この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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13 想像

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「クロード。ちょっといい?」

両親との話が終わったあと、私はコニーを部屋にやり、クロードに庭に通じる扉の向こう。壁際に置かれたベンチのところへ来てもらいました。
クロードには打ち明けておこうと思ったからです。

それでも……躊躇ってしまいました。
ベンチには座りませんでした。そんな気分にはなれなかったのです。
クロードも何も言いませんでした。

しばらく悩んだあと、私はクロードから目を逸らしてようやく言いました。

「あの……実は。先ほど一人でいたら彼――王太子殿下とお会いしてしまって……」

「なんですって?何故、旦那様と奥様に言わなかったのです」

「言ったら私を一人にしたコニーが叱られてしまうと思ったのよ。私の我儘を聞いてくれただけなのに」

これからクロードに打ち明ける彼から聞いた話と、そこから浮かんだ私の想像が、両親には話しづらいものだったという方が大きいのですが、それは内緒にしました。
代わりに「コニーに《誰にも言わないで》と口止めした私が、あっさり言うことにも気が引けたから」と付け加えると、クロードは呆れたように額を押さえました。


「……いいでしょう。それで?」

「彼はカタリナ様のことを調べたそうよ。
そうしたら、カタリナ様についてわかったことがあったそうなの。それが――」

「――待ってください。
調べた?そして、わかった……?まだ、あれから五日しか経っていないのに?」

「え、ええ。そこはさすが王族ということかしら」

「…………それで。王太子殿下はなんと……?」


私は覚悟を決めて言いました。

「カタリナ様は護衛と恋仲だったそうなの」

「……は?」

「だから。カタリナ様には護衛の恋人がいたそうなのよ。
でね。ここからは私の想像だけど、もしかしたら。
それがこの先、皆に知られてしまって……今から五年後、カタリナ様は彼に嫁ぐのを口実に、母国を出されたのではないかと思うの」

「……お嬢様。王女殿下と護衛の恋仲が暴かれたら処分されるのは護衛の方だけです。王女殿下は罰せられたりしませんよ」

「そうだけど。未婚の身で男性と噂になるのは醜聞よ?
それは王女殿下でも同じだわ。結婚にも影響してしまうのは確かでしょう?」

私の単なる想像です。
でも……《護衛と恋仲だったという醜聞があったから》カタリナ様は彼に――この小国に嫁がされたと思えたのです。

黙り込んでしまったクロードにゆっくり目を向けると……クロードは腕を組み、顎に手をやって何か考えていました。
風が木々を揺らして流れて行く音が聞こえます。
少しして。クロードは真剣な顔をして言いました。


「前回のお話を、またお聞きしても?」

「ええ。いいけど……?」

「では。今から五年後。カタリナ王女がこの国に嫁いで来られた時、使用人を連れてきましたか?」

「それはもちろんよ。王女殿下の腰入れだもの。それは多くの――」

「――護衛は?」

「旅をして、この国までこられたのよ?護衛がいて当然でしょう?」

「……そのままカタリナ王女と共に、この国に残った護衛は?」

「カタリナ様の護衛は、全員が西の大国の者たちだったわ。侍女もだけど。
全員が西の大国の方々、特有の。燃えるような赤い髪と瞳を持って。それは華やかで……」

「―――その中に。カタリナ王女の恋人がいたのでは?」

私は息を呑みました。

「それは……どういうこと?」

「現在のカタリナ王女と、恋人の護衛。二人はこの先、別れることなく五年後も続いていた。
そしてカタリナ王女は、その護衛を連れてこの国に嫁いできて……二人はずっと一緒にいたのではないか、ということです」

「―――――」

「もしそうなら。全ては、西の大国の国王陛下が仕組んだことかもしれません。
西の大国の国王陛下は、カタリナ王女と護衛の仲をご存知だった。
知っていたから、カタリナ王女の嫁ぎ先をこの国に決めた。
王女が恋人の護衛と一緒に嫁いで来たことが露見してしまった場合、嫁いでいたのが大国なら大問題になるでしょう。
しかし、この国なら――力の弱い小国なら大したことにはならない。簡単に力で容認させられる。ねじ伏せられる。真実はいくらでも揉み消せると思ったのではないでしょうか」

「……カタリナ様は恋人と一緒に……この国に来た」

「侍女に護衛。カタリナ王女の周りを囲んでいた者たちは全員が、王女と恋人の護衛の仲を知っていて隠していたのでしょうね。
燃えるような赤い髪と瞳は西の大国の民特有のものですが、民の全員が全員、赤い髪と瞳ではありません。
カタリナ王女の侍女も護衛も、全員が赤い髪と瞳だったのならきっと同じ色の者だけを集めたんだ。
王女と恋人の護衛が《どんな場所で》見咎められても見間違いだ、人違いだ、と言い訳できるように」

どんな場所でって……

「まさか……カタリナ様が不貞を働いていたと言うの?」

私にはクロードの言葉が信じられませんでした。

カタリナ様は彼の《正妃》なのです。
それは……政略だったのでしょう。
それでも正妃です。彼の横に立った方なのです。
それに―――――

瞬きもできずにクロードを見つめていました。
―――「あり得ませんよね」
クロードがそう言ってくれることを信じて。

けれど。

クロードの口から出た言葉は
私を打ちのめすものでした。


「もしそうなら。
カタリナ王女が産んだ王子殿下は―――王女の恋人の、護衛の子かもしれませんね」


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