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08 会う1
しおりを挟むお父様はすぐに動いてくれました。
もちろん国王陛下に即、謁見はできません。私の婚約者候補辞退を直接願い出ることは無理ですが、急ぎ書状を出してくださったのです。
『本日、娘は突然発作を起こし倒れ、原因不明の病と診断され……』と。ようは健康不安を理由にした婚約者候補辞退の申し出を。
原因不明の病気。
王太子妃となる女性には致命的です。
もともと私は家柄や、王太子妃教育の出来など、特に秀でた候補者ではありません。
きっとすぐに許可されるだろう。
そう思っていたのですが……。
国王陛下はどう考えられたのでしょう。
何故か辞退は『保留』とされました。
王太子殿下の婚約者を決定する日――彼の20歳の誕生日まであと三ヶ月もない今、わざわざ辞退の手続きを取る必要もないだろうと思われたのではないか。
お父様はそう言いましたが……どこかすっきりしないものを感じているようでした。
私もです。
何故、婚約者候補の辞退が認められず『保留』なのか。
その理由がわかったのは、それから五日後―――
「ロゼ。父上――国王陛下に、君を私の婚約者にしたいと話したよ。
無論、私たちが恋人同士だということも話した。
君が今、少し気持ちが不安定になっているということもね」
見舞いと称して屋敷を訪ねて来られた王太子殿下に、そう告げられた時でした。
全身の血が一瞬で引きました。
私が《原因不明の病に罹った》というのは婚約者候補を辞退するための方便でしたが、本当に倒れそうでした。
体調が悪く見せるための青白い化粧は必要なかったようです。
応接室のソファーに座っていて良かった。
お母様が、ぐらりと揺れた私の肩を支え抱きしめてくれました。
お父様が、私とお母様の前に立ち、彼――王太子殿下に抗議の声をあげてくれました。
「王太子殿下。
我が娘ロゼは、殿下の婚約者候補の辞退を願い出ました。
原因不明の病に倒れた今、たとえこれまで親しくさせていただいていても。
――いいえ。だからこそ、娘は自ら身を引くことを決めたのです。
殿下の為を思って。どうかご理解を」
それでも彼は叫びました。
「――できない!私の妃になるのはロゼだ!」
「王太子殿下!
すでに侯爵家から正式に婚約者候補辞退を願い出ております!」
「だめだ!ロゼでなければならないんだ!」
私は呆然としました。
声がでません。
目の前に立つお父様と、そして……。
彼――王太子殿下を、信じられないものを見るような気持ちで見ていました。
彼はそんな私と目が合うと、不意に何か思い至ったというような顔をしました。
「ああ……そうか。わかった。
カーステン侯爵。貴方もロゼの悪夢の話を聞いたんだな。
私が西の大国の王女を正妃にし、ロゼを側妃にして蔑ろにするという夢の話を。
それで急に《ロゼが原因不明の病に罹った》などと言い出し、婚約者候補から辞退させることにしたのだろう。
馬鹿馬鹿しい。
そんなものはただの夢だ!
それで私が信じられなくなったと言うのなら、いいだろう。
誓約書を書こうじゃないか。
私の命をかけて誓おう。私の妃は生涯、ロゼただ一人だと!
―――それでいいだろうっ!」
「―――そういう問題ではないっ!」
「―――――」
「そういう問題ではありません。
王太子殿下。
貴方がロゼの話を悪夢だ、馬鹿馬鹿しいとおっしゃる時点で。
もう終わっているのですよ」
「―――何……?」
「この先は私と話しましょう。体調の悪い娘は退出させます。よろしいですね」
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