確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
上 下
76 / 424
第2章

過保護になるのも仕方がない22

しおりを挟む



 いや、お前知ってるよな? 
 めっちゃ最近の話だよな? 
 十四、五年ちょっと位前だからな。この話。


 しかも魔道具関連課なら知ってる話だ、あの上司の逸話として聞いてないやつはいない。
  
 あの地獄の三か月はこいつの整理整頓ができていたら3日で解決していたんじゃないか伝説。先輩にも聞かされてるはずだし、何ならセイリオスも関係者だ。


「そっかぁ、それでヒカリくんはどうしてそんな話を俺に?」


 ようやく戻ってきたか、お茶もう一杯入れてこよう。


「あのね、だからね、ありがとー」
「え、何が?」

「今、タウさんが素敵って言ってくれた絵。これがあるから描けたでしょ? だからタウさんにありがとうって言いたい」
「でも、俺その時、まだ仕事してないよ?」

 まるで子どもと話しているような気になって、タウはヒカリに伝える。その話は俺じゃないのよね。

 しかし、ヒカリは首を傾げてニカッと笑う。

「うぅん。おなじよ? まどーぐかんれんか。その時とかわてない。いつもいそがし。誰かの為。未来の為。昔の人も同じ。未来の為がんばた。だから、ありがとー。いつもありがとー。つながてる。過去と今と未来と。それにタウさんとセイリオスと、作る人と、使う人と、ヒカリとね? でしょう?」

 疲れた社会人の体に言葉が浸み込んでいった。
 思わず抱きしめそうになってしまう自分に驚く。その勢いでキッチンの方へ振り向く。
  

「せいりおすぅー、いい大人が泣いちゃうよー。泣かされちゃうよー。助けて―」

 だから何で俺に助けを求めるんだ? 新しく入れてきたお茶を運んできたセイリオスにつかみかかろうとするタウを足蹴にして席へと戻る。

「ほら、どけって。こぼれたらお前ただじゃおかないぞ」


 と言うとタウも正気に戻ってソファに座りなおす。
 ヒカリはちょっとびっくりしている顔をしている。あの顔は恐らく、そんなに仕事忙しいのだろうかと思案しているのだろう。もじもじし始めたぞ。次は何だろうか。

「そうだ、ヒカリ。手紙の配達料金もう渡したのか?」
「あ、忘れてた!」

 ポケットからヒカリが正方形の財布を出して金具に巻き付けてある紐をグルグルと解く。その中から50セルを取り出しタウに差し出した。


「タウさん、ありがとうございました! ……あとこれも!」

 タウも手を差し出し料金を受け取る姿勢をしていた。その掌に50セルが置かれ、もう一つヒカリがポケットから何かを掴みぽとりと落とす。


「頑張ってるからご褒美! すごくおいしいよ」


 そこにはヒカリが最近気にいってる飴玉が一つ。タウが止まる。


「ごほうび……久しくないな。そういうの」

 小さい声で呟き震える。そんなタウにヒカリはまずいと思ったのかさらにご褒美を上乗せする。


「えとぅ、タウさんがよかったら、このペンで絵を描く? 」
「え、描いてくれるの?」


 若干戸惑い気味にウンと頷くヒカリは恐らく、ペンを貸してあげようとしただけで描くとは言っていない。ヒカリの評価は自分の絵と言うよりペンがすごいからという評価になっているのだ。


「うん? そんなにヒカリの絵ほしい? タウさんの方が上手じゃない?」
「うん欲しい。ヒカリくんを知ってるから欲しいのかも」
「え?」
「あー、そうだな。ヒカリが描いた絵にはさ、ヒカリの気持ちとか思いがこもってて、ヒカリが好きな人からしたら、あると家が温かくなるんじゃないか? 癒されるというか、元気になる。ヒカリの嬉しいって気持ちとか幸せを分けてもらってるような気持ちになるんだ。だから、俺も欲しくなるよ」


 そう伝えるとヒカリはポポポと頬を真っ赤にした。
 耳まで赤い。そして照れて恥ずかしそうに口角が上がり、最後は満面の笑みになった。


「そういうことなら、わかる、よ。僕も弟の、絵、飾ってたから。同じね?」

 そのあとは何の絵が欲しいの? とヒカリが聞き、タウがヒカリくんの好きなものを描いてほしいといえば、また悩んでいた。

「それにさー、この色ペン珍しい色ばっかだね。高かったんじゃない? お財布もいい財布買ったね? やっぱり初給料は夢があるよねー」

「あ、その、これは自分で買ってないの……。その、貰ったの。あのね、起きたらあった。知ってる?」
「あぁ、精霊の歓迎が来たの? そっか。よかったね」


 そうタウが言うとヒカリは目をパッと開いて驚いた顔をした。








しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

処理中です...