27 / 47
26 王太子殿下side
しおりを挟むそれから私はエミリアと学び遊んだ。
守るべきエミリアに格好悪いところは見せられないと思えば勉強にも力が入った。
子どもらしい遊びを知らなかったエミリアに遊びも教えた。
闇を味方につけ、人をよく見て先の動きを読み、死角をつく。
部屋を抜け出す方法をエミリアに教えた時はシスターに叱られた。
笑いをこらえながら。
毎日が本当に楽しくて
小さな修道院での日々はまるで夢のようだった。
その日々に終わりが訪れたのは突然のこと。
エミリアの母エレノーラが血を吐いて
人にうつるかもしれない、恐ろしい病が疑われたからだった。
エレノーラは修道院の端の部屋に移され、看病をする時以外は近づくことを禁止された。
幼いエミリアには厳しい措置が取られた。
母エレノーラの一番近くにいたエミリアは、しばらく一人部屋に閉じ込められることになった。病気がうつっていないとわかるまで。
もちろん母を看病をすることも。母のいる部屋に入ることも。
母と一緒に寝ることも、禁止された。
そして国王の子である私は
修道院にいることすら許されなかった。
父王が他国で学んでくるように言った一年よりひと月、早く。
私は王宮に戻されることになった。
エミリアはもちろん、エレノーラも修道女たちも。
誰一人として私の素性も本当の性別も知らなかった。
王宮と――父王と連絡を取っていたのはシスターだと気づかないはずはない。
私はシスターに懇願した。
今、エミリアの側を離れることはできないと。
せめて約束の一年まであとひと月、修道院にいさせて欲しいと。
だがシスターの返事は否、だった。
「立場をわきまえなさい、と諭すべきでしょうけれど。
それよりもっとはっきりと駄目な理由を言うわ。
エレノーラの病は機会でしかない。
ここにきてからどのくらい背が伸びた?
ほっそりとしていた手足がどう変わった?
いつから意識して高い声を出さなくてはいけなくなった?
……もう性別を偽り続けるには無理があると。
ここにいることはできないと。
自分でもわかっているのでしょう?」
……返事はできなかった。
ただただ、涙を流す私にシスターは言った。
「……お別れをするのはやめた方がいい。
あの子がもし感染していたら……というだけじゃない。
あの子に泣かれたら貴方はきっとあの子を宥めるために嘘をついてしまう。
《大丈夫、またすぐに会えるわ》。
そんな残酷な嘘をね」
その通りだと思った。
私はせめて、と頼むことしかできなかった。
私がいなくなった理由を死や病といった悲しいものにしないで欲しい。
せめて……どうか、優しい嘘を。
修道院での最後の夜。
エミリアが閉じ込められている部屋を、私はこっそり訪ねて行った。
エミリアは驚いて私に出ていくように言ったが、私は少しだけだからと説得した。
「ここにいさせて私のリア。貴女が眠るまで」
ベッドに入ったエミリアの手を握ってやるとエミリアは嬉しそうに笑い、それからすぐに眠ってしまった。
どれだけ不安でいたのだろうと思うと涙が出た。
私は静かにベッドに登り、眠るエミリアをそっと抱きしめた。
その小さく薄く、加減を間違えれば壊れてしまいそうな身体をそっと抱きしめながら
私は生まれて初めて神に祈った。
このなんの罪もない、幼い女の子を守ってくださいと。
そして、生まれて初めて国王になろうと思った。
もう二度と会えなくても
この愛しい小さな女の子が
この国で幸せに暮らせるように―――――
51
お気に入りに追加
456
あなたにおすすめの小説
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
声を取り戻した金糸雀は空の青を知る
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「大切なご令嬢なので、心して接するように」
7年ぶりに王宮へ呼ばれ、近衛隊長からそう耳打ちされた私、エスファニア。
国王陛下が自ら王宮に招いたご令嬢リュエンシーナ様との日々が始まりました。
ですが、それは私に思ってもみなかった変化を起こすのです。
こちらのお話には同じ主人公の作品
「恋だの愛だのそんなものは幻だよ〜やさぐれ女騎士の結婚※一話追加」があります。
(本作より数年前のお話になります)
もちろん両方お読みいただければ嬉しいですが、話はそれぞれ完結しておりますので、
本作のみでもお読みいただけます。
※この小説は小説家になろうさんでも公開中です。
初投稿です。拙い作品ですが、空よりも広い心でお読みいただけると幸いです。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
全ては望んだ結末の為に
皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。
愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。
何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。
「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」
壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。
全ては望んだ結末を迎える為に──
※主人公が闇落ち?してます。
※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる