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第二章
19 狙い ※お婆さん(占い師)side
しおりを挟む「何でだよおおおぉ~」
ロウは机に突っ伏した。
クルスが市場に顔を出すようになってすでに3日。
しかしクルスを狙った奴は現れなかった。
ロウは焦れているようだ。
「奴は詰めが甘すぎない?
クルスの命を狙ったはずなのに、毒――《竜殺し》を飲んだクルスがどうなったか、確かめもしないなんて」
「慎重なのかもしれないわ。
毒を飲んだクルスさんがどうなったかを探るなら、すぐより時間を置いてからの方が自分との関係を疑われないでしょう」
ロウの横に座るメイが言った。
私も頷く。
「そうだね。
あるいは、クルスの無事はもう知っている。
だが次に打つ手がないので姿を見せていないとも考えられる。
一度毒を盛られたんだ。
クルスが、毒には相当に警戒していると予想しているはず。
かと言って、毒を盛るのに人間の売り子の娘を利用したような奴だ。
奴には正面からクルスに立ち向かう度胸も腕もないだろう」
「あはは、その度胸と腕は俺でもないなあ」
「奴がまだ毒――《竜殺し》を持っているのかどうかわからないが。
持っているなら、時間を置いて再びクルスに飲ませることを。
もう持っていないのなら、何か別の手を考えてくるかもしれない。
困ったね。
手がかりはクルスが毒――《竜殺し》を盛られた日。
ロウが市場で《竜気》を感じた、クルスを狙った奴と思しき竜だけなんだが。
ロウとメイにずっといてもらうわけにはいかないし、何よりサヤが不審に思う」
「そうだね。
今は病み上がりだからとクルスを単独で婆さんの結界の外に出していないけど。
そんな言い訳は長く続けられない」
「サヤさんを、クルスさんと一緒に外出させるのも難しいですね」
メイが外を見た。私も釣られて同じ方向を見る。
クルスとサヤが出ている方向だ。もちろん、結界の中だが。
未だぎくしゃくした関係の二人は今、どうしているだろうか。
「無理だよ。
サヤが巻き添えを食うかもしれない。
竜――それも手強いクルスと違って、サヤはか弱い人間だ」
ロウは半ばやけのように切り捨てた。
「おまけにクルスが毒を盛られた日に、俺が市場で《竜気》を感じた竜。
あいつはクルスとサヤの、仲の良い様子を見たはずだ。
あいつが本当にクルスの命を狙った奴なら、クルスじゃなくサヤの方を狙うかもしれないよ。
あわよくば竜の嘆きを呼べるかもしれないからね」
「竜の嘆き?」
「竜の嘆きは不幸を呼ぶ。
サヤを殺せばクルスが嘆いて不幸を呼び、自滅してくれると思うかもしれないってこと。
手強いクルスを相手にするより簡単だろ?
ただ奴は竜の常識――《竜気なしは感情なし》というのを信じているだろうから、クルスにその手が使えると思ってるかどうかはわからないけどね」
私は繰り返し呟いた。
「竜の嘆き……」
「竜の嘆きがどうかした?」
「……狙われたのは、サヤの方かもしれないね」
「え?サヤの方?」
ロウが驚いて私を見た。
「……何でサヤが狙われると思うのかはわからないけど。
確かに、クルスに何かあればサヤは嘆くだろうね。
サヤは人間だ。でも弱いとはいえ《竜気》があり《竜の魂》を持つ。
サヤが嘆けば不幸を呼ぶだろう。
でも市場でサヤを一度見ただけの奴に、そんな発想ができるかな」
「……一度ではないのかもしれない」
「え。奴は前にもクルスとサヤを見たことがあるってこと?」
「ああ。もしかしたらね」
可能性は、ある。
以前この国の、人の王城でクルスがサヤを庇って全身に矢を受けた時。
サヤは気を失ったクルスを抱きしめ、必死に呼びかけ叫んでいた。
あの時。
流した私の血は――巫女の血はこの辺りにいた竜を呼んだ。
奴が私の血で集まった竜たちの中にいたのなら、見ていたはずだ。
傷ついたクルスを前にして、我を忘れたサヤの様子を。
―――奴の本当の狙いは、サヤを傷つけることかもしれない。
売り子の娘の気持ちを利用してクルスに毒――《竜殺し》を飲ませたのだ。
命を狙われたのはクルスだと思っていた。
だが、わからなくなった。
これではクルスも、そしてサヤも。結界の外には出せない。
「じゃあ絶対に無理ね。困ったわ。
何と言って諦めてもらえば……」
メイがため息を吐いた。
「メイ。何の話だい?」
「あの。サヤさんが市場へ行きたいと言っていたのですが……どうしましょう」
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