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第一章

22 第一章 最終話 何度も……

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「《サヤ》か。良いね。だが驚いたね。
まさかクルスにそんな発想ができるとは思わなかったよ」

「―――――」

声が出なかった。
お婆さんがそんな私の様子を見て首をかしげた。

「どうしたんだい?気に入らないかい?」

私は首を振った。

「――いえ。私も驚いてしまって」

お婆さんは笑った。

「そうだろうね。で、どうする?《サヤ》で良いかい?」

「はい。お願いします」

笑いながら自分の部屋へと戻っていくお婆さんを見送る。

お婆さんには本当のことが言えなかった。

まだ胸が騒いでいたから。
私自身、まだ確かなことがわからなかったから。

お婆さんはクルスの発想だと言ったけれど……本当に?
本当に、そうなのだろうか。

その名は……


《サヤ》は一番はじめ。
《竜》だった時の私の呼び名だ。


生まれた場所で呼ばれていた名。
生まれた場所で、両親だけに呼ばれていた名。

私が失くした名だ。
竜王の――《彼》のもとに行ってからは「《番》様」と呼ばれていたから。

クルスは……知っていた?
私の名を。

もし、そうなら
どうして?

その名を私が名乗ったのは一度きりだ。

私を迎えに来た《彼》の臣下の人に
「名前は?」と聞かれて名乗った一度きり

私の名を知るのは……一人きり―――

あれは……あの人は………


「どうした?」

私の視線に気付いたのかもしれない。
客間に戻ろうとしていたクルスが振り向いた。

再び胸が騒ぎだす。
私は、わざとゆっくり聞いた。

「……クルス。貴方は……
竜王の《番》だった《私》を迎えに来てきくれた人……?」

クルスは当然のように答えた。

「―――ああ」

私は聞く。

「……いつから……《私》に気付いていたの?」

「初めから」

「初めから?」

思わず頭がさがった。

「……気付いていたのなら何故、言ってくれなかったの?」

「サヤが覚えているとは思わなくて」

「―――――」

「―――サヤ」

「……何?」

「髪留め。もう捨てたかと思ってた」

驚いて顔が上がる。

「そんな。捨てるわけが―――」

髪留めに
頬に大きな手が触れた

「……クルス?」

「あたたかい」

「え?」

「生きている」

「………」

「良かった……」

「―――――」

それは
苦しくて
切なくて
もどかしくて
それでも甘くて
だけど少し怖い想い

《番》のように絶対の繋がりがない

それは
頼りなくて
心細い

かげろうのようで
まぼろしのようで

もろくはかなく思えて……怖い

怖い

自由で
何もない
私たちを結びつけるものなど
何も

「―――サヤ?」

透き通るように綺麗な紫色の瞳に
臆病な私が映る

頬に触れる大きな手を
涙が濡らす

その手に私は触れる
確かめる

この人の温もりを
今、ここにある温もりを

なくしたくなくて触れる

側にいることを
いてくれることを確かめる

なくさないように

手をのばす

こうして何度も
きっとこれからも何度も


何度も…………


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