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12 疑問
しおりを挟むお父様は話題を変えました。
「そう言えば今から五年後の前回、王太子殿下が国王陛下となられた時。
正妃に迎えられたのは西の大国の王女殿下だと言ったね」
「はい。第四王女カタリナ様です」
「西の大国の方からきた縁談で、間違いないのかい?」
「はい。そう聞きましたが……何か?」
「いや。不思議に思ってね。
西の大国の第四王女――カタリナ王女といえば、誰も姿を見たことがない王女殿下だ。
それは国王陛下が目に入れても痛くないほど可愛がり、決して人目に触れさせないからだと噂されている。
そんなカタリナ王女を、西の大国の国王陛下は何故この小国に嫁がせたのか、と」
「……それは……大臣が」
「大臣。――ああ。ダールか。
あいつは現在すでに西の大国と繋がりを持っている。あいつの奥方は西の大国の貴族に通じると聞くし、あちらの商会とも取引がある。
何年か後のカタリナ王女の縁談も、もとは西の大国にダールが持ちかけたものだろう。
大国と自分との深い繋がりを見せつけて威張りたかったようだな」
お父様はそう吐き捨てました。
ダール卿がお嫌いのようです。
「だが。ダールが縁談を持ちかけたとして、西の大国が乗った理由がわからない。
あの大国が、この国にカタリナ王女を嫁がせてどんな益があるというのか」
「…………あの」
「なんだい、ロゼ」
「――いえ。なんでもありません」
私は悩みましたが、口をつぐみました。
代わりのように、お母様が頬に手をあて言いました。
「いっそ、五年後と言わず、すぐにでもカタリナ王女に嫁いで来ていただけないかしら。
そうしたらロゼは王太子殿下に嫁がなくて済むわ。
王太子殿下とカタリナ王女は、夫婦になるのが何年か早くなるだけよ?
全て丸く収まるのではなくて?」
「うん……そうなんだが……」
お父様が渋い顔をされたのを見て、お母様は首を傾げました。
「あら、何か問題が?」
「カタリナ王女の母国は西の《大国》だ。対してこちらは小国。
大国の恩恵を受けられるかもしれないが……下手をすれば、飲み込まれてしまうかもしれない」
「え?」
「国力に大きな差がある大国との付き合いには注意が必要なんだ。
小国が幾つもの国で連合体を作り、同盟や条約を結んだりしているのも、大国に対抗する手段だ。
だが、王族同士の婚姻となるとね……。
難しいな。ダールも厄介なことを。
カタリナ王女を正妃に迎えるなら、上手い舵取りが必要だが。
果たしてあの王太子殿下にそれができたのか……」
「―――――」
言葉が出ませんでした。
何も言えることがなかったのです。
私は、カタリナ様が嫁いでこられてからのことは毒杯を賜るまでの約四年しか知りません。
それも王宮の別棟に閉じ込められていて、彼の様子を見ることもありませんでしたから。
それをお父様はどう思われたのか。
私を見てハッとし、何かを打ち消すように手を振りました。
「いや、大丈夫だろう。貴族たちもついているし、そんな心配はいらないな。
西の大国がウチのような小国をカタリナ王女の嫁ぎ先に決めた理由にしても、他ならぬカタリナ王女自身が選ばれたのかもしれないし―――…………」
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