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ついで姫の主人王女レシスティシア side

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5歳の時だ。

「庭にとても強い女性がいたよ」と、お父様は私に話した。

お父様の話に登場した二人目の女性だった。

一人目は私が生まれてひと月もしないうちに亡くなったお母様。
お母様の話をする時のお父様はしんみりと目を伏せていた。

二人目が庭にいた強い女性――セレリア。
セレリアの話をした時のお父様は思い出し笑いをするほど朗らかだった。

だから私はセレリアにとても興味を持った。
お父様にどうしてもとお願いして、セレリアを私の侍女にしてもらった。


お父様は33歳の国王だった。
空席となっている王妃の座を狙い、令嬢を連れて王宮にくる貴族や他国からの使者がいた。

お父様は歯牙にも掛けなかったし、私も気にしていなかった。
けれどある日、私はそんな貴族と令嬢に出会した。

当時の私は内弁慶で、外ではいつも侍女の影に隠れているような子どもだった。
明らかに含みのある笑いを浮かべながら突進して来た貴族と令嬢が恐ろしくて、私はセレリアにしがみついた。

面白くなかったのだろう。
貴族は舌打ちを堪えながら私を宥めようとし、令嬢はまわりを気にしながら言った。

「嫌だわ。これでは国王陛下に、私たちが王女をいじめたと思われてしまうじゃないの」


「―――下がりなさい」

そう言ったのはセレリアだった。

私も驚いたが、貴族とその令嬢はもっと驚いたようだ。
呆気に取られていたがすぐに真っ赤になりわなわなと震え出した。

「なんだと!無礼な!侍女の分際で!」

今にも掴みかかりそうな勢いで言った貴族に動じることなく、セレリアはしれっと言った。

「王女レシスティシア様がそうおっしゃいました。
貴方がたは王女殿下の命に叛くのですか?」

「なにをっ!王女なんかしがみついていただけで何も――」

「――王女《なんか》?」

「―――――」

セレリアは私の手をとり跪いて私と目線を合わせると、にっこり笑った。

「さあ王女殿下。どうぞ、この者たちにご命令を」

私はセレリアの手をぎゅっと握り言った。


「下がりなさい、無礼者!」


◆◇◆◇◆◇◆


あの日からセレリアは私の姫だ。

セレリア本人が望んだのならいざ知らず、そうでない者にあげたりしない。

「姫と一緒でなければ何もしません」
そう言って王女の生活を全て見せ。

「姫と一緒でなければ勉強しません」
そう言って王女と同じ教育を受けさせ。

「姫と一緒でなければ―――」
そう言って、どこに行くにも誰と会うのも共にさせた。

セレリアは今やその辺の王族顔負けの女性だ。
私がそう育てた。

私といつまでも共にいてもらうために。


帰国して、お父様の顔を見るのが楽しみだわ。
今回のことで身に沁みたんじゃないかしら。

身分。歳の差。
そんなものを気にしてぐずぐずしていたら永遠に失ってしまうのだと。

今日もまたあの庭園にいらっしゃるのだろうか。
あんな場所。
昔ならいざ知らず、今やただの縁談避けのくせに。


―――本命まで遠ざけてどうするのよ。


セレリアが、それは大切にしていたのに贈った私に返してきた薄い緑色の布を
私は綺麗に畳んで箱にしまった。


セレリアに再び贈るために。


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