確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない21

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 居間で床に直に座って話し始めるヒカリを抱き上げる。

 そして、抱きかかえてセイリオスとタウの間にねじ込んだ。
 ヒカリはそんなことお構いなしに話をつづけている。この話は長くなるのだ。夏とはいえ床に長く座らしてはいけない。痔になるぞとスピカが怒るだろう。


 この話の発端はペンの製品の中での良し悪しについて、調査をしていた一人の部員が関わってくる。
 その部員はある種類の木に着目した。その木でインクを染み込ませると色の変化率が著しく低いのと、浸透率がかなりいいことに気付いたのだ。


 そのことが明るみに出てもすぐに何かが起こったわけではない。
 昔からこの木を使ってペンを作っていたので職人の共同財産みたいなものだった。木を管理している山の親父も需要が高まったからと言って無理やり値段は上げすに、しかし資源が無くならないように調整しながら木を売っていた。



 そこは以前なら何の特産もないような地域でその木がやたら生えていて、建築などに安価で下ろしていたのだが、ペンを作るのに相性がいいと分かってからは購入者が増えた。
 親父は家族でそこら一帯の山を管理していた。


 しかしある日それに目を付けた商人にだまされ、土地の権利は奪われ、管理だけを低賃金でさせられるようになってしまった。
 もちろん木の値段はあがり、親父もこき使われて体を壊してしまった。


 そこで立ち上がったのが職人たちだ。職人たちは王城にも商品を納めていて、相談を持ち掛けた。
 対応したのは魔道具関連課だった。


 王城としても取引しているペンの値段が上がるのは避けたいところだったのだろう。
 一緒に開発した特殊なインクを使ったペンなどは王城での様々な契約書や特殊な呪術に使うため、他のペンでは替えがきかないし、他の木では上手いことインクの色が定着しないのだ。


 そこで魔道具関連課が何故か法律書を漁りまくり、ペンに関しての経過を探り続ける事3か月。
 そこは地獄と化していた。
 屍が転がる中で今のセイリオスの上司が同僚の質問に返事をした。


「あぁーそれねー。したした。サインでしょ? 知り合いの子にさぁ、いざって時にサインしといたほうがいいですよって言われてたから。何だっけ、使用許諾書? ほら、あれの技術って王城的に秘匿部分が多いからさ、権利を事細かに分けて王城と、職人とで分けてるの。で、なんだっけ…」



 要領を得ない話をまとめるとこうだった。


 この人物は自分で開発した技術の権利に関して興味がない。
 しかし、彼が関わった技術は数えるとごまんとあるだろう。今回の技術も彼が関わったことはわかっていたが、興味のないことをしないので、権利関係に関しては取っていないと言っていたのだ。


 その為、他の権利関係や法律の抜け穴を探す中で、屍の一人が細々とした一見本件に関係ないような権利書を見つけた。


「色粉と魔油に関する浸透率についての使用許諾権に関して」


 木に関しては一切書いていないが、この浸透率について書かれた権利書は作られているインクに関する割合の調合に関してだった。
 そのどれもが彼の考えた割合で、ここには基本的な色が揃っていた。膨大なお金と時間と発想がなければここまで網羅できない。しかし彼はそれをやってのけたのだ。
 そして各色の黄金律を用いることでさらに数多くの色が出せるようになっていた。

 そしてこれは使用許諾権についてだ。
 この国には特許というものが存在している。これは外交を結んでいる国同士でも結ばれていて、もし真似ているような様子が見られた場合、その国で保管されている特許と製法などを確認し、技術を無断使用した者には罰が与えられるようになっている。特許の期限もものによって違う。


 そこに古来からある技術や、普及している技術などは含まれない。
 新しくできた技術で難しそうなものほど特許の期間が長くなる。ばれたくなければ特許を取らないか、まねできないようなものを作るか、とりあえず身内で秘匿状態にしている。


 では特許はどうしてあるのかと言うと、特許料と言うものを払えばその技術が使えるようになるからだ。
 そうやって技術を生み出したが権力が弱く、技術を盗まれやすい職人を保護するために特許という仕組みがある。


 職人も使用料が手に入ればさらなる研鑽が望めるし、特許で一儲けできることもある。


 その中でも未来永劫と言っていいほどの期間、特許を持ち続けることができるものがある。使用許諾権の付いた特許だ。
 これを申請するとその特許は問答無用で国内、条約を結んでいる各国にも技術が詳細に公開される。使用料金も取らないものだ。


 何のうまみもないように思えるが、これは技術を公開することでさらなる発展をもたらしたいという技術者のための法律である。
 この法律で公開された特許を使用し、独占を行ったり、直接的に犯罪に使ったりした場合、どの国も総力を挙げて取り締まるようになっている。



 さて今回の木に関しての独占は果たしてその法律に触れるかと言うと厳しいところだった。
 のだが、またしてもかの問題児が発言したことが解決へと導く。


「つまりね、現在、その原材料になる木が伐採されまくって高値で売られて無くなりかけてるでしょう? 何だっけ。資源保護の法律の中にある……。持続可能な社会の治安維持のためについての法令の第129条の5項目に……。国家の存続にかかわる資源が枯渇しないようにその資源を正しく使用する義務が使用者にあるんだって。だからさ、それって犯罪でしょう? その権限を使って……何だっけ。あっそうだ! 僕、今ガラスの透過度について実験してるんだった、じゃあね」


 つまり、木の独占は法律で取り締まれないが、その129条に触れている国家反逆罪に触れるためペンの製造を一時的に止めると言うのだ。
 さらに言うと、この許諾権に関して審査が入ると国内でのそれに関する取引が一切できなくなる。もし木を売りたかったら、安値で建築材などにして売るしかないのだ。つまりこの期間で国内でペンが売られていた時点でその人々は取り締まられていく。


 売る方も売れないし、買う方も買えなくなる。
 裏取引をしたところで売りに出せないのだ。
 しかも木材なので大きくて目立つため密輸して保管しておこうにも査察が入ればばれてしまう。


 という事でうまみのない取引となってしまった木の売買を商人はさっさと諦めた。
 と言うか、怖くなったのだろう。何だかんだ言ってそれなりに普及していた物が使えなくなったら、誰のせいだよと怒り出す。貴族も庶民も一丸となれば商売どころではない。さらに言うと外交を結んでいる各国とも取引ができずに悪名が轟くのだ。




 という長ーい話をタウはうんうんと相槌を打ち、リアクションをして、話を聞いていた。


 



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