この死に戻りは貴方に「大嫌い」というためのもの

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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11 作戦

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コニーと屋敷内に入るとクロードがいました。私を探していたようです。

近づいて「王太子殿下はお帰りになられた?」と聞くと、小さいけれど執事見習いとしてはどうかと思うため息が聞こえました。

「ええ。お一人でお散歩されてからようやく」

「そう」

「……何かありましたか?」

「―――いいえ?」

「そうですか。
旦那様と奥様がお待ちですが。一度お部屋で休まれますか?
ちなみにお見舞いの花束は、奥様のご指示で旦那様の執務室を彩っております」

少しだけ笑みが溢れました。

「お父様たちの所へ」

「はい」

クロードに何も聞かれなかったことにほっとしましたが、残念にも思いました。

前回の話を真剣に聞いてくれて、私の変化に気づいてくれて、《ツバキ》の記憶のことまで話せた。そして、両親に打ち明けることをすすめてくれた。
一番の味方のように思える人だからでしょうか。

何があったのか。クロードには聞いて欲しかった気がします。

……ともかく、私はお父様たちの所へ向かいました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あれは駄目だ。話にならない」


王太子殿下をあれ呼ばわりはどうかと思いましたが、それがお父様の意見でした。

「私がなんと言っても結局《絶対にロゼを妃にする》の一点張りだ。
まさか、あんな方であったとは……。
埒があかない。これはもう、国王陛下に直接、婚約者候補の辞退を願い出て認めてもらうしかないだろうな」

「国王陛下に」

「ああ。急ぎ謁見を求めよう。
ロゼ。当然本人不在というわけにはいかない。辛いかもしれないが……」 

「それは構わないのですが。
原因不明の病が理由でも辞退を認めていただけないのです。
他に、どうすれば……。
前回のことを正直にお話ししたところで国王陛下も、王太子殿下と同じように《夢だろう》と言われるかもしれません……」

「そうだな……」

横に座るお母様が私の手をそっと握ってくれました。


と。空気が重くなった部屋に、クロードの声が響きました。

「旦那様。よろしいでしょうか」

「何か案でもあるのかい、クロード」

「はい。確かに、お嬢様が正直に前回の話をされても、国王陛下に信じていただけるかどうかわかりません。
ならばいっそ《夢の話》にしてはどうでしょうか」

「夢の話に?」

「《予知夢》を見た、と訴えるのです」

「予知夢だと?」

お父様と私は顔を見合わせました。

「ロゼの前回の話を《予知夢》だと言って訴えろと?
しかし、それを国王陛下が信じてくださるだろうか」

「信じてくださるのではないでしょうか。
《本当に予知夢だ》と信じざるを得ないことが起これば」

「何?」


それまでお父様を見ていたクロードは、私を見て言いました。

「お嬢様。《確かひと月後くらいに王宮の大時計が落ちる》とおっしゃいましたね」

「ええ。確かに言ったけれど」

その時、お父様がぽんと手を打ちました。

「――なるほど!ロゼの《予知夢》通り、大時計が落ちれば」

「え?」

「はい。お嬢様の《予知夢》がひとつ現実になった。
ならばお嬢様の語ったことは全て《本当に未来のことなのではないか》と思ってくださるのでは?少なくとも完全に《ただの夢だ》と否定はできなくなる。
それに、お嬢様は自分が酷い扱いを受ける《予知夢》を見たあと《原因不明の病に罹った》令嬢ということになる。
婚約は躊躇われるのではないでしょうか」

「そうだな!いい案だ、クロード」

子を授かることなく、見向きもされない側妃になったという《予知夢》を見て《原因不明の病に倒れた》娘。

確かに。王太子殿下がなんと言おうと国王陛下は、数人いる王太子殿下の婚約者候補の中からわざわざそんな難儀な娘を選ばないでしょう。

でも……。

嬉々とした表情のお父様とクロードを交互に見ながら、私は慌てて言いました。

「待って!でも《大時計が落ちる》と話せば警戒されるわ。
大時計はきっと点検されるだろうし……もし、未来が変わって大時計が落ちなかったら……」

大時計が落ちなかったら?
私の話は《ただの夢》と決めつけられてしまいます。
もうどうしようもなくなってしまうのです。不安しかありません。

ですが……クロードはけろりと言いました。


「落とせばいいのですよ。大時計を。どうにかして」

「え?」

お父様も当然だとばかりに言いました。

「そうだよ、ロゼ。お前の運命がかかっているんだ。
確実に大時計を落とすんだよ」

そんなことができるのでしょうか。
前回の通りに大時計が落ちなければ、なんとかして落とす、なんて……。

「……でも。警備され、大時計には近づけなくなるかもしれないわ。失敗したら……」

「そうだな。失敗したら、その時はロゼを……」

「私を?」

「騎士に攫ってもらおうか」


息が止まりました。
私を見たお父様が驚いた顔をされています。

「ロゼ、どうしたの?」とお母様が私の顔を覗き込みました。

私は慌てて首を横に振りました。

「い、いいえ。少し……驚いてしまって。
……あの。お父様には……そんなことを頼める騎士が……?」

早鐘を打つ胸を押さえてお父様の返事を待ちます。

お父様は……目を丸くして―――そして、くつくつと笑い出しました。



「冗談だよ、ロゼ。
どうやってでも絶対にロゼを守るという意味だよ」


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