あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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06 知る ※王女アリアネルside

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「アリアネル様。陛下はああ仰いましたが、どう暮らすのかはアリアネル様自身が決めて良いのですよ」

私付きの侍女レナが後でそっと囁いてくれた。

少し笑った。
レナはいつも私の慰め方が上手。
教育係にため息を吐かれたり、熱や咳をだして寝込んだり。
情けなさで涙が出てしまった時はいつもこんなふうにレナが励ましてくれた。

私の婚姻は、私の思っていたようなものではなかった。
国のためでも王家のためでもない。
でも。もう決められたことだ。

私は結婚式に臨んだ。


結婚式は大聖堂で盛大に行われた。
その後、場所を王宮に移し披露宴も行われた。

公務らしい公務をしてこなかった王女の私には分不相応のものだけれど、王家と侯爵家。そしてアルノルト様には相応しいのだろう。

何も求められていなかった。
いる意味なんてなかった私でも、この場では花嫁だ。
いなくてはならない花嫁。

そう思えば笑うことができた。
私はアルノルト様と大勢の人からの祝福を受け、笑顔でこたえていった。

披露宴は弟王子たち、妹王女。多くの貴族。そして他国からの使者も招いての豪華なものだった。
お酒もすすめられた。
私はお酒が飲めずやんわり断っていたけれど、アルノルト様は全て受けていた。
それ以外にも、かなりお酒を飲まれていた。

お酒がお好きなのか、それとも飲まずにはいられないのか、どちらだろう―――。

そう思わずにいられなかった。

私を迎え入れるにあたり、侯爵家には十分な報酬を与えておく、とお父様はおっしゃった。
アルノルト様はお父様に私を押しつけられたのだ。
妻として、一生……面倒をみるように、と。

申し訳なさで身がすくむ思いだった。

私はこれからアルノルト様のもとで、どう暮らしていけばいいのだろう。


「飲みすぎたようですので、アルノルトを一度休憩室に連れて行ってよろしいでしょうか」

どのくらい時間が過ぎてからか。アルノルト様のご友人――フリント様とダルトン様がそう言ってアルノルト様を連れていかれた。

はっとした。
見れば、アルノルト様の足はふらついていた。

今後、自分がどう暮らしていくかばかり考えていて。
一番近くにいたのに私は、アルノルト様の異変に気づかなかった。

私は自分が恥ずかしくなった。


お父様に断りを入れて、私はレナを連れアルノルト様を追った。
どの休憩室にいらっしゃるかは少し開いたドアから声が漏れていてすぐにわかった。

そこで聞いた。

アルノルト様には愛し合うサラという女性がいること。
その女性を守るために私と結婚したこと。
そして


――「消えてくれたらいいのに」――


あのひと言を。


「ご気分が悪そうでしたので、心配で追いかけて来たのですが」

盗み聞きだなんてはしたない真似をしてしまった。
私は恥ずかしくて顔を伏せた。

「そうでしたか。申し訳ありません。心配をおかけしました。
少々飲みすぎてしまったようで。もう少し休めば平気です」

アルノルト様は立ち上がり、笑顔で言ってくださった。

次に何て言おうか考えないではなかったけれど
早くその場を後にしたくて、私は背中を向けた。

「そうですか。良かった。では私は消えますね」



アルノルト様たちのいた休憩室を後にしてただ歩いた。
レナの怒ったような声が届いていた。

それでも私はただ歩いた。
歩いて。進んで。

そして……声が出た。

「なんという方なのかしら」

「ええ!本当に!」とレナが同意してくれた。

私は思わずレナの手をぎゅっと握った。

「なんて自由な発想をされるのかしら」

「―――――は?え?あ?」

レナから妙な声が出たけれど、私は気にしていられなかった。
嬉しくて、笑いが込み上げてきたから。

私は考えもしなかったの。

初めて知ったの。


笑う私の手を、レナが握り返してくれた。


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