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第2章
過保護になるのも仕方がない45
しおりを挟む本を片手に抱えてヒカリは図書館を少しうろついていた。今日はウトウトせずに調べ物がよく進んで、本を一つ借りようかと人を探している。
地理について簡単にまとめてある本を見つけたのだが借りるにはどうしたら良いのだろうかと、うろうろしていると顔なじみの図書部員がそばにやってきた。
「ヒカリさん、こんにちは。どうかされましたか」
「こんにちは。これを借りたいのですが」
「こちらですね。では手続きをしましょうか」
この図書館で難民の自分が本を借りるのは限りなく無理に近い出来事だったのだが、今日の付き添いで来ている難民部部長が許可を突然、許可を出してくれたのだ。
どうやらヒカリが真面目に調べ物に取り組んでいる姿を評価したのだとかどうとか、セイリオスが言っていた。
自分の仕事もしながらヒカリのこともちゃんと見ていたのだと驚いて、やっぱりすごい人なんだなぁと一人頷く。
借りられるものの種類が限られているので、いちいち図書部員に尋ねなければならないのだが、本が持ち帰られるという事は家でセイリオスに教えてもらえるかもしれないという事で、少しうきうきしている。
大人しく待っていると後ろから背中をトントンとたたかれた。
「よ、ヒカリ」
「あ、こんにちは。フィル」
振り返ったヒカリを見てうんうんと頷き満足そうな顔をしているのは、セイリオスによってこっそり雇われている王城受付のディルの甥のフィルだ。
どうやらあの兄ちゃんたちはしっかり働いているようだ、の頷きである。
あの件があった翌日の昼頃、雇われたフィルは偶然を装ってここへやってきた。
そうすると、ヒカリがうとうとと机で舟をこいでいたのだ。近くに寄ると眉間にしわが寄っていてひどく辛そうな顔をしている。
急いで起こすと、パッと目が覚めたヒカリは照れたように笑って今日はなんだか集中できないやと溜め息をついていた。
「じゃあさ、そういう時はやめちまおうぜ。俺たち知り合ってまだ間もないし、自己紹介しよう」
そう提案するとヒカリは嬉しそうに目を光らせこの話に飛びついてきた。
そこからお互いの話をしていたらヒカリがとんでもないことを言い出した。
「あっ、そうそう、あのね、僕、前、あの人見たことあった」
「おぅ、へぇー、いつ?」
何とはなしにフィルも聞き返す。
「ちょっと前、この図書館で。手振ってきたから、知り合いかと思った、けど違うかった。あの人と思う。さっき、ゆめで見て、思い出したんだ、けど。えっとねこういうかんじの……」
似顔絵をサラサラ描いていくヒカリを横目に、ってそれ前々から狙われてんじゃねーかとは思ったが、へーとだけ言ってその場はそれで収めておいた。
しかも話を聞くと自分も手を振り返したらしい。だって、知り合いかと思ったら振るもんじゃね? てきな。お前の立場で知り合いって。そうそういないはずじゃないの? 夢で見たってそれ悪夢じゃん?
だから目を覚ました時、顔色が悪かったのかと納得した。そしてすぐその描かれた似顔絵をフィルは自分のカバンに突っ込んだ。伯父に渡せば何かわかるかもしれない。
という事で今のヒカリの顔を見てホッとしているのだった。
ちゃんと寝られているみたいだ。そう思うと声に出してしまっていた。
「ちゃんと寝られてるみたいじゃん」
何がと言う顔で見てくるので悪夢みるんだろ? と聞くとこれまた少し照れてふっふっふと笑う。
「そうよ。よく寝れてる、よ。昨日はスピカと寝たんだ」
「う? うん? なんて?」
「えっと、昨日はスピカの部屋でスピカと寝た、から悪夢はみません、でした。朝まで、ぐすり、寝ていました」
ひどくゆっくりはきはきと言葉を紡ぎ出したヒカリの発言は、その年齢でどうなんだろうと思うようなものだった。
この国の慣習的にその年齢で人のベッドで寝るという事は、そういうこと、を連想しても致し方なく。
だとしたら由々しき事態ではないだろうか。
傷心気味の難民のか弱そうなこのヒカリに、いかがわしいことをしている大人がいるのなら通報しなければとフィルのアラームが鳴り響く。
「寝たって、ドドドどういう風に?」
「どういう風に? あのね……」
ヒカリは昨日の出来事を思い出していた。
コロコロ口のなかであめ玉を転がして、セイリオスと家路をのんびりと歩いていた。
あめ玉の味を堪能しているとどこからか良い匂いが漂ってくる。
この匂いはスピカが作る特製ハーブの鳥スープに似ているなとヒカリの鼻がクンクンと動いている。
それを見てセイリオスの肩が少し震えた。
「ねぇ、セイリオス! 良い匂いがするねー」
そんなことを言いながら家に着くと、匂いはどうやら自分の帰る家から漂っているようだ。
あれ、今日のご飯の担当はセイリオスの仕事なのにと思いながらもその匂いにワクワクして玄関へと向かう。
今日は丸型が文字を出しながら出迎えてくれた。
「ただいま」
「へへ、ただいまぁ」
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