この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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27 未来

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あれからふた月が経ちました。


彼――前回の王太子殿下は、国王陛下と王妃様に《悪夢》――前回の記憶を見せることに成功したようです。
両陛下は顔色を悪くして、大国対策を真剣に考えていらっしゃるとお父様から聞きました。

私だけでなく、自らも。しかもお二人とも同じ《悪夢》を、何度も見た威力は凄まじかったようです。

前回、西の大国の王女カタリナ様との縁談を持ってきたダール卿は今のところ問題はないようですが、両陛下は目を光らせておられることでしょう。お父様もです。


王宮の大時計も。(無事に?)落ちました。
なんと、何度目かの点検中の事故だそうです。

私は一瞬、お父様が何かしたのではないかと疑いましたが……。私より驚き、涙ぐみながら私をきつく抱きしめたお父様ではなさそうです。

ちなみに大時計は、国王陛下の発案で安全対策として落下防止綱がつけられていた為、落ちたものの、壊れずに済んだようですが……王太子殿下はどう思われたのか、気になりました。


その王太子殿下は先日、婚約者を決められました。

婚約者となったのは、
婚約者に選ばれたなら王太子殿下と信頼関係を築く努力をする。
選ばれなければ、両親の反対を押し切ってでも外交官になるつもり、と話していた令嬢でした。

私はといえば結局、《残りわずかな時での辞退となれば、次の縁談に影響が出る可能性がある》という国王陛下のお心遣いで、書類上は最後まで婚約者候補でいたことになりました。

そうして、私は無事に婚約者候補の役目を終え、今後は前回とは違う未来を歩くことになったのです。


―――そして今日。

私は久しぶりに王宮に来ています。
部屋に残してあった私物を取りに来たのです。

婚約者候補として王宮で教育を受けていた五年間、使っていた部屋でした。
13歳から18歳までの色々な光景がよみがえり、少し胸が痛みます。

私物を鞄に詰め、部屋を思いを残さないように丁寧に片付けて。
私は部屋を後にしました。

屋敷に帰ったら何をしましょうか。
そんなことを考え廊下を歩いていた時です。


「ロゼ」

呼びかけられ、声のした方を向くと――早足でこちらへ来る彼の姿がありました。
私は鞄を置き、背筋を伸ばすと淑女の礼をとります。

「王太子殿下。お久しぶりでございます。本日は――」

「――聞いている。私物を取りに来たのだろう?
それで。少し話がしたくて会いに来たのだが、良いだろうか」

「私に話……ですか?」

「ああ。その。―――まずは色々、申し訳なかった」

「え……」

どこが、というわけではありません。
ですが……彼はこれまでと、どこか違う気がしました。

少しやつれているけれど、憑き物が落ちたというのがぴったりなそのお顔を見て。
私は、彼が《前回の彼》を受け入れはしなかったのだと悟りました。

その通りだったようです。
彼は……王太子殿下は言いかけてはやめ、を何度か繰り返し。
最後は俯き言いました。

「……ロゼの言っていた……《悪夢》を……私も見た。
いいや。その続きまでも……私は見た。
私だけではない。あろうことか父上も。母上も。
私たちは皆、同じ《悪夢》を……繰り返し……繰り返し見た」

「―――――」

「それは酷いものだった。……とてつもなく愚かな……私がいた。
あまりのおぞましさに飛び起き、ああ《悪夢》だったのかと安堵しても。
いつか私は、ああなってしまうのではないかと自分を……疑うほどだった」

「―――――」

「…………ロゼ……あれは…………」

王太子殿下は縋るように私を見ました。

私はそのお顔にゆっくりと、微笑んで見せました。


「―――――……夢……ですよ」

「…………」

「ただの……《悪夢》です」

そう。もう《なくなった未来》です。
夢となったことです。
王宮の大時計は落ちたけれど壊れなかった。
私は王太子殿下と別れ、王太子殿下は別の令嬢と結婚されるのですから。


―――未来は……変わったのです―――


ならば今、目の前にいる王太子殿下に受け入れてもらえなかった実体のない《前回の彼》はどうしたのかと考えました。
《前回の彼》が見えるのは私だけだったようですが、私もあれから会っていません。

王太子殿下が別の未来を選択したことで、消えてしまったのか、それとも。
やはり別の未来を歩き始めた私には、もう見えなくなってしまったのか……。

《前回の彼》はどうなったのでしょう。

消えてしまったのならそれで終わりです。
ですがもし、私にも――誰の目にも、見えなくなってしまったのなら。

誰にも認識されず
時おり人に自分の記憶――《悪夢》を見せる。
ただ、それだけのものとして、この世に存在し続けるのでしょうか。
……いつ終わるともしれない時を……独りで……。


目の前の王太子殿下は、私の言葉に安心したように呟きました。


「…………そうだな……《ただの夢だ》……」


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