お金に目の眩んだ最低な婚約者サマ。次は50年後にお会いしましょう

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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12 別れはいつも海の味

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「アイラちゃん……。
エイデンの命を守る為に……薬を飲ませてくれたの……?」

「オリバー……。アイラちゃん……。
助けてくれたのか。俺たち一家を」

「「…………」」

エイデンの両親が言うのをアイラと、アイラの父オリバーは何も言わず聞いていた。


エイデンの父ケイズは腕で涙を拭った。

「俺たちは金に目が眩んで……信頼を裏切ったのに。なのに……」

「知らん。婚約破棄の代償はちゃんと貰った。
それ以上は。俺もアイラも望まないだけだ」

「オリバー!アイラちゃん!すまない!本当に……すまない!」

アイラの父オリバーは土下座した幼馴染に背を向けた。

「――もう聞きたくない。いいから早く出て行け。
ナウリア、お前もだ。
お前はもちろん一人で行けよ?
嫌ならここにいてもいいが。
貴族の坊ちゃんに差し出される覚悟をしておくんだな」

「なんですってっ?!」

「俺が何故、腕の立つ奴らを連れて来たと思う?
貴族の坊ちゃんが、この家に来た時のためだよ」

それもあるが半分以上――いや。
ほぼ身体を使った喧嘩では勝てたことのない幼馴染への牽制であったことは黙っておく。
オリバーにも父親としてのプライドがあるのだ。

ナウリアは青くなった。

「坊ちゃんが知ってるって言うの?!私がこの家にいるって」

「さあどうかな。わからないが用心はするべきだろう。
毎日、お前はこの家を訪ねていたんだ。見ていた奴がいてもおかしくない」

―――ヒューみたいにね。

ちくしょう、アイツめ。
アイラは心の中でヒューを散々罵った。


「どうする?
ここに俺たちといて、貴族の坊ちゃんに差し出されるのを待つか?」

「―――冗談じゃないわっ!」

ナウリアは急いで逃げようとした。

身体に巻いていたシーツを思い切り引っ張り、踏んでいたエイデンの母を退けようとした。
――が、先にエイデンの母に退かれたため、後ろに転がりベッドの脚に顔をぶつけた。

その拍子にシーツのことはすっかり忘れたようだ。
すぐさま自分の服をかき集めて逃げていった。
シーツは残して。

よほど貴族の坊ちゃんが怖いのだろう。
だから貴族の坊ちゃんに対抗できるであろうソルディバ商会の会長オリバーの愛人に。
それが駄目なら娘の婚約者――次期会長候補エイデンの愛人になろうとしたのだろうか。
貴族を狙わなかったのは、もう貴族はこりごりだったからとか?

アイラはそんなことを考えながらナウリアを見送った。
服。いつ、どこで着る気なんだろう……と思いながら。


それからエイデン家族は慌ただしく旅支度をして、最後に家の鍵をアイラの父に渡した。

「どこに向かうんだ?」

家の鍵を手で弄びながらアイラの父オリバーが聞けば、エイデンの父ケイズがへへ、と笑った。

「海のほう。俺、見たことないからさ。海」

「そうか」

「おう。……悪かったなオリバー。アイラちゃんも。
そうだ。オリバー。奥さんにも謝っといてくれ。謝って済むことじゃないけどさ。
俺たち一家は馬鹿だったって。……じゃあな」

エイデンの母も。そしてエイデンも。
同じように言って頭を下げ、家族三人で歩き出した。

「ケイズ!」

そろそろ互いの顔が見えなくなるタイミングで、オリバーが叫んだ。


「この家は売りに出す!お前たち専用にだ!
だから買う気になったら連絡しろ!
何年後でも、何十年後でもいい!―――じゃあな!」


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