確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

暗躍するのはそこそこ得意30

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「で、坊主はもういいのか。話したいことは一通り話したのか?」
「はいっ、くわしいことはしりょうにもまとめてあるから、見てください」

 会議室に全員が入っていく途中でダーナーがヒカリに問いかけた。
 ヒカリはいい返事をしていたが隣のセイリオス達は机の上の小瓶を見て驚いた。確かにそこには空になった自白剤の瓶が置いてあったのだ。
 その隣にはピンク色の中身が金色の液体がキラキラと揺蕩っている小さな小瓶も置いてあった。しかしそれを見てスピカがさらに怒り出した。


「あんたら! 何を飲ませようとしてんだっ。権力をかさに着て、こんなものをっ」

 スピカは急いでピンクの小瓶を机の上からとり、見分しながらこめかみをぴくぴくとさせ、ダーナーとカシオを睨んだ。
 が、そこでそっと手を出したのはヒカリだった。スピカの手元に手を重ねまっすぐ眼を見る。

「あのね、それね、僕の。僕が今日使おうと思って持ってきたの……おこた? ごめなさい……」
「はぁっ!? えっ? ヒカリいつこれ、じゃなくて、え、これ何か知ってる?」
「うん、知ってる。僕が僕のお金で買ったの」

 スピカはそれを聞いて目を白黒させ顔を真っ赤にした。

「えっ、ちょちょ、ちょっと待ってな。今、ちょっと頭、整理してるから」

 混乱しているスピカからセイリオスがピンクの小瓶を取り上げ何の小瓶かと確かめて、また驚いた。

「え、ヒカリって、このおっさんたちのことすきなの? 愛しているの? え、えええええ、エッチしたいの? あ、やっぱり待って、俺ちょっとだめだわ」

 すごくショックを受けたスピカが両ひざと両手を床について蹲ってしまった。それをヒカリは優しく背を摩りながら、とてもいい笑顔で聞いた。



「スピカ、えちってなに? あ、えっちはしちゃいけないこと? していいこと? 教えて? 」

 ヒカリはいつも通り、わからない言葉を聞いただけだったのだが、スピカは更に蹲ってしまった。
 それでもヒカリは辛抱強く、スピカしんどい? 疲れた? 大丈夫? と背中を摩り続けた。


 そしてプッという音と共にカシオが体を震わせて、下を向いた。


 セイリオスが確認したところ、その小瓶のラベルにはこう書いてある。

「愛のささやき」

 そして説明書きにはこう書いてある。

「これを使えば初心者でも心も体も準備ばっちり、素直なあなたに相手もメロメロ。愛の媚薬で楽しい夜を……さらには」

 おしゃれさを追求しているためか文字の形がだいぶ読みづらいが、しっかり書いてある。
 いや、まだ、説明書きをしっかり読んでいなかっただけかもしれないと思い、セイリオスがヒカリに問いかけた。

「ヒカリ、これを買う時、説明をちゃんと聞いたか?」

 ヒカリは少し考えて、にっこり笑っていった。

「うん、聞いたよ。えっと、二人どーじは勢いが大事。甘酸っぱいハツコイ味。開けたらこーかがうすなるから、一回で全部飲む。ヒカリ飲んでもダイジョブ成分。こーかは3時間。大きいでもホグセバはいる? 4000セル! 今日飲もうと思ったけど、なくてもダイジョブだったから余っちゃった……それ、また使うかもだから、ちょーだい」

 甘酸っぱい味……美味しそうな響きに少し惹かれる。
 さっきの自白剤もシュワシュワしていて美味しかったし、コレはどんな味なのか。金色は美味しそうな気はしないけど、飲んでみないことにはわからないな。とヒカリは唾を飲み込んだ。
 そして、さっきの味を思い出して唇をペロリと舐めて、セイリオスにいつもの癖で両手を差し出した。 


 その手をきゅっと纏めて掴まれる。

「ヒカリ、ちょっとよそでそういうお顔はやめようか?」
「そういうおかお? どういう顔? へんだた?」
「いや、あのな」
「ちくしょー、かわいいーんだよー」
「えっ、スピカどした? なにがかわいい? どこ? なに?」

 蹲っていたスピカがヒカリの説明を聞いて、物欲しそうな顔を見て両手をドンッと床にぶつけた。
 驚いたヒカリは気が逸れて、かわいいものを探しにスピカを覗き込みにいく。


