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08 最終話 飛翔 ※王女アリアネルside
しおりを挟む『さようなら。レナを責めないで』
フリント様に言われた通りにそれだけを紙に書き、侍女のふりをして王宮を出た。
茶髪だったからか、近衛騎士のダルトン様と一緒だったからか。全く調べられなかった。
王宮を見たのはそれが最後。
それから私とダルトン様は、レナとフリント様と合流した。
レナは私と同じように、文官のふりをしてフリント様と王宮を出ていた。
私と一緒に行くことにしてくれたのだ。
友達や、母のハンナと別れてしまうのに。それでも。
「母の許可は取りました。母の故郷が見たいですし。何より私は、ずっとアリアネル様のお側にいたいのです」と言って。
申し訳ないと思いながらも、涙が出るくらい嬉しかった。
いくら行き先がお母様の祖国で、叔父様と一緒だとはいえ本当はとても心細かったから。
そうして私たちはお母様の弟――叔父様一行とこっそり落ち合い、国を出た。
驚くほど、あっさりと。
それはフリント様とダルトン様が協力してくださったからで、お二人には感謝してもしきれなかった。
私が長く捜索されないように手を打ってもくださるというお二人に、私は深く頭を下げお礼を言った。
レナも笑顔でお礼を言った。
私は叔父様の遠縁の娘アリア。
レナは私の友人として叔父様の屋敷で生活し始めた。
お母様から公爵家だと聞いていたので身構えていたけれど、朗らかな叔父様のお屋敷は私が考えていたような堅苦しいところではなかった。
お母様のお部屋を思い出させてくれる大きな屋敷に、
広大な敷地に作られた、初めて見た趣きの庭々。
何頭もの馬がいる大きな厩舎、数多くの家畜がいる狩猟場、何種類もの植物が育てられている広い菜園。
叔父様が私のことをどう説明されたのか、私はレナと一緒にどこへでも行き、何でもすることができた。
料理でも、掃除でも、洗濯でも。
庭の手入れも、馬に乗ることも、家畜の世話も、菜園の仕事も。
屋敷の皆さんは嫌な顔ひとつせずに私に教えてくれた。
当然あっという間に私の手は傷だらけになった。
私は嬉しくなった。私にできることはたくさんあったんだ。
もっと知りたかった。
もっと探したい。
もっと見つけたい。
―――私の、この手でできることを。
とても充実した日々。
レナというかけがえのない友人もいてくれる。
こんなに満ち足りた生活ができているのはアルノルト様のおかげだ。
――「消えてくれたらいいのに」――
アルノルト様の言葉で気づいたの。
王女としての役目を求められていないのなら
アルノルト様が消えることを望んでくれるなら
私は消えていい。
私は自由になっていいんだと。
だから私は、今日も空を見上げる。
朝、起きてから日が沈むまで。
どこまでも高く果てはなく。
吸い込まれそうな青色の空を。
私は空の下を。
この青色の下をどこまでも。どこまでも、行く。
アルノルトという名の通りの黒茶の髪。力強い大きな体躯の次期侯爵様の瞳と同じ色の下で生きていく―――――
「ありがとう」と言って微笑んだ。
私は
あの青色で世界の広さと自由を知ることができた。
end
※お読みいただき、ありがとうございました。
本編はこれにて。
次の一話(母王妃様side)で完結となります。
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