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14 守る者
しおりを挟む―――三年後。
顔に傷のある辺境伯サマが処分されてから、国の直轄地となっていたこの地は新しい辺境伯サマを迎えることとなった。
何と女性で、しかも王女サマだった。
名はフローレンス・フィンリー様と言うらしい。
前代未聞の女辺境伯サマだ。
領地の末端である俺が住む村でも話題になった。
「凄いよな。《白の戦士》って名があるなんて。
女辺境伯様にぴったりだね」
と、新しく来た兵士の一人が言ったのを聞いて驚いた。
そうか、フィンリーは白の《戦士》という意味だったのか。
ガキの頃。
確か親父が《白の何か》をいう言葉だと教えてくれたのを思い出してつけたのだが。
俺は拾った少女にとんでもない名前をつけてしまっていたらしい。
八年も経ってからようやく知った。
「ひと目だけでも、お顔を拝見したいなあ」
自分と同性の辺境伯サマだからなのか、タニアはうっとりと言ったが。
拝見したらきっと腰を抜かすことだろう。
その辺境伯サマの手腕か。
それとも、いつも辺境伯サマに寄り添っているという護衛騎士サマの手腕か。
兵士の待遇は格段によくなった。
給料など、倍以上になった。
武器と鎧は最新の物が支給された。
魔物討伐で怪我をしたら、怪我が癒えるまでの生活も保障される。
と、なれば兵士になろうという奴も増えた。
建て直された兵士宿舎は、ほぼいっぱいだ。
休日ができ、任務は格段に楽になった。
だが、それで魔物がいなくなるわけじゃない。
今日も俺は砦に立つ。
今年も。来年も。そしてまたその次の年の雪の季節も。
兵士としてこの地を守ろう。
守り続けよう。
《魔物が現れる季節が来た》と告げる白い雪を
いつか誰もがあいつのように
「綺麗ね」と、微笑み迎えられるようになるその日まで。
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