確かに俺は文官だが

パチェル

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第1章

自己紹介しよう8

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「ごめんなさい。ぼく、なんでもいい。レグルスを、お願い」


 やっぱりセイリオス達には管轄外だったりするのだ。彼らに迷惑を掛けられはしない。いい人なのかもと思ったが、いい人にだって生活があるんだ。これはヒカリの問題なのだから。そんなに虫のいい話があるわけがないんだ。




「ぼく、外。売って? お金なる? 誰か、助けていう」



「ダメだ」



 セイリオスはヒカリの頬に手を伸ばした。怖くて身がすくんだ。


「ごめなさ、でも、ぼく」



「ヒカリくんはここで元気になって、お家に帰るんだ」


 しっかり目が合う。パチパチ瞬きをするとその表情がはっきり見えた。


「レグルス君を助けるのは国の仕事。何にもいらない。対価を払わなくていい。ヒカリくんは奴隷になんかならない。一生。わかるか? 奴隷になんかならない。レグルス君も助ける。何もいらない。な? わかるか?」


 何度もわかるかと目を見て、伝える。
 今のセイリオスにできるのはたったのそれだけだ。でもしなくてはいけないことだと、今、彼に伝えなくてはいけないことだと思った。



 どうして? ヒカリの心の声は口にはでなかった。

 ただ、ヒカリはその辛そうに歪んだ瞳を見ているだけだった。






 セイリオスは話を聞き終わって、何か考えているようだ。ヒカリの絵を何度も見ている。所々、文字も書き加えていた。
 スピカはキッチンに立って何かを煮込み始めた。


 もう説明できることもなくなって、落ち着いたヒカリは手持無沙汰になって、オコジョの絵を描いた。
 しっぽがふっさふっさして先っぽが黒いところはオコジョと同じ。小さいけど爪が結構硬い。でもロボットだったんだよなぁ。あんなに柔らかいのに。



 その絵を上からのぞきこまれる。

「お、動物型じゃないか。うまいなぁ」


 見上げるとセイリオスがいつの間にか書類を片付けて箱を持って立ち上がっていた。先ほどまで張りつめていた空気だったのに何だろう、その箱、と見つめていたら、セイリオスが少しせき込んだ。


「はい、じゃあ、それ片付けようか? ヒカリ君」


 箱をヒカリの前の空いているところに置いた。


「ここにヒカリ君の物、仕舞おう。いつでも使っていいから、な?」
「イツデモ?」
「そう、いつでも」

 首を傾げるとセイリオスが小芝居を始めた。どうやらヒカリを演じているみたいだ。
 ポンッと手を叩いて書き始めるふり、寝ていたのに起き上がって書き始めたり、ふんふん言って歩いていたら書き始めたり。
 こちらを見て両手を広げる。

「いつでも、ヒカリ君の自由だ」

「自由。ぼくの?」
「よくできました!」


 ほめながらスピカがお皿を運んできた。そのお皿からホカホカと湯気が出ている。
 目の前の紙とペンを急いで片付けて、箱を横の椅子の上に置いた。


「ヒカリ君、今は何時かな?」

 時計を見ると、いつの間にか時計の針が13時を過ぎていた。お腹がぐぅっとなって、びっくりしてお腹を抑えた。

「正直者のお腹だなぁ。一生懸命説明してくれたから、気付かなかったんだな」


 ハハハと笑うスピカがお皿を目の前においてくれる。見ると真っ白のスープで粒粒が所々にあった。匂いは少し甘いような。上にパセリみたいなのが散らされていた。

「はい、特製ミルク粥だ! お米の甘さとミルクの甘さが胃に優しくしみて。疲れた胃にはもってこいだ」


 ちょっとずつ胃を慣らしていこうなとスプーンを渡される。みんなが座るまで大人しく待っているけど、涎が出てきた。

 牛乳でご飯を煮込むというヒカリの中にはないメニューだったが、匂いがとてつもなくおいしそうで鼻がすんすんと香りをかいでしまっている。セイリオスは笑みがこぼれそうになるのをこらえた。


 皆が席に着いたらヒカリの方を見てくるので首を傾げたらどうぞと言われた。ゆっくり手を目の前で合わせると二人も手を合わせる。


『いただきます』
「イタダキマス」


 なんだか給食係になったみたいに感じて、こそばかったが、目の前のご飯がヒカリを誘う。

 スプーンを入れるとトロリとしたスープにご飯粒がとろとろに煮込まれてピカリと輝く。こちらもスープは何のお出汁だろうか。野菜の味がとってもする。

 一口をゆっくり口の中で咀嚼して、お腹の底までぽかぽかとする。

『これも、おいしい……』

 熱いけど早く食べたくて急いでフーフーする。

「落ち着け、ヒカリ君。まだあるからな? やけどするぞ。ほら」

 その後ミルク粥をヒカリは三杯も食べた。
 2回目のおかわりは遠慮しようかと思って片付けようとしたら、何故かセイリオスがお代わりか? と持っていってしまったのだ。
 確かにもう一杯食べたかったので良かったのだが、やっぱりお皿は下げ損ねてしまった。お腹がいっぱいになったヒカリはウトウトして、睡魔との激しいバトルをしていたのだが、次に目が覚めたのはヒカリがいつも寝かされている部屋だった。




 机の上にはヒカリのいつでも自由に使える箱が置いてあり、紙とペンが入っていた。


 箱の外側にはきれいなこの国の文字で。



「ヒノヒカリ」


 と書いてあった。



『僕の自由なもの。いつでも書いていいもの』


 そこにもらった包み紙を丁寧にしまう。
 この世界に来て初めて手に入れた自分の自由なもの。それを感じると足元が少し暖かくなった気がした。

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