私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
上 下
45 / 54
第二章

21 片方 ※サヤside

しおりを挟む



私とメイさんは髪留めを売っているお店を端からくまなくあたっていった。
けれど、クルスからもらった髪留めを売っているようなお店は見当たらない。

この国では既婚か未婚かに関わらず、ある程度の年齢になると髪を結う女性が多い。
髪をおろしている女性の多くは子どもから成人前後だ。

そのせいもあってか、どの店でも売られている髪留めは華やかな物が多かった。
私が持っている物とは随分違う。

この市場に出店しているお店の物ではないのかもしれない。
そう思いはじめた頃だった。

「お姉さんたち、綺麗だねえ。
良かったら髪留めを見ていかないかい?おまけするよ!」

「……髪留め?」


足が止まった。
でも……見れば、声をかけてきたのは男性用の衣類や小物を売っているお店の店員さんだった。

私とメイさんは顔を見合わせた。

「このお店は女性の髪留めを扱っているの?そうは見えないけど」

「ああ、見ての通り男物がほとんどだ。だがあるんだ。
素朴なやつだけど、とっておきが」

「――あの。これはこちらの商品でしょうか」

私が髪留めを見せると店員さんは手に取り、そして驚いたように言った。

「これ!そうだよ!これは俺が売ったものだ!
背の高い無口な兄さんが買っていったが、そうか。あんたへの贈り物だったのか」

私は思わず髪留めと店員さんを見比べた。
メイさんは店員さんを胡散臭そうに見た。

「随分前に売った物でしょう?よく覚えてますね。何か理由でも?」

「そりゃあ覚えてるよ。これはペアなんだ。
髪留めとペンダントのふたつで一組。
――ほら。こっちのと同じだ」

店員さんは笑いながら髪留めを私に返すと、商品の髪留めとペンダントを手に取って見せた。髪留めの方は、確かに私が持っている髪留めと似ている。そっくりだ。

「よく見てくれ。この髪留めとペンダントの裏には同じ花が彫ってあるだろう?
これはな、恋人同士がこっそり揃いでつける物なんだよ」

「―――え……?」


私は慌てて返してもらった髪留めを見た。
……気づいていなかったけれど、確かに髪留めの裏――見えないところに小さな花が彫ってある。店員さんが見せてくれている商品に彫られているのとは別の花だ。

「ほら、お姉さんの持っているのにも花が彫ってあっただろう?
間違いなくこの店の商品だ。俺が作って売ったんだよ」

店員さんは誇らしげに胸を張った。

「いやあ、あんたに会えて良かった。
あんたに言うのもなんだが、その髪留めを買っていった兄さんは妙な人だな。
女性用の髪留めだけでいい。
男性用のペンダントはいらないって言ってさ。
困るよ、ふたつで一組なんだと言っても聞きやしない。
お金は一組分ちゃんと払って、ペンダントだけおいていっちまったんだ。
あんな客は初めてだった。
いまだにあの兄さんだけだ。だからよく覚えているんだよ。
紫色の目をした兄さんだろ?」

「―――――」

「ちょっと待ってくれよ。
金はもらってるし、もしかしたら気が変わって兄さんが取りに来るかもしれないと思ってペンダントはしまってあるんだが……どこだったかな。
髪留めを直す間に見つけておくよ。
明日、ふたつを受け取りに来てくれるかい?お代はいらないからさ」


◆◇◆◇◆◇◆


帰り道はぼんやりと、ただ歩いた。
何も言葉が出てこなかった。
メイさんも気を遣ってくれたのか、無言で一緒に歩いてくれた。

クルスからあの髪留めをもらったのは、私たちが出会って間もない頃のことだ。
だから。
恋人同士がこっそり揃いでつける物だと言われたことを気にしているわけじゃない。
ただの物の話。クルス本人だって、きっと気にもしていないことだろう。

……だけど、私は胸が張り裂けそうに痛い。

ペンダントを。
ふたつで一組の片方をいらないと簡単においていったひとを思う。


―――――クルス―――――


それは突然だった。

私の横でメイさんが立ち止まった。
つられて私も足を止める。

メイさんはそのままじっと後ろを見ていた。
どうしたんだろう?と理由を聞こうとしたら先にメイさんが口を開いた。

「ロウ。終わったの?」

「え?ロウ?」

いつから、どこにいたのだろう。
ロウはメイさんの目の前に現れた。

そして言った。


「ああ。意外なほど、あっさり捕まったよ」


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
【現在工事中です。工事終了までお持ち頂ければ幸いです】 シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※開始時期は未定ですがマルチエンディングを展開予定です。 ゲオルグ、エイド、ハンスの予定です。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...