確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない19

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「あっ!」 


 チャリンチャリンと硬貨が散らばってしまった。ヒカリのなけなしの全財産だ。
 さっと手を出したつもりだったが、遅かった。その上、差し出した手が邪魔をしてしまったようで、お金が四方八方に転がっていってしまう。

 しゃがみこんで一枚一枚拾っていく。封筒に入れているから仕舞い辛かったのだろう。


 でも、今はこれしかないし。


 いつか余裕ができたら財布も買おう。簡単な巾着みたいなものを作ってもいいかな。


 封筒にチャリンと集めながら、ふと思い出した。


 日本にいた時は100円均一のお店の簡単な財布を使っていた。
 マジックテープで開けるやつだ。マジックテープのペリペリ感が結構好きだった。100円で機能性に優れた財布を作ろうという意気込みが籠っていて愛用していたのだ。



 しかし、ある日、クラスメートの男子が中3にもなって財布が100円均一のやつとかダサすぎだろう。女にもてないぜとか言ってきて、ひゃっきんとか呼ばれるようになった。


 修学旅行の時にそう言われて、でも使いやすいし、別に人の財布なんてそんなに気にするものかな。
 ていうか周りのみんなもそんな自分のお小遣いで買えないような高級な財布持ってないよ。僕大人になってほしいのがあったら自分で買うし。


 なんて財布の話をする度に言っていたら、しつこく付きまとわれて、俺のお古の財布やろうか? とか言われて、そんなとげとげの生えた財布、カバンの中に入れてたら邪魔じゃない? って言ったらまた怒って無理やり財布を渡されそうになった。


 高いんだぞ。受け取れよ。
 ていうのがうるさくて無視してたら、気付かないうちにカバンに入れられてるのに家に帰ってから気付いた。


 盗んだとか言われるのが嫌で素手で触らないようにした。
 ハンカチでくるんで保存袋に入れて明日返そうとしてたら、家に帰ってきた兄ちゃんにそれどうしたって聞かれて、このもやもやした気持ち丸ごと、正直に話した。



 聞いた兄ちゃんは困ったように頭をポリポリ掻いていた。
 僕はだよねぇ、変な人だよね。いらないって言ってるのに無理やりカバンに入ってるんだもん。いつ入れたんだろう。なんて一人でしゃべってたら兄ちゃんがちょっと待ってろって、部屋に戻って綺麗に袋に入れられた包みを渡してきた。


「なにこれ? おいしいもの?」
「ばか、違うよ。本当は誕生日に渡そうと思ってたんだけど、必要な時にあったほうがいいよな。開けてみ?」


 ちょっと重いそれを開くと中から、正方形に近い形の深い緑で端っこに赤いスタンプが押されている皮でできたような財布が出てきた。

「わぁ、かっこいい! わわわ! すごい。わ、これ、いいの?」
「あぁ、いいよ。その代わり今年の誕生日プレゼントは無しな? 丈夫なやつ選んだから、長く使えるぞ」
「うん、うん! 大事にするよ! 一生使う! ありがとう。兄ちゃん、大好き!」
「うんうん、お前は中3になっても変わんないね。俺も大好き!……いやーはずぃ。それよりその使い勝手の悪そうな財布は返してこい。変な因縁付けられても嫌だろう。兄ちゃんにもらったやつあるからってそれ見せたら相手も退くだろう」
「ありがとうー! 兄ちゃんかっこいい! 僕も灯に同じようにしてあげたいな」
「じゃあ、お金貯めないとな。あとはセンスも磨かないと」
「そうだね! 兄ちゃんに弟子入りするよ」


 そう言えばこっちに来た時に持ってきたカバンの中には財布が見当たらなかった。
 来るときに落としてしまったのだろうか。一生使うって言ったのに。嘘ついちゃったな。

 僕だけの、兄ちゃんが選んだ財布。
 あれ見せたら、あの男子もかっこいいじゃんって言ってくれて、僕も、でしょう?ってちょっと鼻高々になった。財布にこだわる人の気持ちが少しわかったような気がした。



 あの財布はもう僕の手元には戻ってこないのだろうか。ようやく手になじんできた、僕だけの。





 封筒の中に入ったお金を数えると少し足りない。どこに落ちちゃったのかな。

「おーい、ヒカリ何してるんだ?」
「しんどくなったのか?」

 戻ってきたヒカリの保護者が近づいてくるので、ヒカリは笑う。

「ううん、お金落としちゃた。だけ、しんどくないよ?」

「見つからないのか?」
「何セル落としたんだ?」
「20セル……」


 20セルなんて駄菓子屋さんで子どもが使うようなお値段だ。こだわるような価値はないかもしれない。しかし、そう告げたら二人が同じようにしゃがみ込んで棚の隙間をのぞき込む。
 スピカが棚の奥を魔法で照らし、セイリオスも魔道具を出して棚の隙間を照らし、見ていく。

「お、あ、あるぞここに一つ」
「こっちにも!」

 二人がヒカリ! ヒカリ! と呼び手で招く。腕が太くて入らないからヒカリがとってくれと言う。

「でも、お店のかもしれない、よ?」
「いや、そこで落としたんだろう? じゃあ方向的にここに落ちていてもおかしくない」
「それに、守銭奴のキハナがお金を落としたまま放置しておくはずもないから他の場所には落ちていなさそうだし、ヒカリの20セルだよ。ほら早く!」

 後ろのキハナを伺えば、「守銭奴の何が悪いんじゃー」と腕捲りしていたので『守銭奴』が何かは聞かないでおいた。

 狭くて細い隙間に腕を突っ込んで指先で10セルに触れる。上からは二人が10セルを照らしてくれているので間違うことはない。


「あ、とれた!」
「よっしゃ、じゃ次はこっちな」


 同じようにもう一つの棚の隙間に手を伸ばして掴む。掴んだ10セルを持ち上げて眺める。
 確かにヒカリの10セルのような気がする。名前も書いてないし、他のと違うところなんて見つけられそうにないけど。ヒカリの10セルだと何となく思ってしまう。


 しゃがみこんだまま10セルを眺めているヒカリの頭にセイリオスが触れた。

「一生懸命探してたもんな。見つかってよかったな」

 セイリオスの手にはふわふわの埃が捕まえられていた。埃ってどこでつくんだろう。

「ありがとー。セイリオス! スピカ! ふふっ、これで、飴ちゃん買えるね?」

「そうだなぁ、じゃあ、ヒカリにおごってもらおうかな」
「じゃあ、俺も―。味はヒカリが選んでねー」

 飴ちゃんならヒカリは結構詳しいので自信を持って頷いておいた。

「まかせて、ね?」


 何だか計画以上のものを今日は手に入れてしまった気持ちになって、帰りは三人で仲良く、気になっていたお店や飴屋に寄り道して帰った。楽しくて帰りが少し遅れてしまったのも計画通りではなかったが、それでも構わない位楽しかった。








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