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「君が亡くなってから、この国は変わってしまった」

「国が……変わった?」

「発端は私の正妃だったカタリナが産んだ王子だ。
―――あれの父親はカタリナの護衛の一人だったよ。
そう。……私の子ではなかったんだ……」


目を瞑った私の耳に彼――実体のない、前回の記憶を持つ王太子殿下の乾いた笑いが聞こえました。

「血とはすごいな。成長した王子の目や鼻の形、顔の輪郭。
その容姿は、子どもでも間違えないほどに《誰が父親なのか》をはっきりと示していたよ」

「……前に。はじめてここでお会いした時。
《調べたら、カタリナ王女は護衛の一人と恋仲だった》とおっしゃいましたね。
あれは《調べた》のではなく、《知っていた》のですね。
……五年後のカタリナ様が……護衛の一人と恋仲だったことを」

「……そうだ……」

「―――――」

「カタリナは素知らぬ顔をしていた。
愚かだったと思うが……私も、気づかぬふりをしてしまった。
王子は私の子だ。唯一の……私の子だと自分に言い聞かせて」

「…………」

「しかし、一目見てすぐに知れるほど、王子は明らかに護衛の子なのだ。
臣下からは何度も進言された。前国王夫妻――父上と母上からも……決断せよと」

胸が痛みました。
良い意味ではないことは確かです。
明らかに国王の――王家の血を引いていないとわかる王子は……。

「しかし、私は決断できずにいた。
決断できずにいるうちに……カタリナが父――西の大国の国王に訴えたんだ。
《自分と王子はこの国の者に殺されそうだ。助けに来て欲しい》と」

「カタリナ様が?」

「私を含め、この国の者がそれを知ったのは、西の大国から使者が多くの兵士を連れてやって来た時だった。
その時には……すでに軍隊がこの国を囲んでもいた。
《カタリナ元王女とその子である王子》に万一のことがあってはならない、と」

「それは脅しではないですか」

「そう、脅しだよ。
要求は《カタリナと王子の身の安全》と、そして。
―――私の退位と、王子を《国王》に即位させること。
《正妃と王子を危険に晒した》私は王の器ではないから退位せよと。
そして、その後の国王は当然、正妃カタリナが産んだ子で、国王である私が《王の子》だと認めている王子だと」

「西の大国が……そんな」

「前国王夫妻――父上と母上、宰相、大臣たち、貴族たちは皆反対してくれた。ダールを除いてね。
カタリナの主張など事実無根だと。
いかに正妃カタリナの母国であろうが、この国の国王に退位を迫るなど内政干渉だと。
だが。
西の大国の要求に強く反対するものは《何故か》次々に……亡くなった。
前国王夫妻――父上と……母上も……」

「国王ご夫妻も?!」

「……おまけに時間が経つごとに国を囲む軍隊が増えた。
私は表向き《体調の悪化》を理由に退位し、カタリナの産んだ王子が次の国王に即位した。西の大国の要求を……のまざるを得なかったんだ」

「…………」

「それからは、若き国王となった王子を支えるためと称して西の大国の者が来た。
西の大国の者ばかりが優遇され、要職につき。
王宮は……西の大国の者しかいなくなったらしい」

「―――らしい?」

「……私は王宮を追われていたので、直接見てはいない。だが、私を殺しにきた者たちがそう言っていた」

「殺しに来た……って―――」

「この国の……貴族だったと言っていた。
西の大国の要求に強く反対した家族が、不審な死をとげた者や……落ちぶれ、その日の生活もまともにできなくなった者たちだと。
多すぎて誰が……何人いたのかもわからない。
……その者たちに私は殺された。
拘束され……何日も……時間をかけて」

「―――――」

私は慌てて両手で口を押さえました。
そうしないと声を上げてしまいそうだったのです。

彼は自分の両腕を抱くようにして、吐き捨てました。

「全てはあの女――カタリナを私の妃にしたせいだ。
あいつのせいで私は何もかも失ったんだ。
だからロゼ!
今回は前回と違う選択をしなければ!
私の唯一の妃となってくれ!絶対にカタリナを迎え入れては駄目なんだ!」


「―――――」


私は―――私の両親や、弟や。屋敷の者たちがどうしたのか。どうなったのか。
知りたかったのですが……怖くて聞けませんでした。

それよりも。
私には絶対に、聞かなければならないことがあります。


「王太子殿下。お話はよくわかりました。
ですが、それ以前の話も聞かせていただけますか。
―――王子殿下がお生まれになった後、私が別棟に閉じ込められ、最後は毒杯を賜った理由を」


途端に彼の肩は大きく動き、その顔は蒼白になりました。


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