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七話

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「……へ? すきすきちゅっちゅって……はぁっ!?」

「お? その感じ……やはりお前もしっかり男だって所が良く出てて良いぞ! ナイス童貞感ッ!」

「いや、そうなんだけどうるさいよ!? というか、ある女の子とすきすき……ちゅっちゅって、昨日外出してたって話を聞いたけど、もしかして……え、もしかしてッ!?」

(ふむ……『すきすきちゅっちゅ』って単語は、ルーナくらいの歳の子が知らなかったってだけで、一般的には浸透してるんだなぁ。なんでだろう、俺の造語なのに)

 シセルは『造語』などと言っているが……誰でも思い付けそうな程に簡単なモノである為、ルーナの様に幼い子供でも無い限り……基本的には大体の人間が理解できるだろう。つまり、別に『すきすきちゅっちゅ』を知らなかったとしても大半には伝わる。問題は──

「あらあらレア君……君は今一体ナニを想像しているのカナァ? ハッハッハッ、そうッ! まさにその想像通りの事をしてきたのだよッ!!」

「子供という事を利用して……外出ついでに大人の女性とすきすきちゅっちゅした挙句、その女性の家に上がり込んで……〇〇〇してッ!! 終いには、その人の恋人にバラされたくなかったら、明日も同じ事をしろだって? ダメだよ、シセル! そんな事ッ!」

 ──その単語から自力で意味を読み取った場合、その内容には個人差があるという事だ。

「なぁ俺、女の子って言わなかった? そこまでしてねぇよッ! というかすきすきちゅっちゅ以外何一つ合ってねーよ! バカがッ!」

 『いや、子供という事を利用したという点においては間違っていないか』と付け加えようとしたシセルだが……ある事に気付き、口にしようとしていたモノとは別の言葉が飛び出る。

「──つーかそれ、ネ〇ラレじゃねえかッ!!」

 そのようなツッコミも、自分の世界に入っている様子のレアには届かない。

「えぇッ! 大人の女性じゃなくて相手は子供ってこと!?」

(いや、子供が子供を好きになるのは普通じゃないのか? 本能的には大人を好きになる事が多いというのは良く聞くが。レアお前……もしかしてそれ、お前の性癖が入ってるんじゃないのか? 想像力豊か過ぎるというか、過激過ぎるというか、なんというか……へんたいだぁ~)

 シセルが発言した『すきすきちゅっちゅ』という単語一つから、ここまで妄想を膨らませる事が出来るというのは最早一種の才能と呼べるだろう。というか、このような知識を既に保有しているレアは一体何歳なのだろうか。

「はい。じゃあ、レアは変態という事で続きを話していくぞ~」

「いや、やめて!?」

「はいはい……俺が昨日ナニをしてたとか、一体お前がどれだけ変態なのかなんてどうッでも良いんだよッ!!」

「そもそも僕がどれだけ変態なのかとかいう話はしてなくない!?」

「俺は今から友達の女の子と待ち合わせをしている場所へ向かう。さっき言った通り、俺はその子とすきすきちゅっちゅをするから……そう、すきすきちゅっちゅをするからッ!」

 男友達に対して”女の子とイチャつける自慢をする”という事に優越感を覚えたのか『すきすきちゅっちゅをする』と強調するシセル。

「す、すきすきちゅっちゅするのはもう分かったから! 僕は何をしていればいいの?」

「お前は……まぁ、父さん達に報告できる程度で良いから、離れて見ててくれ。あ、そうそう! あの子、頭良いから……ガチで隠密しないと普通にバレると思うけど、頑張れ♪」

「えぇっ! そんなぁ!」

「まぁバレたらバレた……でッ!?」

 ──アレ……? もしバレたとして、ルーナには仲のいい友達とするモノと教えている『すきすきちゅっちゅ』を仲良くなったレアとルーナがする事になったらマズイのでは!?

 と……ここで看過できない事実に気付いてしまったシセルだが、問題はそれだけではない。普通に考えると、レアをシセルの友達として紹介する事になるのだが……そうなった場合、普段からレアとシセルが男同士・・・で『すきすきちゅっちゅ』していると勘違いさせてしまうことになるのだ。

「……ん? シセル、どうしたの?」

(クソッ! レアを女の子として紹介すれば……『男色家である俺がいつも男同士でキスをしている』と思われるのだけは回避できる……『俺は女の子が大好きで、ルーナの事も大好きだよ♪』っつーコトを伝える為だけを考えればアリだが、それはレアの心情を考えると完全にナシだ。他には……そ、そうだ! 友達としては紹介せずに、普通に専属使用人とか家族とかで行くか……? 家族かどうかは……見た目が違いすぎて絶対バレるし無理だ……専属使用人と紹介するのは、ルーナに圧を与えてしまうかも知れない為できない。……え、アレ? 全部無理じゃんッ! オワってね!?)

「……おーい!」

(まぁ、最悪レアを友達でもなんでも無い知らん人って言えば大丈夫か)

 何か色々面倒臭くなったシセルは何故かそう結論を出しているが……女性として認識されたくないという彼を女の子として紹介する事と、知り合いですらないと紹介する事……果たしてそれらにどれ程の差があるというのだろうか?

「……む、無視?」

 熟考のし過ぎで外の声が聞こえていないシセルは、胸の前で腕を組みながら『うーん』と唸り続ける。

「……シぃーセぇールぅーッ!」

「あ、すまん。考え事してた! ……え、お前泣いてる?」

「……泣いてない」

 漸くレアの声に気付いたシセルだが、割と長い間シカトされていたレアは普通に泣いてしまっていた。

「す、すまん……本当に考え事してただけだから、無視してた訳じゃないんだ」

「……うん」

「……ハァ。ほら、行くぞ!」

 お漏らししてしまったのであろう涙を隠す為に、後ろを向いているレア。その姿を見て思わずため息を吐いたシセルは──。

「わっ!」

 ──レアの手を強引に引っ張って、ルーナと待ち合わせをしている庭園へと向かった。
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