セイリオスくん!!」
「くっ」


 二人がもたついている間に男は個室から脱出した。



 早く早くここからでなければ。
 図書館は王城の中でも一番警備が緩いのだ。逃げ切ることはできるはずだ。
 騎士の連中は門番の見張りに幾名かおいているが、あれは下っ端の騎士連中で、多くは王族や中枢の守りを固めることを名誉としている節があるので、ここからの脱出はちょろいはすだ。


 そのような状況なので、ここに用のある貴族には大抵護衛がついており、庶民にも開放されている場所には非戦闘員の図書部員しかいない。この間の図書部員は足が速く、思いのほか戦闘意識がむき出しで焦ったが、あれは例外だろう。


 男は今日と言う日までを慎重に過ごしてきた。難民とはいえ顔を見られており、ヒカリを手にいれるまでは気を抜けず、今も帽子を目深にかぶり、口元を隠すようにストールをしていたのであの二人に顔を見られたという事はないだろう。

 年齢不詳の人物は恐らく貴族ではないかと思われた。
 立ち居振る舞いや、隅々にわたるまでケアされている身体が男の経験からそうそう思わせたのだ。男の仕事上そう言った人種とはかかわりもあるのだ。
 先ほどのもう一人の人物、貴族をかばい雷流を浴びせられたほうの男を思い出す。なぜかその人物とは会ったことがある気がしたのだが、どこだったろうか。


 幸い広間の方まで誰にとがめられるまでもなく逃げ切れたようだった。後ろからさっきの彼らが追ってくる気配もなかった。

 この広間の中で走って注目を浴びるよりは落ち着いて外までの道を歩く。




 そこで少しずつ頭が冷えてきたようで、ふとした疑問が頭によぎった。


 そうだそもそも、私は一体どこでヒカリくんを見失ったのだろう。そしてどこであの貴族をヒカリくんと間違えたのだろう。
 トイレの個室内にいた人物はリュックサックも背負ってなかったし、手には手袋をしていた。どこで間違えたんだ?

 自分の可愛いヒカリはまさか鍵をかけずに隣の個室に入っていたのだろうか。
 お門違いな推理を頭に発生させながら男は広間の人波を抜ける。少し早めの歩き方でなるべく早く。


 やはり、この付近には騎士の姿が見当たらなかった。男はそのまま何事もなかったかのように図書館の外に出ようとした。











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