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第一章
11 王宮
しおりを挟む思わずため息が出てしまった。
あれから私は王子――彼に言われるまま王城の中
彼と同じ王宮で暮らしている。
王女様方――彼のお姉様方と仲良くなりたいのだけれどうまくいっていない。
今日も王女様方に「ご挨拶に伺いたい」と申し入れたら素気無く「不要」と断られてしまった。
侍女からの視線も冷たい。
話しかけても無視されてしまう。
―――想像はしていたけれど……。
再びため息を吐いた。
王子――彼の婚約者を選ぶための宴で、彼の求婚を手ひどく断って。
そのまま行方をくらましたかと思えばひと月以上も経ってから戻り、今度は王宮に居座っているのだもの。
私の印象が良いわけがない。
国王陛下への謝罪も挨拶もできていない。
何故か彼に不要だと言われてしまった。
国王陛下はきっと、私の顔も見たくないほどご立腹なのだろう。
……当然だ。
でも……周りの人たちに認めてもらわなくちゃいけない……
「……どうしたら良いのかしら……」
一人きりの部屋で誰にいうともなく呟く。
―――彼は全てを話してくれた。
《はじまり》の竜王だった時。
《番》である私を見て、私とひとつになりたい――私を《食べたい》という恐ろしい想いを抱いたこと。
私の香りが強烈な媚薬となるので会えなかったこと。
そんな私の香りを紛らすために側に女性たちを置いていたこと。
けれど置いていただけで、女性たちの誰とも関係を結んではいないこと。
それでもやがて限界がきて
私を《食べない》ように
私が絶対に自分のところに戻らないように
――「これほどつまらない女だとは思わなかった」――
と。あえてあの暴言を吐き突き放したことも。
そして
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
生まれ変わっても
《番》を――私を《食いたい》という渇望が消えずに絶望したことも。
それでも少しずつ《食いたい》という渇望は薄れ
ようやく、今世で私と向き合えるようになったことも。
彼は全て話し、そして深く謝ってくれた。
彼の話を聞けば、彼も苦しんだのだ、とはっきりわかった。
――― 完全にひとつになるために《番》を食べたい ―――
彼はそんな恐ろしい欲望を抱えていたのだ。
呪いのような想いに翻弄されて
どれほど絶望し、嘆いたことだろう
《竜の嘆き》は《不幸》を呼ぶ。
彼も転生を繰り返している。
私と同じ。生を全うしたことは一度も――ない。
私たちはどちらも苦しんだのだ。
お互いのこれまでを伝え合ってようやくもういいと思えた。
過去のことは……もういい。もう、忘れよう。
それよりこれからを考えよう。
彼は私を求めてくれている。
転生を繰り返し、今は僅かな《竜気》しかない私にも《わかる》。
この人が私の唯一だと
《魂》が求め合うのだろう。
過去もそうだった。
冷たい態度が言葉がどれほど辛くても
見てももらえなくても
それでも私は彼の側以外、どこにも行けなかった。
それが《番》。
離れたくないと、思う人……
その彼といられるのは今世が最後だ。
占い師のお婆さんが言った通りなら、次に生まれ変わった時、私は人になる。
これまでのことも
《番》である彼のことも
全て忘れてしまう。
《番》の彼を遺したまま―――
ようやく話ができた。
ようやく向き合えた。
私の《番》。私の唯一。
《魂》が求め合う
離れたくないと、思う人……
今世が、一緒にいられる最後の時なら
一緒にいよう。
彼と共に生きる。
それは過去、数えきれないほど生まれ変わった私がずっと望んでいたことだ。
だから私は彼と共に
悔いを残さないように―――
それが……私の選択…………
ぱらりと落ちてきた髪を耳にかけようとして――首を振った。
私は王子の――彼の《番》だ。
彼と生きると……決めたのだ
窓の外を見る。
下を見れば――階下は賑やかだった。宴が催されているようだ。
外庭までも明るく、何人もの警護の兵士が見えた。
けれど私の前には夜が広がるばかり―――
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