この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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「そうだ、夢といえば。
《おかしな夢》も見たんだ。
ここではない、魔法のような国にいた、私そっくりな男の夢だ」

「え?」

「その男には妻がいたのだが。
男は妻を放っておいて、妻に内緒で他の女と暮らしていた。
しかし、それはやがて妻の知るところとなり、男は妻に怒号を浴びせられた。
どんなに謝っても男は妻に許してはもらえなかった」

「―――――」

どくん、と。
まるで身体全体が大きな鼓動を打った気がしました。
震える手を胸にあてます。

王太子殿下の様子を伺いましたが、王太子殿下は特に私の様子を気にすることなく、夢の話を続けました。


「最後は妻に離縁され、男は仕方なく一緒に暮らしていた女のところに戻ったのだが。
すぐに、女に財産を全部持って逃げられた。
男が仕事で失敗し、職を失ったからだ。
養ってもらうためだけに、男に甘い言葉を吐いていた女だったんだよ。
男は愛されていたわけではなかった。
男はそれを見抜けなかったんだな。
―――そうして男は、妻だけでなく、住んでいた場所も、仕事も、財産も、全て失った」

「…………」

「その後、どうしようもなくなった男は
―――なんと、離縁した元妻のところに行って復縁してくれるよう頼み込んだ」

私は俯き、きゅっと唇を噛みました。
王太子殿下は、ふん、と息を吐きました。

「元妻は受け入れなかった。当然だな。
怒って男を追い返したよ。
だが……優しい人だった。手切れ金だと男に金を渡してやった」

「―――――」

「男はその金で新たに暮らし始めたが。
元妻と復縁したい気持ちは変わらなかった。
それで、元妻にまた会いに行ったんだ」

「―――え?」

「しかし元妻はすでに家を引き払い、仕事も辞めていて。
―――二度と会うことは叶わなかった」


私は顔を上げ、王太子殿下を見つめました。
王太子殿下は……まるで懐かしむように、思い出に浸るように。遠い目をされていました。

けれどすぐに眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように言われました。

「そうしたら、男はどうしたと思う?
ずっと妻への恨み言ばかり言っていた。
《何故君は、僕に黙っていなくなったんだ》。
《何故君は、僕を見捨てたんだ》。
それから
《身寄りがない君にとって僕は、たった一人の家族だろうに》と。
死ぬまでね」


言いそう。
ふっと。はしたなくも思わず鼻で笑ってしまいました。


「今、思い返しても腹立たしいよ。
夢なのに。……いや。夢だから、なのだろうか。
神のような視点から、自分にそっくりな男の生き方を見て。
――その愚行に吐き気がした」

「―――――」

王太子殿下は
ぐっと拳を握り締め

「私は違う。
あの《おかしな夢》の男のようにはならない。
《悪夢》に出てきた自分にもならない。
絶対に。―――あんなふうになるものか」

自分に言い聞かせるように言われました。
そして……

「ロゼ。本当にすまなかった。
ロゼの気持ちをまるで考えていなかった私の態度は許されるものではなかった。
……謝ったところで許されるものではないが。
それでも謝罪させてくれ。
―――すまなかった。
そして、これから変わると誓う。
もう二度と、誰にも、あんな真似はしない」

最後にもう一度「絶対にあんな奴らのようにはならない」と呟いて、王太子殿下は頭を下げられました。


「―――王太子殿下。背中に虫がついていますよ」

「え?」


驚いて顔を上げ背中を見た王太子殿下に微笑めば、王太子殿下はようやく、いつものように《背中を伸ばせ》と言われたのだと気づいたようです。

王太子殿下も――ぎこちなくですが――笑われました。


「……ありがとう、ロゼ」

「……お幸せに」


私たちは笑顔で、別れることができました。


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