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2 ―邂逅― 拾う
しおりを挟む「どこの誰ともわからない奴なんか、と思っていたら
結婚しようなんて言うかよ……」
俺は大きなため息を吐いた。
フィンリーには生まれてからの記憶がない。
あるのは俺と出会ってからの五年間の記憶だけだ。
この辺境の地にある魔物が棲む深い森。
フィンリーはその森の近くを一人歩いているところを、砦で見張りをしていた俺が見つけた。
最初は天使かと思った。
雪のように白い肌。白銀の髪。
透き通る空のような青い瞳。
14、5歳くらいかと思う少女は、人とは思えなかった。
「着ている物はボロボロで、身体はひょろひょろ。
泥だらけ、擦り傷だらけだったけどな」
思い出して少し笑った。
俺は仲間に説明し、砦をおりて少女のところまで行った。
思っていた以上に小さな少女だった。
分厚い外套の下に鎧を身につけ、槍と剣を持った兵士の俺が怖かったのだろう。
少女は後退りして逃げようとしたが、冗談じゃない。
魔物が現れる季節――雪が降る季節はもうやってきていたのだ。
そんな時期に何故、何も持っていないボロボロの少女が一人魔物の森近くにいたのかは知らないが、置いていけば確実に魔物の餌食になってしまう。
俺は少女を追いかけて、捕まえた。
手足をバタバタ動かして暴れられたが、俺には痛くも痒くもなかった。
あげられた悲鳴で耳にダメージを食らった程度だ。
高い声は耳に響いた。
「嫌っ!離して!」
「暴れるな。ガキに何もしやしねえよ。
それよりお前、何者だ。何でこんなところにいるんだ?」
「―――――っ知らない!」
「どこから、誰ときた。親とか?」
「――っ知らない!苦しい!離して!」
「知らないわけないだろう。
苦しいって……悪い。だがお前が暴れるから。
待て。今、力を弱めるから。
いいか?逃げるなよ?
ここは魔物の森のすぐ近くなんだからな」
少女はぴたりと動きを止めた。
「……魔物の森……?」
「ああ、魔物が棲む森だ。知っているだろう?
獣に似た形だが、大きく、体毛はなく、溶けかかったような皮膚に光る赤い目を持つ奴らだ。
人や家畜を襲う」
「……知らない……」
「お前《知らない》しか言えないのかよ。
でも魔物を知らないなんて、この辺の奴じゃないな。
運がいい。最初に魔物にあっていたら、お前は今頃奴らの腹の中だったぞ。
良かったな。最初に会ったのが俺で」
「…………魔物……」
白い顔を青くして震え出した少女を見て、俺は慌てて言った。
「すまん。脅しすぎたな。俺がいる。もう大丈夫だ」
「……大丈夫?」
「ああ。もう怖がらなくていい。
――で?お前、どこから、誰とここへ来た」
「……知らない……」
「お前なあ。……待てよ。
もしやお前、人買いにでも売られて逃げてきたのか?」
「……知らない……。私、どうしてここにいるの?」
「おいおい。まさか……冗談だろ?」
俺は
恐る恐る聞いた。
「お前。名前は?」
少女の返事は、俺の思っていた通りのものだった。
「……知らない……」
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