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第2章
過保護になるのも仕方がない32
しおりを挟む晩御飯を食べた後、いつもの通りソファでまったりしていたらずずいと両脇にセイリオスとスピカが座った。
二人がいつもより大きいのか距離が近いのかは分からないが、ヒカリはいつもよりぎゅむっと挟まれている感がある。
でもいやじゃない。夏で暑いはずなのに、どうしてか安心するので、つい鼻歌が出てしまう。
今日はいつになく筋肉を感じるんだけど、どうしたんだろう。
二人とも無言なのでヒカリは今日メモしてきたことをおさらいしている。
意味の分からない単語があれば教えてくれる人がいる間に聞いておかないと。
一通りわからない単語をおさらいした後、セイリオスが口を開いた。
「ヒカリ、明日はどうしたい?」
「明日は……? えと仕事。なんで」
「そのな、午前中は仕事して、午後は図書館に行くって言うのはどうかと思って」
「うぅん、でも人いないし、図書館はいけないよ」
ヒカリはメモをカバンの中に片づける。
次行くときに忘れないように持ち歩こうっと。あ、ハンカチ洗濯物に出すの忘れてた。
「それがな、付添人の立候補がいくつかあって」
「え?」
つい、手に掴んだハンカチをカバンに戻してしまう。
「難民部の部長がな……」
「あ!!なんみんぶぶちょーさん! え? 本当? すごーい、あ、お邪魔じゃない、かな? 忙しーでしょー」
「後は警吏課の人が何人か交代で」
「え、けいりかのひとも? え、何で何で?」
何でって警戒されているからだよ。だから仕事で監視したいんだとよ。
とはこのキラキラの眼を見ては言えまい。
ヒカリはなぜか難民部の部長に尊敬の念を抱いている。
こんなややこしくした元凶でもある人物だが、ヒカリにはそれを伝えず、それ以外を伝えたらこうなった。
「ヒカリいつも言うけど、部長はそんなにいいことしてないよ?」
ヒカリにこういうと。
「休み貰う当たり前、でも、くれないこと多い。法律できまてても。周りの目、厳しい。だから、上司が頑張る。すごい。なかなかできない」
と言う。
この話をした当初は母国語で『だって、セイリオスに2か月も休みくれたんでしょう? 自分が仕事をかぶってまで、部下の休みを取らせてくれて。日本の男性育休取得率を見たらその部長さんは涙するに違いないよ。上司の鏡だよ! まぁ、セイリオスの折角の休みも僕が貰っちゃたようなもんだけど』
と言っていた。
「難民部と警吏課の仕事上、ヒカリと動くことは問題ないんだ。だから仕事として出られるんだ」
「そうなの」
ヒカリはそう聞いても何か考えているようだった。あともう一押ししてみようか。
「3時間ほど交代で付き添いをしたら仕事にも大きな支障はないだろうし、図書館で少しは息抜きになるんじゃないかと思うんだが」
「あ、そかそか、確かに!! セイリオスかしこっい」
「そうそう、難民部部長も最近お疲れ気味だったぽかったから」
どうやら納得してくれたらしい。
ヒカリは先ほど片づけたはずのカバンの中身をもう一度取り出して予定を書き込み始めている。ふんふんと鼻歌も歌っている。
因みにセイリオス達が言ったことは断じて嘘ではない。ヒカリのようなか弱い難民の図書館への付き添いならさしたる労力でもないのだ。
さらに言うと難民部部長がお疲れ気味なのは本当だ。偏に本人のせいでもあるのだが。
次の日、朝から元気なヒカリはお代わりを三回もしてから仕事へ向かった。
仕事場でも魔道具関連課の上司と話して、難民部部長が今日は来てくれるんだってと言うと、僕もお邪魔しようかななどと話が盛り上がっていた。
そうしてやってきた約束の時間、握ったヒカリの手が少し汗ばんでいる。
図書館で待ち合わせたのだが、時間より少し早く着いた。ヒカリが遅れちゃ不味いよといつもより早歩きをしたからだ。
それなのに、難民部部長の姿が見えす、待ち続ける事30分ほど。
そりゃ口数も減るし手汗もかくだろう。
難民部部長とは交換条件で来てもらうことになっている。
セイリオスが案件を一つ引き受けるから付き添いに来てくれないかと言えば渋々請け負ってくれたのだ。
だが、遅刻するとは聞いていない。
いい度胸じゃねーか、あの野郎、と心の中で呟き始めたところ汗をかきながら歩いてきた難民部部長がやってきた。
「すまん、話し込んでたら少し遅れ……ひぃっ」
「それはそれは、大変お忙しいようで」
難民部部長はセイリオスを見たとたん、動きが止まって違う汗が出始めた。
ヒカリはセイリオスの手を離し真っ直ぐピンと立ち体を90度に折り曲げた。
「はじめましてっ。セイリオスさんのところでお世話になっている。ヒカリヒノです。今日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いします」
昨日話し合いの後、何回も練習した口上を噛まずに言えたヒカリは難民部部長の返事を待っている。
ので、セイリオスがにこやかな顔を向ける。
「ひっ」
ひっじゃねぇだろうと思いを込めた目線を向けると、難民部部長も気が付いたのかヒカリの方へ目線を向けた。
「あ、あぁ、今日はよろしく」
返事をもらえてようやくヒカリが顔を上げる。
しかし、その顔を見て難民部部長はまたしても声を上げる。
「うっ」
伏せられていた顔は声を掛けてもらったことによる高揚と緊張でほほが少し赤く染まっていた。
その利発そうな黒目がちの瞳をキラキラとさせて一心に見つめられ、少しふっくらとしてきた頬はその心持ちを隠せないのか少しゆるっと緩む。
興奮を隠そうとするその姿は普通の人なら庇護欲を掻き立てられてしまうだろう。
そして後ろめたい気持ちがあるものなら、この純な生き物を見たらどうなるか。
「うぐっ」
「あ、ダイジョブですか!? どうしよう。セイリオス!スピカ呼ばなくちゃっ」
「いや、大丈夫だ。気にするなヒカリ」
「でも、むね苦しいの。危ないよぅ」
「いや、あれは一過性のものだ」
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