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01 ロゼの独白 〜終わりの時〜
しおりを挟む私は疲れておりました。
身体も。そして心も。
13歳で、私は第一王子殿下の婚約者候補に上がり
15歳で、第一王子殿下を愛するようになりました。
16歳で、王太子となられた第一王子殿下と想いが通じ合い
18歳で、殿下の正式な婚約者となりました。
20歳で、結婚し王太子妃となり
そして
23歳で――国王陛下となられた彼の、側妃となりました。
それからは政務をこなす日々でした。
彼の正妃様の代わりに、ただ政務《だけ》をして過ごしました。
彼の正妃様は、西の大国の王女様で
西の大国の方々特有の燃えるような赤い髪と瞳を持つ、それは華やかな美しい方でした。
そんな正妃様との間に可愛らしい王子様を授かって
彼は私を見るのを止めました。
私は王宮の別棟に移され、別棟から出ないように命じられました。
……仕方のないことなのかもしれません。
当然、なのでしょう。
彼と正妃様と王子様が家族なら、私は……邪魔者なのでしょうから。
それでも、彼は私を捨てず、政務という務めを与えて下さいました。
私にはそれが、彼の情けに思えました。
ですが。
愛しい彼の、《国王陛下》という立場を理解していても
《側妃》として愛しい彼を支えられるだけでいいと何度自分に言い聞かせても。
私は疲れていきました。
身体も。そして心も。
愛しい彼には、その視界にも入れてもらえず
周りからは、もはや側妃ではなく、別棟に住む単なる執務係だと呼ばれて。
私は壊れていきました。
耐えられず、何度も彼に離縁を願い出ました。
侯爵である実家の父にも手紙で協力を求めました。
それでも……何故でしょう。
彼からの使いは拒否の返事を持ってくるばかり。
実家の父からは返事もなく、私の願いが聞き届けられることはありませんでした。
―――私は一生このままなのかしら。
牢獄とも思える王宮の別棟で
私はひとり涙を溢し続けました。
そんな虚しい涙をどれほど溢した頃でしょう。
27歳の時でした。
他国の賓客や騎士まで招いて行われた大規模な騎馬槍試合で、勝者となった父侯爵の騎士が、私を望んでくれたのです。
私は行事全てに参加することは許されておりませんでしたから、実際に見ていたわけではありません。護衛と侍女がしていた話をこっそり聞いて知ったのです。
そう。
私は、騎馬槍試合の勝者である騎士に褒美として、降嫁することになったようでした。
騎馬槍試合の勝者には、望みのままに褒美が与えられます。
勿論とんでもないものは即却下されますし、後で相談になることも多いのですが……。
今回の騎馬槍試合では他国の賓客や騎士がいました。
そんな中で、勝者の騎士は側妃の私を望んだのです。
国王陛下も――彼も、諾という以外なかったでしょう。
父侯爵が仕組んでくれたことに違いありません。
これで私は、牢獄とも思える王宮の別棟から出られることになったのです。
けれど。
私は、おかしいのでしょうか。
離縁を望み、これまで何度も願い出ていたというのに。
ようやく解放されるというのに。
何故か、喜べませんでした。
それよりも、国王陛下と――愛しい彼との縁が切れてしまうことが辛くてたまりませんでした。
愚かですよね。
私は視界にも入れてもらえない側妃です。
別棟に閉じ込められ、存在すら忘れ去られたような人間なのに……。
……どうでもいいことでした。
私がどんな思いを抱こうと降嫁は決まったなら、覆ることはないでしょう。
私は淡々と別棟を出る準備を始めました。
そういっても、もう何年も物を購入してはおりません。もちろん、国王陛下から――彼からいただくこともありませんでしたので、私の私物などほとんどありません。
準備は、あっという間に終わりました。
別れを惜しむような親しい侍女も、護衛もいません。
あとは……父侯爵の迎えを待つだけ……。
今日か明日かと私は迎えを待っていました。
その日も馴染んだ椅子にぼんやりと座り、私は迎えを待っていました。
そんな私のところに、使者がやってきました。
執務机に、躊躇うことなくことりと置かれたその小さな杯を見て……私は、全てを察しました。
その小さな杯を用意できるのはただ一人です。
誰からの贈り物か。
そして、その杯に入っている液体を飲めばどうなるのか。
すぐにわかりました。
気づけば私は、笑っていました。
私は、嬉しかったようです。
父侯爵が用意してくれた救いよりも
彼が私に用意してくれた杯が。
私は飲みました。
彼の最期の贈り物なのですから。
喜んで飲みました。
これでやっと終わりにできるのですから。
これでもう
私は悲しむことも、苦しむことも、涙を溢すことも、ないのです。
でもきっと神様には叱られてしまうでしょうね。
最期に、神様に「申し訳ありません」と謝罪して
私は、その目を閉じました。
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