106 / 424
第2章
暗躍するのはそこそこ得意2
しおりを挟むご飯が終わった後はセイリオスの部屋でまったりくつろぐことも増えた。
あれから一か月余りたっただろうか。時々涼しい風が部屋の中に入ってくる。セイリオスがヒカリに薄手のブランケットをかけてしまうくらい夜は少し肌寒くなる。
最近でははほぼほぼベッドをお借りする人の部屋で寝る前の勉強をしている。
何故なら寝る時間が来るとウトウトして寝てしまうため、夜中に起きたヒカリをどちらかが待っていることもあったのだ。
二度手間だなと言ったセイリオスが夜の勉強の時間になると、ヒカリの部屋から勉強道具を持ってきて部屋に連れていくルーティーンを生み出し、スピカもそれに倣っている。そうすると、もう寝なさいとベッドに入れられるので夜更かしはそうそうできないが。
ベッドの上で本を読みながらセイリオスの裾をチョンチョンと引っ張る。
横では見たことあるような色粉とか石板とかが乱雑においてある机の上で、何やらカチャカチャといじっているセイリオスがいた。
わからないところがあればかけている眼鏡を少しずらして「ん? どこだ? あぁこれか」と解説をしてくれる。
因みにその眼鏡は魔道具を解体とか解析とか組み立てたりするときにはよく掛けている。
多分細かいところが見えたり、いざって時は保護する役目があるものかなとヒカリは思っている。
上からセイリオスが自分の手元の本をのぞき込むと少し、ドキリとする。
さっきまで好きな機械いじりをしていたから、そこから意識を外すときにちょっとぼんやりしているセイリオスが新鮮で、何か可愛いのだ。なのに眼鏡をかけているからかっこよくて、だから多分ドキッとするのだと思う。
僕も眼鏡かけてみようかな。
マッチョなうえに賢く見えるのはかっこいいの二乗になるだろうか。少し眠くなっているヒカリはそんなことをぼんやりと考えた。
「ん、どうしたヒカリ? またなんかわからないことあったか?」
「あ、えと違う。セイリオスが何作ってるか気になって」
「あぁ、これか? これはだな。ヒカリがこの間言っていた何にもしていないとそのままなのに、ぶつかると壊れるものを作れないかなと思って試行錯誤中だ。どれくらいの硬さかなと」
「あぁ、『防犯カラーボール』か。えっとね。そうそうこの本のこれみたいな感じ」
ヒカリが開いていたページは世界で一番大きいもののページで、世界で一番大きい卵が載っていた。
ちょうどオレンジ色のようでまさしくカラーボールなのだ。
「って、卵か。確かにそうだな」
「そうそう。卵。でね、色も明るいの。暗いところでも光るよ」
「そんな色あるのか? 何色だ?」
「しかも、特殊な、ひかりをあてたら、真っ暗な中、光ることもできる。犯人は逃げきれない。それが『カラーボール』」
「なるほど、二重三重の罠が仕組んであるのか」
ヒカリはあの時カラーボールがあったらなーぐらいに思ってセイリオスに聞いたのだが、そういうものはないなと言われあきらめた。あったらフィルに渡すのになぁと。
それにセイリオスが取り掛かっていると聞いてわくわくしてしまうのも仕方がない。
セイリオスはこの時間は趣味の時間らしく、同じくワクワクしているとこの間言っていた。ヒカリが言ったものが作れるのか挑戦するのは楽しいらしいのだ。
「ヒカリはほかにどんなものを使って変態を撃退していたんだ?」
「ヘンタイにはそんなに、あったことないけど」
いや、自分が使っていたわけじゃないけどと心の中で独り言ちる。
持たされていたものと言えば何だったろうか……と考えて出てきたのは催涙スプレー、防犯ブザーは持っていたなと思った。あ、十徳ナイフも。それになぜか結束バンドも持たされていたな。
なんでだっけ。
あぁ、そうそう。犯人が気絶した後に油断せずに簡単に拘束する為だっけ。
あと、兄ちゃんが欲しがっていたのは、なんだっけ。
確か警察が突入するときに目と耳をつぶすあの眩しい奴。あれいいなとか言ってたな。いざって時使えそうじゃんとか言ってた。防犯カメラとかもつけたいけど金がないって嘆いていたな。ポケットに忍ばすペン型で我慢しようとかも言ってたな。
後はスタンガン。親に止められていたけど。
靴とかカバンに鉄板入れようとしたときはこれじゃあ俊敏性が失われるかとやめていたので、マッチョになるからちょうどいいじゃんと僕は思ったけど、例のマッチョになるのは大きくなってからじゃないと背が伸びない説を出されて却下された。
GPSがどうたらって言って僕と灯のスマホになんかしていたし、防災意識もあったのか懐中電灯がついているヘルメットとか方位磁石とか。
そう思うと兄ちゃんも灯の可愛さに危機感を抱いていたんだろうと頷く。
金髪に近い色素の薄い髪の毛がふわふわしていて、目も同じでとても色素が薄い。
女の子に間違えられるし、ヒカリと違って体も弱い。笑うと心がポカポカする。実際、公園で二人で遊んでいたら変なおじさんに思いきり腕を掴まれて大変だったことが一度あったのだ。
