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8 エミリアside

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「どうしよう……」

ため息が出てしまった。

机の上には覚えなければいけない本が山積みになっている。
想像していた通り……いいえ。
想像以上に、王太子殿下の婚約者に求められることは多い。


王宮に来て数日が過ぎた。

私に与えられたのは義姉《エミリア》様が使われていたお部屋ではなく、別のお部屋とのことだった。

「不便があれば言ってね」と王太子殿下が言ってくださったけれど、あるはずもない。

あるとすれば私には豪華すぎるお部屋であるということだ。
調度品は触れるどころか近くで見るのも憚られたし、広い室内を歩くことも躊躇するほどだった。

一日のほとんどを座って過ごす椅子と、そして向かい合うこの机だけはようやく少し馴染めたところ。


私は室内を見まわした。

身代わりの私にこれほどの部屋を与えてくださるなんて。
義姉《エミリア》様の使われていたお部屋はどれほど広く豪華なのか。
私には想像もつかなかった。
やはり王宮は、私なんかがいていい場所ではないとよくわかる。

それでも……
私はここで、義姉《エミリア》様の身代わりを務めなければならない。

義姉《エミリア》様が身につけるべき教養を身につけ。
犯してしてしまった失態など、王宮の方々になかったことと忘れてもらうくらい立派な王太子殿下の婚約者とならなければならない。


―――それができたら。
義姉《エミリア》様が王宮に戻り、私は侯爵家に帰る。


王太子殿下は私に義姉《エミリア》様の身代わりを求められたけれど。
それを義姉《エミリア》様や、義母――伯母様たちが納得するわけがない。
私に、義姉《エミリア》様と入れ替われ、と言われるはずだわ。

……それでいい。

私がうまく身代わりを務め終えて侯爵家に帰れば、伯母様の気も済むわ。
従兄弟が継いだ実家や、母と私が10年過ごした修道院のことはきっともう忘れてくださる。

それでいいのよ。
どう考えても王太子殿下の婚約者は務まらない私が王宮にいても仕方がないし。

とにかく今は。
私は、王太子殿下の婚約者に求められるものを身につけなければ。
それも、なるべく早く。
義姉《エミリア》様や伯母様が我慢しきれなくなる前に。


けれど……。


……学ぶのは嫌いじゃない。むしろ知らなかったことを知るのは楽しい。
だから本を読むのは好き。

マナーを学ぶのも。
先生は厳しいけれど新鮮だし、嫌じゃない。


…………問題は……。


またため息が出てしまった。

そっと首に触れる。
震える両手で自分の腕を抱く。



私は
男性が怖い―――――。


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