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3 ―邂逅― 雪
しおりを挟むとにかく少女を砦に連れて行くことにして、
さりげなく砦と、魔物の森の位置を確認した。
この位置ならもし今、魔物が現れても砦にいる仲間の援護が受けられる。
そう判断した俺は、少女を促しゆっくりと歩き出した。
少女の歩幅と、魔物の話で震えていた様子から考えての判断だった。
急かせばまた怖がらせるだろうと思ったのだ。
足がすくんでしまうかもしれない。
名前がないのは不便なので、少女は俺が《フィンリー》と名付けた。
フィンリーはトコトコと俺の後を少し離れてついてきた。
寒いだろうと貸した俺の外套は、フィンリーには大きくて。
頭から被せてやったので、まるで外套を連れて歩いているみたいだった。
その外套が喋った。
「……ねえ」
「なんだ」
「どこに行くの?」
「俺の仲間のところ」
「仲間?」
「ああ」
「……どんなところ?」
「行けばわかる」
「……ねえ」
「なんだよ」
「名前は?」
「《フィンリー》って決めただろ」
「私じゃなくて」
「ああ。なんだ、俺のか」
俺はふう、と息を吐いて足を止めた。
「リアンだ」
「リアン」
「ああ。よろしくな、フィンリー」
「……よろしく、リアン」
気持ちがほぐれたのだろうか。
フィンリーは俺に駆け寄ってくると、外套の下から嬉しそうに笑った。
そして
「あ。――雪。綺麗ね」
降り出した白い雪を、そう言って微笑んで迎えたフィンリーを見て
《こいつは本当に遠くから来たんだな》と思った。
雪は《魔物が現れる季節が来た》と告げるものだ。
この辺境の地に住む者は誰もが疎む。
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