ずっとかわいいねぇと腕をつかまれたときは本当に困った。
ずりずり引きずられるようにして真っ黒な車に引きずり込まれそうになったときは、どうやって灯を守ろうかと灯を離して、逃げて、助けてって大きい声で言う事しかできなくて、不甲斐なくなった。
その後、灯の可愛さにつられた変態は仲良しのご近所さんが捕まえて警察に連れて行ったから事なきを得た。
そこから兄ちゃんの防犯意識が高まって、お金があったらと考えられた夢の防犯グッズもとい設備は「兄ちゃんはそんな大きな犯罪者組織をつぶす予定でもあるのだろうか」とちょっと思ったことも思い出した。
こっちでは、そういった防犯対策みたいなものはあまり発展していないようで、わいせつ行為は大抵現行犯か証人とか自白剤で証拠固めするみたいだ。
だから、言い逃れもしやすいらしい。
なんてことをいつの間にかベッドに入って来ていたセイリオスと話しあった。
「カンシカメラのことは前も聞いたな。スタンガンはどんなものだ? 犯人を捕まえるためのものか?」
「そうそう、デンキが、びりびりして人を動けなくするの。あのね、僕の国はチアン? がいいほうであんまり、戦うためのものはなかった。だから、犯人を気絶させたり、手掛かりになるような印付けたり、見つけたりしてたんだ」
「どんなものだ?」
こんなのと絵を描く。絵を描いて簡単な説明を横に書く。
「あとね、『DNA』っていって、人間の体の中にある、その体を作るための、その人だけの、じょうほうの図書館みたいなのがあってね。それをブンセキして犯人を特定するんだ」
「それはどうやって採取するんだ」
「えっとね、血とか、髪の毛とか、さいぼーがあればいけるような、うぅーん、すごく難しい……、僕の頭の限界が……」
ヒカリが頭を抱える振りをするとセイリオスが頭をポンポンとしてくれた。
「ヒカリとの話は何でも面白いからついつい聞いてしまうんだ。話してくれてありがとう」
「後はゲソコンとか、耳とか、口とか、ズボンとかにも、その人特有の、アトが残るんだ。それを集めて犯人を捕まえる」
「ヒカリはそう言う事詳しいんだな」
「あのね、よく読む本とか、見る物語とかであるの。そういう……『ジャンル』が、んと、種類ね。警吏課の人たちの話が、よく物語になってたんだ。あと、お医者さんもね」
そう言えばとヒカリは卵の成分を思い出す。
「卵のからって、こっちでも成分は、骨と似てる?」
「こっち? 殻の成分はどこでも変わらないと思うが、卵を産む種類によって変わるが、よく食べる鳥の卵はまぁカルシウムだな」
そうか。確かに自分が生活している感じからしてこの世界の組成しているものの成分は地球とあまり変わらないのかもしれない。
「なんかね、植物とかからでも、できるんだよ。コーンとか甘いのとか油とか、この硬くなる、素材。発酵させたり、分解させたりして、ね。ドロドロにしてくっつけるんだよ。それで、できるの」
「植物か……」
セイリオスはその後何かを考えたまま動かなくなった。
面白いからそんなセイリオスにもたれて本の続きを読み進めることにした。課長との話し合いはあと2週間ぐらい後だ。のんびりはしていられない。
ヒカリの移民申請は書類を一回差し戻したため、次の審査に時間がかかると言われていた。
半年は覚悟した方がいいでしょうとカシオが言っていたのだが、思いのほか早く審査が通ったらしい。
他に難民の人が比較的少なかったこととかが関係あるらしい。
らしいばかりでよく分からないけれど、取り合えず運がよかったのだろう。
しかし、そうなってはプレゼンのために時間も少なくなるわけで。
もしかしたらセイリオス達と居られるのもあと2週間ぽっちなわけで。
そう考えると背中が寒くなった。
だから背中の温かさを忘れられないように、ちゃんと覚えておくために、今だけはいいよね。
と凭れたままウトウトし始めてしまうのもここ最近のルーティンであった。
因みに、日本では。
燈は頑張る方向を間違うこともあって、よく母親から注意を受けている。
光も灯も両方同じくらいかわいいと思っているのだけれど、光が無自覚なのでついつい、過保護になってしまうことが多い。
お小遣いは貯金と防犯グッズに費やされているので部屋は少し、いかつい感じに仕上がっている。
燈の友人たちは何をそんなに怯えてるんだと笑うが、一様に光を見た後はなんとなく納得してしまうのであった。
そして、灯の方はというと。変態が光を見ている目を見ていたので自覚はある。変態怖い。変態酷い。お兄ちゃん、何笑ってるの!? お兄ちゃんの身を守るにはまずは、自分からと思っているので自衛をしっかりするようになった。
何も自覚がないのが光なので、燈が過保護になるのも仕方がない……と燈も灯も思うのであった。
44
お気に入りに追加
550
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる