12 / 34
12 疑問
しおりを挟むお父様は話題を変えました。
「そう言えば今から五年後の前回、王太子殿下が国王陛下となられた時。
正妃に迎えられたのは西の大国の王女殿下だと言ったね」
「はい。第四王女カタリナ様です」
「西の大国の方からきた縁談で、間違いないのかい?」
「はい。そう聞きましたが……何か?」
「いや。不思議に思ってね。
西の大国の第四王女――カタリナ王女といえば、誰も姿を見たことがない王女殿下だ。
それは国王陛下が目に入れても痛くないほど可愛がり、決して人目に触れさせないからだと噂されている。
そんなカタリナ王女を、西の大国の国王陛下は何故この小国に嫁がせたのか、と」
「……それは……大臣が」
「大臣。――ああ。ダールか。
あいつは現在すでに西の大国と繋がりを持っている。あいつの奥方は西の大国の貴族に通じると聞くし、あちらの商会とも取引がある。
何年か後のカタリナ王女の縁談も、もとは西の大国にダールが持ちかけたものだろう。
大国と自分との深い繋がりを見せつけて威張りたかったようだな」
お父様はそう吐き捨てました。
ダール卿がお嫌いのようです。
「だが。ダールが縁談を持ちかけたとして、西の大国が乗った理由がわからない。
あの大国が、この国にカタリナ王女を嫁がせてどんな益があるというのか」
「…………あの」
「なんだい、ロゼ」
「――いえ。なんでもありません」
私は悩みましたが、口をつぐみました。
代わりのように、お母様が頬に手をあて言いました。
「いっそ、五年後と言わず、すぐにでもカタリナ王女に嫁いで来ていただけないかしら。
そうしたらロゼは王太子殿下に嫁がなくて済むわ。
王太子殿下とカタリナ王女は、夫婦になるのが何年か早くなるだけよ?
全て丸く収まるのではなくて?」
「うん……そうなんだが……」
お父様が渋い顔をされたのを見て、お母様は首を傾げました。
「あら、何か問題が?」
「カタリナ王女の母国は西の《大国》だ。対してこちらは小国。
大国の恩恵を受けられるかもしれないが……下手をすれば、飲み込まれてしまうかもしれない」
「え?」
「国力に大きな差がある大国との付き合いには注意が必要なんだ。
小国が幾つもの国で連合体を作り、同盟や条約を結んだりしているのも、大国に対抗する手段だ。
だが、王族同士の婚姻となるとね……。
難しいな。ダールも厄介なことを。
カタリナ王女を正妃に迎えるなら、上手い舵取りが必要だが。
果たしてあの王太子殿下にそれができたのか……」
「―――――」
言葉が出ませんでした。
何も言えることがなかったのです。
私は、カタリナ様が嫁いでこられてからのことは毒杯を賜るまでの約四年しか知りません。
それも王宮の別棟に閉じ込められていて、彼の様子を見ることもありませんでしたから。
それをお父様はどう思われたのか。
私を見てハッとし、何かを打ち消すように手を振りました。
「いや、大丈夫だろう。貴族たちもついているし、そんな心配はいらないな。
西の大国がウチのような小国をカタリナ王女の嫁ぎ先に決めた理由にしても、他ならぬカタリナ王女自身が選ばれたのかもしれないし―――…………」
139
お気に入りに追加
1,436
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる