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2 大っ嫌い、大っ嫌い、大っ嫌い
しおりを挟む―――本当に《魔法》が使えたら良かったのに。
アイラの目には涙が滲んでいた。
悔し涙だ。ぐっと手で拭くと、ぎりぎりと歯を食いしばった。
……ナウリアが《(アイラに)魔法を使われたらたまらない》なんて冗談を言ったのには理由がある。
――あの商会は魔法を使う――
アイラの家――ソルディバ商会はそう言われていたからだ。
扱うのは商会が独自に作った薬。
その薬を飲めば悪いところはたちどころに治る。
痛みはたちまち消え、怪我は痕を残さず消える。
と、まあそれは大げさなのだけれど、効き目が確かなのは本当。
それで《魔法を使う》なんて言われている。
効き目の良い薬は当然、評判も良く、売れ行きも良い。
業績はうなぎのぼり。
庶民から高位貴族まで買い求める。
取引を求めるところはどんどん増えている。
何年か前には商会を他の国に渡したくない国王が、アイラの父に爵位を与えた。
おかげでますます繁盛している。
そんなソルディバ商会の一人娘アイラには、年頃になる前から多くの結婚の申込書が届いていた。
アイラは気持ち悪いとしか思わなかった。
目的は商会を手に入れることだと誰でもわかることだったから。
アイラの父も同じ気持ちだったのだろう。申込書を片っ端から握りつぶした。
いや、そこは商人。丁重にお断りしていた。
時ににっこり笑って脅して。
しかし、アイラは一人娘。商会の跡取りだ。
いつまでも結婚を考えないままでいるわけにもいかない。
アイラと父は悩んで。
そして、考えた末にアイラの幼馴染エイデンからの申し込みを受けたのだ。
商会が今ほど大きくなる前から付き合いのある幼馴染からの結婚の申し込みを。
気が弱いが優しい2歳年上のエイデンと、朗らかで気の良い彼の両親とならうまくやっていけると思ったから―――。
それが。
「いつからあんな風に変わっちゃったのよ!」
あまりに頭にきて、アイラは肩から下げていた小さなバッグを投げた。
バッグは近くの木にあたって地面に落ち、じゃらりと音をたてた。
エイデンのお父さんが腰を痛めて思うように働けないと言っていたから、お見舞いにと持ってきたお金の出した音だった。
音を聞いたアイラは呟いた。
「――ああ……そうか。お金のせいなのね」
――うちの商会が大きくなって、お金ができたからなのね――
他の求婚者たちと同じ。
お金目当てだったんだ。
アイラは再び歯を食いしばる。
もう涙が溢れてこないように。
気の弱い幼馴染。
エイデンのことを、アイラは好きでもなければ嫌いでもなかった。
それは
恋愛感情を持つ以前に、エイデンはもう《身内》だったからだ。
エイデンも。エイデンのお父さんとお母さんも。
アイラにとっては親戚のような存在だった。
家族同然だと思っていたのだ。
なのに。
「最低!エイデンも、エイデンのお父さんもお母さんも。大っ嫌い!」
大っ嫌い!
大っ嫌い!!
……大っ嫌い…………
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