46 / 47
45 シスターside
しおりを挟む日の光を反射し、きらきらと輝く水面を滑るように船が進む。
思ったより揺れはなく快適だ。吹き抜ける風が心地良い。
風をはらむ帆を見上げながら、私は街道を行く馬車ではなく、河川を行く商船を選んで正解だったな、と独りごちた。
行く先は実家の公爵家。
3年……いや、4年ぶりになろうか。
シスターを何だと思っているのか。
厄介を寄越すわ、《慈善活動》と称して国中の様子を見聞きさせるわ。
姉使いの荒い弟の顔が浮かぶ。
でも文句は言えない。
公爵家の次期当主の座をよろしくと押しつけた私も大概だ。
愛する王女を妻に迎えたいという思惑もあったとはいえ、引き受けた弟はさぞ苦労したことだろう。
それに、弟の後ろにいるのは国王陛下だ。
……あれから10年以上も経ったのか。
第一王子を一年預かってくれと言われた時は勘弁してくれとしか思わなかった。
教育係を断った私に持ってくる話か、と。
それでも貴族たちの中に第一王子派、第二王子派が生まれはじめていた当時。
国王陛下が安心して第一王子を預けられたのは妹が夫とした公爵――私の弟と、その姉で政治とは無関係な立場――シスターとなっていた私をおいて他になかったことは想像できた。
国王陛下の頼みだ。私は第一王子を一年間預かることを引き受けた。
だが引き受けただけで、第一王子に何かしてやる気はまるでなかった。
そんな私をエミリアが変えた。
愛した彼を失って
ただ息をしているだけだった私を変えたように。
出会いは偶然だった。
たまたま立ち寄った修道院の奥からした声を聞いただけ。
『エミー』と呼ばれたその子に会ってみたかっただけ。
けれど、私が修道院の外から来たと知ると目を輝かせ外の話を聞きたがったエミリアに
私はすぐに夢中になった。
エミリアの暮らす小さな修道院に拠点を置き、修道院から《慈善活動》に出て帰ればエミリアと過ごす。
そんな日々は楽しかった。
一時疑われた伝染病ではなかったものの、治ることのない病で長く患っていたエミリアの母エレノーラは亡くなってしまったが、その日々は続く。これからは一緒に《慈善活動》に行ってもいい。そう考えもしたが。
私の《慈善活動》は危険が伴う。
影のように屈強な護衛がついていても、安全だとは言い切れない。
何よりそれでエミリアは幸せなのだろうか。
そんなふうに悩んでいるうちに、私が留守の間にエミリアは母エレノーラの家を継いだ従兄弟殿に引き取られ、別れてしまった。
父親と暮らすことになったのだと言われれば私はエミリアの幸せを祈るしかなくなった。
そのエミリアに、再び会える――。
心地良い風に気を良くして思いっきり伸びをした。
4年ぶりだ。
あの子はどんな娘に成長しただろう。
……それにしても、4年ぶりの再会場所が王宮とは。
第一王子――今は王太子だったな。
まさかあの子が、あれと結ばれることになろうとは。
思わず笑みが溢れた。
「この世は何が起こるかわからないものだな。……エミリオ」
雲ひとつない青空に、彼を感じた気がした。
40
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
あなたの事は記憶に御座いません
cyaru
恋愛
この婚約に意味ってあるんだろうか。
ロペ公爵家のグラシアナはいつも考えていた。
婚約者の王太子クリスティアンは幼馴染のオルタ侯爵家の令嬢イメルダを側に侍らせどちらが婚約者なのかよく判らない状況。
そんなある日、グラシアナはイメルダのちょっとした悪戯で負傷してしまう。
グラシアナは「このチャンス!貰った!」と・・・記憶喪失を装い逃げ切りを図る事にした。
のだが…王太子クリスティアンの様子がおかしい。
目覚め、記憶がないグラシアナに「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」なんて言い出す。
そりゃ、元をただせば貴方がちゃんとしないからですけどね??
記憶喪失を貫き、距離を取って逃げ切りを図ろうとするのだが何故かクリスティアンが今までに見せた事のない態度で纏わりついてくるのだった・・・。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★ニャンの日present♡ 5月18日投稿開始、完結は5月22日22時22分
★今回久しぶりの5日間という長丁場の為、ご理解お願いします(なんの?)
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
すべては、あなたの為にした事です。
cyaru
恋愛
父に道具のように扱われ、成り上がるために侯爵家に嫁がされたルシェル。
夫となるレスピナ侯爵家のオレリアンにはブリジットという恋人がいた。
婚約が決まった時から学園では【運命の2人を引き裂く恥知らず】と虐められ、初夜では屈辱を味わう。
翌朝、夫となったオレリアンの母はルシェルに部屋を移れと言う。
与えられた部屋は使用人の部屋。帰ってこない夫。
ルシェルは離縁に向けて動き出す。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
10月1日。番外編含め完結致しました。多くの方に読んで頂き感謝いたします。
返信不要とありましたので、こちらでお礼を。「早々たる→錚々たる」訂正を致しました。
教えて頂きありがとうございました。
お名前をここに記すことは出来ませんが、感謝いたします。(*^-^*)
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる