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22 目覚め ※妊娠に関するセンシティブな内容を含みます

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「王太子殿下。お話はよくわかりました。
ですが、それ以前の話も聞かせていただけますか。
―――王子殿下がお生まれになった後、私が別棟に閉じ込められ、最後は毒杯を賜った理由を」


途端に彼の肩は大きく動き、その顔は蒼白になりました。


「―――ロゼが……王子を疎ましく思っているようだと……カタリナが」

蒼白な顔のまま、彼が目を伏せました。

「カタリナ様が?」

「王子を見て笑ったロゼの目が憎悪に満ちていて……まるで殺してやると言っているようだったと」

「私は、王子殿下に危害を加えようなどと思った事はありません」

「わかっている。もちろん私も否定した。
《気のせいだ》と。《ロゼはそんな女性ではない》とカタリナに言った。
そうしたら、カタリナは私を睨んで去って……納得していないように見えた」

「…………」

「それは当たっていたんだ。
次の日だった。ダールが私の執務室に緊急の用事だと慌ててやってきて。
カタリナから《側妃に――ロゼに王子を殺されるかもしれない》と打ち明けられた、と言った。
カタリナからそんな疑いをかけられたのだ。
私は、ロゼがカタリナに――西の大国の者に暗殺されるかもしれない、と青くなった。
それで――ロゼに別棟に移り、別棟から出ないように言った。
ロゼを守るために。
何も説明をしなかったのは……すまなかった。
理由を話せばロゼが……父カーステン侯爵に言うかもしれないと思ったから……」

「私はそんなことはしません」

「万が一ということがある。わからなかったんだ。
カーステン侯爵に話が伝われば、カーステン侯爵がどんな伝手を使うかもわからなかった。
穏便に済ませたかったんだ。
カタリナの母国――西の大国と諍いになるのはまずいと」


―――《伝手》。
それはなんとなく、わかりました。
西の大国と繋がりのあるダール卿だけではありません。
貴族であれば、多かれ少なかれ様々な繋がりを持っているものです。


「しばらくのつもりだったんだ。
事はダールしか知らない。だからダールに別棟の使用人を手配させた。
ロゼが普段通り生活できるように」


―――《カタリナ様をこの国に招いた》ダール卿に私を任せ
《普段通り》生活できるように……ね。


「ロゼは気鬱で自分から別棟にこもったことにした。
心配したカーステン侯爵からは何度も面会を求められたが……別棟の侍女の一人にロゼの文字、文章の癖を完璧に真似て手紙を書かせ断っていた」


―――お父様は騙されなかったのでしょう。
何度かはわかりませんが、手を尽くしてくださったはずです。
そして……大規模な槍騎馬試合に、勝者となるほどの優秀な騎士を参加させてくれたのでしょう。


「カタリナがロゼに何もしないと確信できたら、すぐにロゼを別棟から戻すつもりだった。
だがカタリナは、いつまでもロゼのことを気にし続けていて。
……私は執務に忙殺されているうちにどんどん時間が経っていき、そして。
……そのうちロゼから、私との離縁を望む手紙が来た」


―――《執務に忙殺》ね。


「――腹が立った。ロゼは私の妃だ。認められるわけがない。
だから離縁は認めないと返事を書いた。書き続けた。
ロゼが父カーステン侯爵に離縁の協力を求めた手紙は……捨てた」

「――最後に。私に毒杯をくださったのは?」

「―――――それ……は……」

彼はしばらく躊躇っていましたが。
やがて観念したように言いました。


「……騎馬槍試合で……勝者となった騎士が、君を望んだ。
降嫁させた方が、君は幸せかもしれないと思ったが……。
……私は……許せなかったんだ……。ごめん……ロゼ……」


「―――――」



―――ああ……神様。


今世のやり直しをさせてくださって、ありがとうございます。

やっとわかりました。

私は馬鹿でした。

何故、彼のために毒杯など飲んだのでしょう―――――。



今なら王子殿下を授かった彼が私を見なくなった理由がわかります。

―――別の女性――カタリナ様との間に子を授かった後ろめたさからでしょう。
子が授からなければ妃を複数人持つことが当然の、彼の立場を理解していた私は気になどしていなかったのに。


別棟に、私を訪ねて来なかった理由もわかります。

―――合わせる顔がなかったのでしょう?
護衛そっくりなその容姿から、カタリナ様がお産みになった王子殿下が自分の子ではないと知ったから。


私に毒杯を送ってきた理由もわかりました。


―――お父様の騎士に降嫁し、私が子を授かれば。
私との間に子を授からなかった理由が。
カタリナ様との間に自分の子が授からない理由が。
自分にあると、はっきりとわかってしまうからでしょう?―――


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