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ついで姫のついで
しおりを挟む「すまなかった」
王宮のレシスティシア様のところに身を寄せていた私を訪ねてきた元婚約者デヴィッド様は、私に頭を下げた。
その横には王太子殿下がいらっしゃる。
私が不貞をしたという誤解が解けたのだわ、と察するには十分だった。
思った通り、デヴィッド様はしどろもどろ言った。
「勘違いをして。申し訳なかったと反省している。
やり直させてくれないか。セレリア嬢」
私は、もうすでに決めていた答えを返した。
「―――ついで姫」
デヴィッド様がひゅっと息を呑んだ。
「は?」
「え?」
デヴィッド様の横で王太子殿下が。
私の後ろでレシスティシア様が、思わずと言った声を出された。
私は真っ青になっているデヴィッド様に微笑みかけた。
「そう呼ばないのですか?デヴィッド様。
いつも屋敷では皆と私をそう呼んでいるのですから、そちらの方が慣れてみえるでしょう?
私が目の前にいるからと気を使わずに。
どうぞ、いつものように《ついで姫》とお呼びください」
「―――――」
「なんだって……?おい!デヴィッド!どういうことだ!」
王太子殿下が詰め寄られたがデヴィッド様は動かない。
とうとう王太子殿下は私に顔を向けられた。
「セレリア嬢……。申し訳ないが、今の言葉。
どういうことなのか教えていただけないだろうか」
「言葉の通りです。
私は王太子殿下とレシスティシア様の婚約の《ついで》にデヴィッド様に押しつけられた婚約者だそうです。迷惑でしかない。お屋敷ではそう言われておりました」
「なん……ですって……?デヴィッド!貴様っ!」
「私は婚約を解消して帰国した方が良さそうですね」
私が目を伏せると、王太子殿下は慌てておっしゃった。
「待ってっ!待ってください!セレリア嬢!
申し訳ありません!
まさかデヴィッドが。あの家の者がそのような真似をするとは思いもせずに!
婚約はデヴィッドの有責で破棄で結構です。
賠償もさせましょう!
ですから、どうかこの国に!
そうだ!新しい婚約者を……っ。私が責任を持って探しますから!」
「――いいえ。結構ですわ」
間髪入れずに入った凛とした声。
私は身体を声の方へと向けると頭を下げた。
「……レシスティシア王女……」
王太子殿下に名前を呼ばれたレシスティシア様は椅子から立ち上がると私の横に立たれ、王太子殿下を睨まれた。
「王太子殿下。貴方が責任を持って探してきたのがこの男なのでしょう?
それが私の姫にこの仕打ち。もう私は貴方のことを信じられません」
「―――――」
「……私の……姫……?」
逃げ出そうとでもしたのか。
デヴィッド様は先程までより随分、後ろに移動していた。
が、レシスティシア様はそんなデヴィッド様の小さな呟きを聞き逃されなかったようだ。
今度はデヴィッド様に侮蔑の目を向けられた。
「そうよ。セレリアは私の姫。
幼い頃からずっと一緒にいてくれる私の姉であり母であり、恩人です。
それを。
貴方は高位貴族の一人だそうね。
この国では高貴な方が私の大切な人を侮辱するの。
これでは私もこの国でどう扱われるか。
目に見えるようだわ」
王太子殿下が首を大きく振られた。
「レシスティシア王女!誤解です!そのようなことは決して――!」
「――ケンドリック。お父様に早馬で連絡を。
セレリアの婚約は破棄されたと。
―――だから私も婚約を解消し、セレリアと一緒に帰国すると伝えて頂戴」
「は」とケンドリックお兄様が短い返事をし、場を後にされた。
こういう時のレシスティシア様はお止めできないとわかっているので、ご指示に従うつもりなのだろう。
王太子殿下はケンドリックお兄様に手を伸ばそうとして、
思い直したのかレシスティシア様の前に跪かれた。
「レシスティシア王女!待ってください!
デヴィッドとその家族、屋敷の者たちは一人残らず処罰いたします!
ですからどうか!どうか考え直してください。お願い致します!」
「考え直しません。
《セレリアがこの国にいること》。
それが婚約を受けるにあたって私の出した唯一の条件だったはずよ。王太子殿下」
「―――――」
デヴィッド様が大きく目を開けた。
王太子殿下はレシスティシア様を見つめたまま、瞬きもされない。
固まってしまわれたようだ。
レシスティシア様は
王太子殿下に憐れむような目を向けられた。
「貴方と私の婚約はセレリアの《ついで》だった。
それでも信頼し合える良い関係を築ければと思ったけれど……これでは無理ね。
残念ですわ。王太子殿下」
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