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愕然
しおりを挟む眩しさに顔をしかめた。
目の前は空だった。
丘の上に立っていた。
声が出なかった。
――― な ん だ こ れ は ―――
ぶわりと冷や汗がふきだした。
はくはくと口は動くが息が上手くできない。
全身で早鐘を打っているのかと思うほどの心臓の鼓動。
がくがくと身体が震える。
両手で腹と口を押さえる。
数歩先は斜面だった。
膝が崩れそうになるのをどうにか堪える。
吐きそうだった。
まるで殴られているように頭が痛い。
どうしたんだ
これはいったい
俺は―――
痛む頭で必死に考える。
……おかしい。
家の庭にいたはずだ。
大事な書類を忘れ、家に取りに帰ってそれで―――
どうなっている?
ここはどこだ。
……何が……起きた?
ふと、両手に感じる違和感に気づく。
顔を触る。
身体を触る。
恐る恐る、自分の両手を
手のひらを……そして、手の甲を見る。
愕然とした。
若々しい手だった。
そう……娘と同じ年頃の男のような。
どう考えても若者の―――
慌てて自分の顔を見ようとする。
だが鏡など持っているわけがない。
まわりを見回す。
見覚えのある草花が辺り一面に生えていた。
はた、と思い当たり慌てて丘の下を見る。
丘の下には家々があった。
教会も見える。
記憶にある風景だ。自分の住む町の。
ひとまず、ほっとする。
しかし
……良く見ると、その風景は鮮やかに見えた。
家々が、教会が。自分が知る《今の》それより新しい気がする。
ある可能性に気づく。
そんな馬鹿な、と思う。
だがこれは
まさか
まさか、まさか、まさか―――――
震える手で顔を覆う。
と
「―――セディク」
身体が跳ね上がるほど驚いた。
「セディク。どうしたの?話ってなに?」
良く知っている人の声だった。
丘の下の町から登って来たのだろう。
息が少しはずんでいる。
「……セディク?」
俺が返事をしないので、その人はもう一度俺の名を呼んだ。
不安そうな声で。
俺は―――
震える手を顔からゆっくり離すと……その人を見た。
息が止まった。
そこには娘と同じ年頃の妻――フェリが立っていた。
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