 いつもならここでカシオが止めにはいるのだが、笑いのツボに入っていて、もはや顔をあげることすら不可能らしい。
 ここは、俺の出番じゃねーだろーと大きくため息を着いたダーナーはヒカリに声をかけた。


「おいっ、ヒノ! こっち来い」
「はい!」


 よい返事をしたヒカリがとたたたとダーナーのそばにいくとむんずとヒカリをつまみ上げた。


「おい、お前ら。落ち着け。どう見てもナニかがあったような淫靡な雰囲気に見えるか? これが?」

 ヒカリはつまみ上げられたままニコニコしている。
 おー、大きい! セイリオスとおんなじ目線だ。コレくらい大きくなったらいつでもセイリオスの目を見てられるのになぁなんて考えている。

「もし、こいつがナニがあったとして、この様子だったら俺は信用印を押さねぇぞ。それこそ、手練れかただの好き者だ」


 ヒカリは信用印を押さないと言う発言を聞いて驚くが、すぐさまダーナーがヒカリに告げる。

「いいか、今のはたとえ話だ。押さないとも押すとも言ってねぇ。これ以上場を滅茶滅茶にするな。お前は俺がいいって言うまで少し口を閉じておけ。わかったか?」


 ヒカリは両手で口を押さえてこくこくと何度も頷いた。そうすると、優しく床に下ろされた。


「なぁ、ヒノ。お前はこの小瓶にかいてある文字が読めるか?」

 セイリオスの手から小瓶を取り上げたダーナーはそれをそのまま、ポンっとヒカリの手に載せた。

 ヒカリは小瓶をよくよく観察する。クンクン嗅いでみるがなんにも匂わない。かなりしっかり密閉されているようだ。

「もじってどれですか?」
「こっからここまでだ」


 あれ、これ、お洒落な模様じゃなかったのかと、うにゃうにゃした線に目を凝らして解読できそうなところを読み上げる。


「マンネリギミノ、アナタ、ニハ。……ドンナハゲシイプレイ?……モオテオノモノ。ニリン、うぐっ、うぅぅ? ういんあ?」
「ヒカリ、もう読み上げなくていいから」


 スピカがいつの間にか起き上がっており、ヒカリの口を優しく塞いだ。
 ヒカリは口を押さえられたまま見上げる。この説明書声に出しちゃいけなかったのかな。異世界の常識って難しいな……。

「というわけで、ヒノの頭ン中はお花畑なわけだが。とりあえず説明はヒノにさせる」
「ふぅ……。そうですね」

 ようやく笑いの地獄から戻ってきたカシオが机の上に置いてあった紙をぺらぺらと持ち上げる。

「私たちはヒノさんと約束してしまったので、説明できないんですよ。ですから、ヒノさんから説明してもらいますね」
「僕が?……あ、でも、その」


 しかし、説明してもいいものだろうか。
 怒られる、最悪は失望されるかもしれない行いをしたのでヒカリはちょっと戸惑ってしまう。どうしようか視線をさまよわせているとダーナーと目が合った。
 ダーナーはスピカみたいに頭をガシガシかくとセイリオスとスピカに背を向けて、ヒカリの横にしゃがみこんだ。そしてそっと小さな声で耳打ちをした。


「おい、仲直りさせてくれるんじゃなったのか? 話し違うんじゃねぇか? このまま、お前が説明しないと、多分、おそらく、かなりの確率で仲直りは不可能だぞ?……大丈夫だ。正直に話したことで怒ることなんてあるか? お前の気持ちでやったんだろう。それで怒られるッてんなら、それは怒るって言う感情じゃねーから。心配なだけだから。そのときは甘んじて受け止めてやれ。兄貴だったらそれぐらいできんだろう?」

 ダーナーは肩を組もうとして、ヒカリの上から手を伸ばしたところでやめた。
 その小さな肩が少し震えたからだ。それは決意を込めた震えだったのかもしれないが、気付いていないだけかもしれない。


 ヒカリはダーナーの言葉をゆっくり咀嚼して、眉毛をきりりと上げた。

「うん、本当、ね! 正直に話す。大丈夫! 課長さん仲直りできるよ。待っててね」


 俺はお前に心配されるほど落ちぶれちゃいないんだがと言えたらいいのだが、そのりりしい眉毛を見てカシオほどではないが少し笑ってしまった。


「あぁ、まかせた」







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